いまだ、その思いは熱く燻ぶり続けているようだ。
この秋、「平成の競馬ブーム」を呼んだディープインパクト以来となる、無敗三冠に挑むコントレイル。その主戦となる福永祐一騎手は、これまで数々の大レースを制し、武豊騎手に次ぐ知名度を誇る大スターだ。そんな名手にとっても、自身初の三冠への挑戦はこれまでキャリアの集大成になるに違いない。
そんな福永騎手にとって今なお、「No.1ホース」として心の中に強く残っている馬がいる。キャリア5戦4勝で2017年に引退したシルバーステートだ。
「規格外の馬でしたね。エンジンの性能に関してはピカイチでした。調教から動き過ぎて、一杯に追えないくらいの圧倒的な排気量がありました」
福永騎手が、度重なる故障の末に無念の引退となった“未完の大器”への思いを語ったのは、『DMMバヌーシー公式チャンネル』で今月4日にアップされた動画だ。
「最終的に競走馬として重賞を勝つこともなかったですし、大成することはできなかったですけど、そのエンジンの性能にボディがもたなかったというのが、僕の印象です」
2歳夏のデビュー戦こそ、後のG1馬アドマイヤリードにアタマ差後れを取ったものの、未勝利戦を5馬身差で圧勝。続く紫菊賞(500万下)を単勝1.1倍に押されながらも、ほぼ馬なりのまま上がり3ハロン32.7秒の末脚で突き抜けると、一気にクラシック戦線の中心に躍り出た。
しかし、翌年に屈腱炎を発症し、クラシック挑戦を断念。4歳5月に迎えた復帰戦のオーストラリアT(1000万下)は約1年7カ月ぶりのレースとなったが、終始持ったままで楽に抜け出して3馬身差の完勝を飾った。
「(思い出のレースは)準オープンを勝った時ですかね。(スピードの違いで)逃げたんですけど、タイムが凄く速かった。馬なりで勝ったんですけど。今でこそ1800mを1分45秒とかで普通に走ったりしますけど、あの時にはそんなに多くなかったですし、ちょっと衝撃的でしたね」
そう福永騎手が振り返った垂水S(1600万下)も、終始ほぼ馬なりのままの楽勝劇。それで勝ち時計の1:44.5が当時のレコードタイ記録なのだから、福永騎手が驚くのも当然だろう。
「脚元はなかなかもたなくて休みがちでしたけど、規格外の馬でしたね」
しかし、シルバーステートはその後、再び屈腱炎を発症……これが現役最後のレースとなってしまった。まさに歴史に残る未完の大器といえるだろう。
「福永騎手のシルバーステートに対する思い入れは相当なもの。このレース(シルバーステートが勝った垂水S)の約3カ月後に行われたジョッキーフェスティバルの席でも『これまで乗った中で一番、心に残っている馬は?』という質問に『シルバーステートですかね』と答え、『心に残るというか、あれが今まで乗ってきた中で一番良い馬』と最高の評価を与えていました。
今年、無敗の三冠に挑むコントレイルと、どちらが上なのか――。機会があれば、ぜひ聞いてみたいところです」(競馬記者)
当時の福永騎手はまだコントレイルと出会う前だったが、すでに日米オークスを制し、サートゥルナーリアらの母としても名高いシーザリオ、その息子で菊花賞(G1)やジャパンC(G1)を制したエピファネイア、ドバイターフ(G1)を勝った際、世界No.1の評価を受けたジャスタウェイなど、数々の歴史的名馬に騎乗している。
それらを差し置いて「今まで乗ってきた中で一番良い馬」と熱く語ったシルバーステートが如何に大きな可能性を秘めた馬だったのかは、もはや語るまでもないだろう。
ただ、福永騎手とシルバーステートの物語はまだ終わっていない。本馬は引退後に種牡馬入りしており、来年2021年にはその産駒たちがデビューを迎える。
「楽しみ、楽しみ。そりゃ、楽しみです」
『DMMバヌーシー公式チャンネル』の動画内でも、その期待を隠さなかった福永騎手。「オープン特別も勝ってない馬が、あれだけの種付け頭数が来るって、普通考えられない」と語った通り、シルバーステートは初年度から191頭の種付けが行われるなど、競走実績を大きく上回る人気を集めている。
「どういった仔を出してくれるのか、非常に楽しみですね」
そう語った福永騎手が目指すのは当然、父の無念を晴らすような大活躍だろう。まずはこの秋、コントレイルで歴史的偉業を達成し、騎手としてまた1つ大きな階段を上った姿で、シルバーステートとの“第2章”を再開したいに違いない。