異色のNHKドラマ『きれいのくに』が攻めている…意味不明なシーンに仕掛けられた伏線

 異色作の多い春クールのドラマだが、中でも最大の異色作が月曜夜10時45分からNHKで放送されているドラマ『きれいのくに』だ。

 舞台は数年前に美容手術が“トレンド”として大流行し、現在では国によって禁止されている日本。そんな架空の日本で暮らす5人の高校生、誠也(青木柚)、中山(秋元龍太朗)、貴志(山脇辰哉)、凜(見上愛)、れいら(岡本夏美)の物語というのが、とりあえずは正しいのだろうが、簡単に説明することが難しいドラマである。

 ジャンルは近未来ディストピアSFだと言えるだろう。劇中には遺伝子編集も含めた美容整形が流行ったことで、男は稲垣吾郎、女は加藤ローサという美男美女の顔をした大人が多数登場する。よくあるSFドラマなら、そんな歪んだ世界に対して主人公たちが反旗を翻したり、この世界からの脱出を試みようとするのが定番の展開だが、本作はそういった方向には向かわない。

 代わりに描かれるのが、この世界で容姿の問題や人間関係に頭を悩ます高校生たちの姿である。

 たとえば、れいらはパパ活で知り合った男に殴られるのだが、そのことに対する誠也たちの距離感が独特で、彼女を叱るわけでも男を非難するわけでもなく、心配は一応してはいるがどこか冷淡で、優しいとも残酷とも感じる微妙な接し方だ。

 主人公が恋人や友達のことで簡単に怒ったり泣いたりする青春ドラマに見慣れていると、本作の高校生5人の姿は、人間の皮をかぶった別の生き物の生態を見ているような気持ち悪さを感じる。

 だが、私たちだって、職場や学校の友達と接するときに、いつも感情を露わにして本音で話しているかというと、そういうわけではない。たいていのことは無関心だし、適切な距離を取ることで円滑な人間関係を維持している。

 その意味で、本作の描写はとてもリアルだ。つまり、『きれいのくに』は、架空の日本で暮らす高校生たちのドキュメンタリーを見せられているようなドラマだと言える。

月曜に移動しても攻める「よるドラ」

 本作の制作統括は、連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)や大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(同)といった宮藤官九郎作品を手がけた訓覇圭。脚本は加藤拓也。

 NHKのよるドラ枠は、土曜の深夜枠(23時30分放送)として2018年にスタート。2019年に若者向けドラマ枠としてリニューアルされ、三浦直之、玉田真也、高羽彩といった劇作家を積極的に起用することで攻めた作品をつくってきたのだが、本作の加藤拓也も劇団た組を主宰する27歳の新鋭だ。普通のドラマならブレーキがかかりそうなラディカルなストーリーや性描写が許されるのも、よるドラだからだろう。

 今作から放送日が月曜に移動したが、テイストは変わらず、より攻めた内容となっている。

 何より驚くのは、次がどうなるのかまったく予想がつかないストーリー展開である。

 実は、『きれいのくに』は美容師の橋本恵理(吉田羊)と税理士の宏之(平原テツ)が主人公の夫婦の物語としてスタートした。再婚同士の2人は子どもこそいなかったが、優雅な生活を送っていた。しかし、第1話の最後で恵理は10年前の30代の姿(蓮佛美沙子)に変わってしまう。

 妻の年齢が若返ったことは夫の宏之しか認知していないため、自分の心がおかしいのか? と宏之は悩む。すると、恵理はさらに若返り、20代の姿(小野花梨)に変わってしまう。若返ることに困惑する宏之に対して、男は若くてかわいい方が好きなくせに、なぜいけないんだと恵理は激しく当たるようになる。

 その後、物語はどうなるのか? と固唾をのんで見守っていると、第3話の途中で、これまでの話は高校生たちが学校で観ていた、国が制作した啓発映画だったことが判明する。つまり、3話の途中までまったく別の物語が展開されていたのだ。

 今後、恵理と宏之が再登場するかは不明で、ひょっとしたら、また違うドラマになる可能性もゼロではない。たいていのドラマは1話を見れば作品のジャンルや方向性がわかるものだが、ここまで次に何が起きるのかわからないドラマは初めてである。

 物語の見せ方も良い意味で不親切だ。劇中では、恵理と宏之が映画監督(稲垣吾郎)にインタビューされている映像が挟み込まれるのだが、40代の恵理は「橋本さん(43)」、蓮佛美沙子が演じる30代の恵理のシーンに変わると「佐川さん(33)」と、名字だけがテロップで登場する。

 そのため、当初は別人だと思って見ていたのだが、1話の最後まで見てからもう1回見直すと、実は2人は同一人物で、違う時間軸の話だったとわかる仕掛けとなっている。

 これは初歩の初歩で、本作には前後のつながりがよくわからない台詞や意味不明のシーンが多いのだが、何度も見直すと「このシーンはこういう意味だったのか」と伏線がつながるようにつくられている。その伏線を見つけるのが楽しくて、何度も何度も見返してしまう。

 だから、本作は録画必須だ。初見は「何なんだこの話は?」と困惑自体を楽しみ、二度目以降は「伏線探し」を楽しんでほしい。

(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)