『その女、ジルバ』なぜ絶賛一色?「ジジババばかり」で何がおもしろいのか

 放送直前、番宣番組に出演した主演女優・池脇千鶴の「劣化騒動」が話題になったことが懐かしく感じてしまう。それほどスタート当初から感動と高評価の声が集まり続けている『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ系)。

 ただ、「女は四十(シジュー)から」のキャッチコピーにあるように、同作は女性の物語。称賛の声も、その多くを女性が占めていて、男性はいまだにピンと来ていない人も少なくないだろう。

 それに出演者を見ると、若者視聴が見込まれる週末の深夜とは思えないほどの高齢ぶり。くじらママ役の草笛光子(87歳)、ひな菊役の草村礼子(80歳)、チーママ役の中尾ミエ(74歳)、エリー役の中田喜子(67歳)、ナマコ役の久本雅美(62歳)、みか役の真飛聖(44歳)、スミレ役の江口のりこ(40歳)と、主要女性キャストはすべて主人公・笛吹新役の池脇千鶴(39歳)より年上だ。

 男性キャストも、マスター役の品川徹(85歳)を筆頭に、常連客・滝口役の梅垣義明(61歳)、花山役の芋洗坂係長(53歳)、新の元カレ・前園真琴役の山崎樹範(46歳)、石動良一役の水澤紳吾(44歳)、謎の男・白浜俊輔役の竹財輝之助(40歳)も池脇より年上。ネット上で「ジジババばかり」と揶揄する声を見かけるほど中高年ばかりにもかかわらず、なぜ支持を集めているのか。

描かれているのは人生が変わる“紙一重”

 主人公の新は、結婚話が破談になった後、恋とは無縁の寂しい日々を過ごし、仕事でも大手百貨店から「姥捨て」と言われる物流倉庫に左遷。野暮ったい服やメイク、肉のついた顔や猫背の後ろ姿から、人生をあきらめている様子が伝わってきた。しかし、40歳の誕生日に熟女バー「OLD JACK & ROSE」に出会い、笑顔と生きる力を取り戻していく。

 寂しい日々を過ごしていた新と、熟女バーで輝き始める新は、まさに紙一重。小さな気づきを得ることで「人はこれだけ変われる」「明るい気持ちで生きていくことができる」ことを当作は示している。

 それは同じ物流倉庫で働く、みか、スミレとのエピソードも同様。当初、百貨店からの出向組である新、みかと、倉庫の正社員でグループリーダーであるスミレの間には大きな壁が存在していたが、「OLD JACK & ROSE」でのやり取りを通して同じ40歳独身であることを知るなど意気投合し、すぐに親友のような関係性になった。両者の間にあった大きな壁を感じて敵対関係のままか、それを乗り越えて親友になるかは、やはり紙一重だったのだ。

 第5話で、みかが故郷に残した母親と生きるために倉庫を辞めて実家に帰ったことも、第6話で新に告白しようとしていた石動がちょっとしたきっかけでスミレへの恋心に気づいたことも、同じように紙一重。派手な展開があるわけではなく、普通の女性たちが日常の小さな言動によって新たな道に気づき、一歩を踏み出していく様子が穏やかに描かれている。

「この先いいことなんてあるのかな」「今さら何かが変わることはなさそう」などと、絶望しないまでも希望を抱けなくなっている人々にエールを贈るような作品なのだろう。その意味で当作は女性に限ったものではなく、男性の心も癒す作品と言える。

「人に歴史あり」を醸し出す名優たち

 そんな紙一重の人生模様を描けるのは、冒頭に挙げた中高年の俳優たちによるところが大きい。

「OLD JACK & ROSE」は一見、「こんなバーはあるのか?」と感じるファンタジー空間と思わせつつ、そこにいる人々にけれんみはなく、いずれも地に足のついたキャラクター。底抜けに明るい人たちばかりなのだが、俳優たちは決して誇張した演技をしているわけではなく、自然体のような姿を見せることでリアリティを感じさせている。

 実際、視聴者は説明セリフやナレーションがなくても、その人物の性格や背景を想像できるし、紙一重の出来事によって一喜一憂してきたであろう人生もほのかに感じられる。映画中心で民放連ドラ出演がほとんどない池脇と、叩き上げの江口のりこ。世代屈指の実力派も、草笛光子、草村礼子、中田喜子らのレジェンドも、その佇まいから「人に歴史あり」「伊達に長く生きているわけじゃない」という人物像を醸し出しているのだ。

 コロナ禍で重苦しいムードが続き、何かしらの不安を抱えながら生きる人が多い中、身近なところに手を差し伸べ、心を軽くしてくれる人がいる。今は厳しい日々でも、幸せな日々とは紙一重にすぎないから明るく生きていけばいい。新やスミレ、くじらママやエリーらを見ているだけで元気をもらえる人が多いのは、そんな等身大のメッセージを受け取っているからではないか。

 つまり、『その女、ジルバ』は「ジジババばかりなのにおもしろい」のではなく、「ジジババばかりだからおもしろい」。当作は「本物の実力派俳優を揃えれば、突飛な設定や展開に頼る必要がない」ことを実証している。

 2月20日放送の第7話では、ジルバと関係のある謎の男・白浜が本格参戦。演じる竹財輝之助はドラマ出演を重ねるほか、主演映画『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』の公開を26日に控えるなど注目俳優であり、さらなる反響を集めるだろう。

 一方、新は弟・光(金井浩人)のカフェオープンを手伝うほか、ずっと両親に言えなかった左遷やバーでのバイトをついに伝えるなど、一歩踏み出す姿が描かれるという。今冬は、男女入れ替わり、タイムスリップ、ゾンビなどのファンタジー作が目立つが、何気ない日々を描くだけでも視聴者を引きつけられる当作の価値は高い。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。