去る4月5日(現地時間4日)、対ホワイトソックス戦に「2番・投手」でスタメン出場したMLBエンゼルスの大谷翔平選手。先発マウンドに立って最速163キロを記録。さらに初打席では137mの特大本塁打を放つなど、世界中の野球ファンを驚かせたニュースは競馬ファンの耳にも届いているだろう。
世界最高峰のメジャーの舞台で、投手と打者の両方をこなす驚愕のパフォーマンスをみせ、まさに“リアル二刀流”を実現した大谷選手に対し、競馬界にも“リアル二刀流”は存在する。
今回は競馬の主役である馬たちはもちろん、競馬に関わるホースマンにも焦点を当ててみたい。
まずは芝とダートの両方をこなす”二刀流”馬で、記憶に新しいのがモズアスコット。2018年の安田記念と、2020年のフェブラリーS(ともにG1)を制している。ほかにも、残念ながら今年1月に天に召されたクロフネは、2001年のNHKマイルCとジャパンカップダートの両G1を制覇。さらにアグネスデジタル、イーグルカフェ、アドマイヤドンら、芝・ダート両G1制覇を達成した馬は、長い中央競馬の歴史でも5頭しかいない。
しかし、芝・ダートの二刀流といえば、パイオニア(先駆者)としてあの一頭を忘れるわけにはいかないのが、ホクトベガだ。
1993年にデビューした同馬は、牝馬クラシック候補として、桜花賞(G1)、オークス(G1)に出走するも、同じ星の名を持つベガに完敗。辛酸を嘗めた。しかし秋のエリザベス女王杯(G1)では、9番人気ながら優勝。「ベガはベガでもホクトベガ!」の名実況を覚えているファンも多いはずだ。
翌1994年、古馬になってから成績が伸び悩み、障害転向も検討されたホクトベガ。転機が訪れたのは翌95年。川崎競馬場のエンプレス杯(G1・当時)で優勝して優れたダート適性をみせると、96年には、川崎記念(G1)を皮切りに地方・中央ダート重賞7連勝を達成。なかには当時、まだG2だったフェブラリーSも含まれるなど、牡馬も蹴散らす「砂の女王」に君臨した。
今から50年以上前には、長距離と短距離をこなした”二刀流”馬もいた。
1967年にデビューしたタケシバオーは、翌年の皐月賞やダービーのクラシックロードでは2着続きも、古馬になってから3200メートルの天皇賞・春で優勝。その後は、現在のスプリンターズS(G1)の前身レースでもある「英国フェア開催記念」というレースで、中山競馬場の1200メートルをコース新記録で快勝した。
中央競馬初となる賞金1億円を達成したタケシバオーの国内成績は、通算27戦16勝(2着10回3着1回)。2004年に殿堂入りを果たしている。
レジェンド馬たちに続いて、ホースマンからは、やはり平地と障害の両レースをこなす”二刀流”騎手を紹介したい。
デビュー36年目を迎えた熊沢重文騎手は、元祖”二刀流”ジョッキー。4日現在で通算1044勝を挙げている大ベテランを知らない競馬ファンはいないだろう。
1991年、ダイユウサクで制した有馬記念(G1)など平地重賞は16勝している一方で、2012年マーベラスカイザーで中山大障害(J・G1)を優勝するなど、ジャンプ重賞では15勝している。
特に熊沢騎手は、障害レースにもグレード制が導入された1999年以来、平地と障害の両G1を制した史上初のジョッキーとなった。また柴田大知騎手も、2011年と12年の中山グランドジャンプと、2013年のNHKマイルCの両G1を制して、“リアル二刀流”を体現している。
全米の野球ファンを驚嘆させた大谷選手と、芝・ダート両G1を制した熊沢騎手と紹介したレジェンド級の馬たち。ともに共通するのは、その「危険度」だ。
投手と野手を兼任する大谷選手のトレーニングは、投手と野手の両方をこなさなければならず、ケガをする可能性は絶対的に高い。
一方の競馬界では、騎手は平場のレースはもちろん、障害レースに騎乗することで、危険度のリスクは間違いなく上がる。
脚元の健康こそ、自らの「生命線」といえる競走馬もしかりだろう。どちらか一方に専念することなく、芝やダートを全速力で駆け抜けることで、脚部にダメージを受けることは想像に難くない。
こうした背景をモノともせず、抜群のパフォーマンスをみせる”二刀流”の達人たちからは、まさに“人智を超えた”パワーを感じずにはいられない。
ちなみに熊沢騎手の持つ障害歴代2位の251勝は、星野忍さんの最多記録254勝まであと3つ。こうした記録に注目するだけでなく、我々ファンは常にリスペクトを忘れずにいたい。