終盤を迎えた今だからこそ、『恋する母たち』(TBS系)というタイトルがより危うげに見えてくる。コロナ禍の深刻さが増す中、いい大人が恋にうつつを抜かしていていいのか。それとも、こういう時期だからこそ、ドラマくらいはファンタジーとして背徳の恋を描くべきなのか。
賛否が分かれた分、視聴率はかなり低いが、ネット上の声を見る限り、「刺さる人には深く刺さるドラマ」となっているのは間違いなさそうだ。実際、ツイッターには女性たちが楽しみを共有するように書き込まれたコメントが多く、たとえば赤坂剛(磯村勇斗)がホテルで“全裸待機”したシーンなどのツッコミどころも含めて、熱の高さを感じさせる。
そんな危うげなドラマを手がけたのは、『東京ラブストーリー』『Age,35』『小早川伸木の恋』『同窓生~人は、三度、恋をする~』らを手がけた原作者・柴門ふみと、『四つの嘘』(テレビ朝日系)、『セカンドバージン』(NHK)、『コントレール~罪と恋~』(NHK)、『知らなくていいコト』(日本テレビ系)らを手がけた脚本家・大石静。これらはいずれも不倫を扱った作品であり、あらためて女性の業を描く上で、これ以上ないコンビの作品と言える。
2人の作品に共通しているのは、リアリティ度外視のショッキングな展開やシーンを連続させながら、それでいて女性の共感を集めてしまうこと。つまり、それだけエンタメ性が高い書き手なのだが、前回放送の第7話でも「もはや行き止まりか……」と虫の息だった3人の恋がにわかに好転するシーンを描いて、女性の心をグッとつかんでいた。
ハッピーエンドに向かう母たちの恋
まず目を引いたのは、今昔亭丸太郎(阿部サダヲ)による「きっと息子も、まりちゃんや、まりちゃんの子どもたちと仲よくできる気がするんだ。結婚しよう」というプロポーズ。これに蒲原まり(仲里依紗)は、「ありがとう。丸太郎さんと結婚したい。でも今は弱り切っている夫を見捨てることができない。夫が立ち直ったら離婚する。だから待っててほしい」と今できる精一杯の返事で答え、丸太郎は、「弱っている男を見捨てられないか。任侠だね。惚れ直したよ。いつでもおいで、待ってるから」と大人の余裕を見せた。
次に、石渡杏(木村佳乃)を含めた3人で飲んだ帰り道、ずっと会えなかった寂しさを埋めるように、タクシーの車内で静かに、でも強く指を絡める林優子(吉田羊)と赤坂。優子を見送るときも赤坂は、あきらめ切れないような表情を見せていた。
極めつけは、第7話終盤で見せた杏と斉木巧(小泉孝太郎)のやり取り。斉木は杏の通うヨガ教室に潜り込み、「一緒にいるとイライラするんだけど、会えないともっとイライラするから会いに来たんだ」と声をかける。さらに、「必ず(試験に)受かって建築家になる。2年の間、収入は少なくなるけど、俺のそばにいてくれないかな。気難しいこと言わないようにするから」と破局宣言から一転してプロポーズし、杏は「(吹き出しながら)うふっ……はい」と受け入れた。
最後は早くも杏と斉木の結婚式のシーンが映され、まりが「私も丸太郎さんと結婚したいな……」、優子が「赤坂くんは有馬さんと結婚するんだろうか……」と心の中でつぶやくシーンで終了。
いずれも母たちの恋が成就しそうな期待感を漂わせていたが、柴門ふみと大石静の作品がこのまますんなりハッピーエンドを迎えるはずがない。とりわけ優子とまりの恋は、原作通りであれば、このあと驚きの展開が待っているだけに期待していいだろう。
原作より明るくカラッとしたトーン
もちろん第7話でも柴門ふみと大石静がハッピーだけで終わるはずがなく、強烈なシーンがしっかり盛り込まれていた。
蒲原繁樹(玉置玲央)から「16年間、誰の金で飯食ってきたと思ってるんだ」と吐き捨てられたまりは、「あなたこそ16年間、誰があなたのパンツ洗ってたと思ってるのよ。いつも私の洗ったパンツ、別の女の場所で脱いだからこういうことになってるんでしょ」と怒りのカウンターを浴びせ、長女が「やめて。ケンカしないで」と悲痛な叫びをあげる修羅場が描かれた。
また、赤坂をめぐる恋敵の有馬ひとみ(結城モエ)から「おかげさまで私今、赤坂さんとおつき合いしています」と勝利宣言された優子が「そうなんだ。よかったわね」と返し、さらに有馬が「林さんが身を引いてくださったおかげです。ありがとうございました」とたたみかけても、優子は「お幸せに」と平然を装うドロドロのシーンもあった。
かたや浮気された女性の激しい怒り、かたや男を奪い取った女性の静かな勝利宣言。どちらも、身に覚えはない女性視聴者にとっても、「そうそう」と共感したくなるものが描かれているのだ。
とはいえ、原作漫画と比べるとドラマ版は、これでもマイルドに描かれてきた。たとえば原作漫画では、杏の元夫・石渡慎吾(渋川清彦)の母・石渡綾子(夏樹陽子)は、もっとエキセントリックで杏に厳しい言葉を投げかけているし、まりはもっと浮ついたキャラクターで、優子はもっと性欲の強い設定だ。
作品全体を見渡してみても、原作漫画は全体的にしっとりとしたトーンで話が進んでいくが、ドラマ版はどこか明るくカラッと浮世離れしていて、現実のシビアさを感じさせない。これはしっとりとしたトーンより、カラッとしたトーンを好む現在の視聴者感情に寄り添った対策であり、硬軟織り交ぜた作品を得意とする磯山晶チーフプロデューサーによるところなのかもしれない。
大御所・大石静の描く結末に期待
不倫を扱ったTBSの『金曜ドラマ』と言えば、古くは『岸辺のアルバム』『金曜日の妻たちへ』、その後も『誘惑』『青い鳥』などが放送されてきたが、21世紀に入ってからライトな物語が増え、ほとんど放送されなくなっていた。それだけに『恋する母たち』の「母親だって恋をする」「女性はそういう性を持った生き物」「新たな出会いや恋を本能的に求める」などの世界観は、なつかしさと新鮮さを同時に感じさせている。
今年は東出昌大や渡部建の不倫に猛批判が浴びせられたように、「絶対に許されない」という風潮がますます強くなった。だからこそドラマの中では、しがらみを振り切って自由に恋する杏、優子、まりの姿がより輝いて見え、アバター的な目線から楽しむことができるのだろう。
余談だが、原作漫画の連載中、各局から編集部にドラマ化のオファーが殺到していたという。結局TBSの『金曜ドラマ』が争奪戦を勝ち抜いたのだが、原作漫画のラストは、あえて曖昧さを残した結末にしていただけに、ドラマ版はその先まで描き、メッセージが込められているのではないか。大石静なら、それくらいの脚色はお手の物だろう。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)
●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。