文字どおり「力くらべ」の一戦となり、見ごたえのあった今年の春の天皇賞(G1)は、福永祐一騎手に導かれたワールドプレミアの優勝で幕を閉じた。
勝者がいれば敗者もいるのが、勝負事の常。親子騎乗で注目を集めた横山一家の成績は、父・横山典弘騎手のオセアグレイトが13着。弟・横山武史騎手のウインマリリンは5着。兄・横山和生騎手のジャコマルは最下位の17着に沈んだ。
当日の阪神競馬場では横山和騎手は3頭、横山武騎手は7頭と、複数の馬に騎乗。息子たちとは対象的に、父・横山典騎手の当日の騎乗馬はオセアグレイトただ一頭だった。春の天皇賞へ出走するために「1日1鞍」の限定騎乗をみせた渾身の“一鞍入魂”も、結果は13着に終わった。
その前日、土曜日の阪神競馬場でも同じ「1日1鞍」となったのが、現在リーディング2位の川田将雅騎手。土曜阪神メイン天王山Sでウルトラマリンに騎乗した川田騎手は、当日はこのレースしか騎乗せず、2番人気に推されるも結果は6着に終わっている。
関東を代表するベテラン横山典騎手や、トップジョッキーの地位を築いた川田騎手ら、毎週たくさんの騎乗依頼が舞い込むトップジョッキーたち。彼らが選び抜いた1頭で、厳選したレースにしか乗らない「1日1鞍」案件が発生するケースはそう珍しくない。
競馬ファンの目線では、こうした「1日1鞍」の限定騎乗は“勝負駆け”のサインとも言われている。多くの騎乗依頼を断り、厳選した1頭で挑むレースは好勝負必至……と予想したこともあるはずだ。
実際のところはどうなのか。
今年4月まで、川田騎手の「1日1鞍」は直近5年内で6回発生。例えば2020年5月31日、日本ダービー(G1)では7番人気ガロアクリークで挑むも6着に終わっている。
ほか2018年12月23日の有馬記念(G1)では、2番人気キセキで挑むも5着。2017年8月27日、キーンランドC(G3)の「1日1鞍」騎乗は、2番人気ソルヴェイグで2着。同年6月4日は安田記念(G1)で「1日1鞍」。7番人気サトノアラジンで見事に勝利している。
集計すると、6回のうち1着1回、2着1回、3着0回。勝率16.7%、連対・複勝率ともに33.3%を好成績とみるか、“一鞍入魂”の割には案外か、意見の分かれるところだろう。
横山典騎手の「1日1鞍」は意外と多かった。
今年4月までの戦績では、直近5年内で23回も発生。しかし23回のうち1勝も挙げることなく、2着1回、3着4回という成績が残っている。
その2着は2019年4月29日、新潟大賞典(G3)ミッキースワローで記録したもの。3着4回のうち1回は2017年8月27日のキーンランドC(G3)で記録。ほか3回は新馬戦、未勝利戦、1勝クラスで発生していた。
重賞に対しての「1日1鞍」であれば、“勝負駆け”のニオイを感じるが、未勝利戦や1勝クラスで発生した場合は、余計にその不気味さが増す。特に横山典騎手の場合は「なにを考えているか解らない」魅力もあるだけに、今後も「1日1鞍」騎乗に注目したい。
リーディング上位騎手のなかで“一鞍入魂”騎乗が目立つのは、やはり武豊騎手だ。近5年の「1日1鞍」は、わずか2回。2017年12月24日と28日の2日間で、ともに舞台は中山競馬場だった。
24日の有馬記念(G1)では、圧倒的人気を集めたキタサンブラックで堂々の1着。28日はホープフルS(G1)で、4番人気ながらジャンダルムを2着に持ってきた。武豊騎手らしいといえばそれまでだが、渾身の“一鞍入魂”で、見事に好結果を残している。
ちなみにC.ルメール騎手は近5年で「1日1鞍」は一度もなし。冒頭の福永騎手も、近5年でわずか2回。2020年4月18日の利根川特別では6番人気トレンドラインで5着。2019年10月21日東京の未勝利戦では、1番人気ハーレムシャドウで4着と、発生回数も成績も微妙な結果が残っている。
野球でいうところの一球入魂ならぬ“一鞍入魂”。
残念ながら「期待しているような成績ではなかった」と言わざるを得ない。もしかすると競馬ファンの “一鞍入魂”騎乗のドラマを見たいという願望が、過剰な期待を生んでいるだけかもしれない。
いわゆる“全集中”でレースに挑む騎手たちの思惑はいかに……。それを考えるのが競馬予想の楽しさでもあり、難しさでもある。これからも“一鞍入魂”騎乗は、競馬ファンを悩ませるファクターとなることは間違いないだろう。
文=鈴木TKO
<著者プロフィール>
野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界へと電撃参戦。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか、徹底的に追求していきます。