4日、エプソムダウンズ競馬場で行われた英オークス(G1)をレース史上最大となる16馬身差で圧勝したスノーフォール(牝3、愛・A.オブライエン厩舎)は、次走に7月17日の愛オークス(G1)を予定していることが分かった。
レースでは道中を後方待機から、最後の直線入り口にかけて持ったままで進出。残り2ハロンでGOサインが出されると、そのまま後続を置き去りにする独走劇を演じた。
2着に16馬身差をつけるという、あまりにも一方的な勝ちっぷりに鞍上のL.デットーリ騎手も驚きを隠せなかった。
「多くのクラシックを勝ってきたけど、これほど簡単だったことはない」
2017年、18年にかけて凱旋門賞(G1)を連覇した名牝・エネイブルをはじめ、これまで数々の名馬に跨って来た世界的名手をして大絶賛させたのだから、その衝撃は計り知れないほどだったのだろう。これには、当然ながら欧州の大手ブックメーカーも注目。10月3日の凱旋門賞の1番人気に急浮上した。
その一方で特筆すべきは、同馬がディープインパクト産駒の日本産馬だという事実だろう。
ディープインパクトは現役時代に凱旋門賞へ挑戦し、3位入線ののち失格。父となってもこれまで13年キズナ、14年ハープスター、16年マカヒキ、17年はサトノダイヤモンド、サトノノブレス、19年フィエールマンなど多くの産駒を繰り込んだが、ことごとく敗退した。
そして、成績が振るわない原因として挙げられたのは、タフさを求められる欧州の馬場への適性不足である。これに対し、世界でもトップクラスとされる高速、かつ軽い馬場が主流なのが日本競馬。正反対ともいえる欧州の馬場に対応することが出来ず、能力を発揮できないままレースを終えるケースが多い。
そのため、ディープインパクト産駒では凱旋門賞に通用しないといった風潮も年々強くなっていった。アーモンドアイやコントレイルのようなトップクラスの馬でさえ、凱旋門賞挑戦には積極的な姿勢を見せなかったのは、両者が高速馬場で結果を残していた背景もあるだろう。今年の凱旋門賞に登録した馬の顔触れに重巧者が揃ったのは、欧州のタフな馬場を考慮してのものだと察しが付く。
にもかかわらず、日本で生産されたディープインパクト産駒であるスノーフォールが、日本馬が苦手とする欧州の舞台で歴史的な偉業をも達成。ディープインパクト産駒の欧州クラシック制覇はビューティーパーラー、サクソンウォリアー、スタディオブマン、ファンシーブルーに続き、これで5頭目ともなった。
「好走した馬の血統にも母系にストームキャット、ガリレオ、サドラーズウェルズなど一定の傾向もありますね。ただ、やはり大きいのは育成の環境なのかもしれません。あのエルコンドルパサーも初戦はクロコルージュの2着に敗れました。その後、長期滞在することで欧州の馬場へ対応していきました。
日本ではどちらかというとステップレースすら使わずに、目標のレースに直行することも増えたほど、レース後の消耗に対して神経質になっているのが近年の傾向ですが、欧州は短いスパンで連戦することも珍しいことではありません。あのエネイブルでさえ、6連勝で凱旋門賞を制した年は、4月から月1走のペースで使われていたほどです」(競馬記者)
確かにスノーフォールにしても、昨年の1年間だけで7戦を消化。優勝した英オークスは6月4日だが、今年の復帰初戦・ミュージドラS(G3)を勝利したのは5月12日のことだった。次走に予定している愛オークスが7月17日、凱旋門賞が10月3日であることを考えると、“過保護過ぎる”印象もある日本と違って、過酷なローテーションにも映る。
だが、そんな心配をよそに快進撃が続いているということは、育成環境で欧州と日本にまだまだ大きな差があるのではないかという懸念も出てくる。
勿論、昔と違って現在の日本の環境が世界レベルにあることに疑いはないのだが、日本で育ったディープインパクト産駒がこれだけ通用しないのに対し、欧州で育った途端にこの好結果では、頭の痛い現実と向き合わざるを得ない。
このままスノーフォールが凱旋門賞を制するようなことがあると、それこそまた「日本は種牡馬の墓場」というありがたくないレッテルを貼られることになるかもしれない。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。