複数の女性と不倫関係にあったことを「週刊文春」(文藝春秋)に報じられた、お笑いコンビ、アンジャッシュの渡部建。無期限の芸能活動自粛となり、テレビとラジオ合わせて8本のレギュラーを失うこととなった。バラエティー番組関係者はこう話す。
「売れっ子だっただけに、業界への影響は少なくないですね。渡部さんはスタッフの意図を汲んで動いてくれるタレントさんなので、制作サイドとしてはとてもありがたい存在だったんですよ。必ずしもカリスマ性が高いわけではなかったものの、だからこそどんな番組にもフィットするタイプ。よくいえばユーティリティープレイヤーですが、“スタッフの言いなり”などと小バカにする関係者もいないではなかったですが」
そんな渡部だが、元々はむしろトンガッた芸人だったという。すでに有名になってからは、“無類のグルメ好き”“あの佐々木希を射止めたタレント芸人”といったイメージで語られることの多い渡部の、お笑い芸人としてのキャリアをあらためて眺めてみよう。
アンジャッシュはあまりガヤには参加せず、とにかくネタで存在感を発揮するタイプ
「そもそも『アンジャッシュ』というコンビ名の由来は、喜怒哀楽を表す英単語の頭文字を並べた“JASH”に、否定を表す“UN”を付けて、“UNJASH=アンジャッシュ”ですからね。相方の児嶋(一哉)さんは人力舎の養成所・スクールJCAの1期生で、後輩からは恐れられた存在だったといいます。客にも媚びないスタイルのコンビでしたよ」(お笑い業界関係者)
アンジャッシュの結成は1993年。当時は『ボキャブラ天国』(フジテレビ系)が人気を博しているころで、東京の若手芸人シーンもかなり盛り上がっていた。そんななか、アンジャッシュはクールなコント師として評価を上げていく。
「あまりガヤには参加せず、とにかくネタで存在感を発揮するタイプ。ボキャブラからは、爆笑問題、ネプチューン、くりぃむしちゅー(当時は「海砂利水魚」)などがブレイクしていきましたが、アンジャッシュはキャラクターが地味だったこともあり、世間的な知名度はまだまだでした」(前出・お笑い業界関係者)
1999年から始まったNHK『爆笑オンエアバトル』(NHK総合)で何度もチャンピオン大会に進出するなど、主にネタで評価されていたアンジャッシュ。転機となったのは、2003年スタートの日本テレビ系『エンタの神様』への出演だった。
“スタイリッシュなコント”が売りだったアンジャッシュが、わかりやすい演出を受け入れた
『エンタの神様』では、芸人のネタに字幕を入れたり、キャラクター紹介のテロップを入れたりするなど、視聴者に向けてとにかくわかりやすくする演出が多かった。しかし、そういった形でネタに手を加えることは、こだわりが強い芸人からは、当然のごとく反発される。
渡部は自身のYouTubeチャンネルで『エンタの神様』出演時について語っており、やはり当初はわかりやすくするための過剰なテロップなどを拒否していたと明かしている。しかし、『エンタの神様』のスタッフは、“毎分視聴率”という証拠をつきつけながら、説明を入れてわかりやすくすることで視聴者を離さないという事実を提示。いやいやながらもコントに説明を入れたところ、実際に毎分視聴率が上がり、アンジャッシュは番組の意向を受け入れざるを得なくなっていったという。そして最終的には、ネタの演出をエンタ側に任せることになったのだ。
当時のアンジャッシュについて、エンタメ事情に詳しいフリーライターの大塚ナギサ氏はこう振り返る。
「いわゆる“スタイリッシュなコント”が持ち味だったアンジャッシュが、『エンタの神様』で設定やキャラクターの説明が入ったネタをやっているのを見て、本当に驚きました。アンジャッシュのあの“すれ違いコント”は、微妙な行き違いから生まれる違和感をじわじわ楽しむもの……という認識でしたからね。説明を入れると、じわじわ感もなくなるし、思わぬ方向へ話が展開したときの快感も薄れる。テロップを入れることで、確かに伝わりやすいものにはなっていましたが、アンジャッシュの持ち味は失われていったような気もします」
“禁じ手”を犯してしまった『エンタの神様』での過剰演出
さらに『エンタの神様』でのアンジャッシュは、もう一歩踏み込むこととなる。本来は2人だけで展開していたはずのコントに、3人目、4人目が登場するようになったのだ。
「絶妙な設定を2人だけで展開させていくのがアンジャッシュの“上手さ”だったはずなのに、後輩芸人などを3人目、4人目などとして出演させて、よりわかりやすく話を展開させていたのを見て、目を疑いましたよ。アンジャッシュの場合、設定が複雑なネタも多く、2人だけでは表現しきれない部分があるのは事実です。でも、2人以外の登場人物を想像させて展開するのが、そもそもコントというものですからね。もちろん、お笑いの単独ライブなどでは、メンバーではない人物が登場するネタも珍しくはないんですが、テレビでそれをやるのはかなりレア。“アンジャッシュ”という名前で出てきて、2人以外の人が出てきたら、“これはアリなのか?”と思ってしまいます。ある意味“禁じ手”なのではないか……という感覚も当時はありました」(前出・大塚氏)
『エンタの神様』全盛時のアンジャッシュは、まだブレイク前。『エンタの神様』以外の仕事は、そこまで順調ではなかった。そんななかで、それまでの芸風を変えてでも『エンタの神様』にすがりたい……という気持ちもあったのかもしれない。
「その後、渡部さんはJ-WAVEでラジオ番組を持つようになったり、グルメキャラを全面に押し出すようになったりするんですよね。つまり、ネタにこだわっていた芸人から、よくもわるくも“大衆迎合タイプ”へと本格的にシフトしていったということ。同時に、児嶋さんがいろいろな番組でイジられるようになり、渡部さんが上から目線で児嶋さんをツッコむ展開も増えていった。その結果、コンビ間のパワーバランスも渡部さんに重心が移っていったのでしょう。今回の不倫騒動も踏まえて考えれば、『エンタの神様』においてネタへの過剰演出を許したことは、いろいろな意味で、アンジャッシュの大きな転機だったと思います」(前出・お笑い業界関係者)
『エンタの神様』での成功体験がなかったら、今回の“不倫事件”もなかった?
こうして、よくいえば“ユーティリティープレイヤー、悪くいえば“スタッフの言いなり”という、現在の渡部のありようが完成したのではないか。
「児嶋さんも、渡部さんの代わりに出演したラジオ番組(J-WAVE『GOLD RUSH』)で話していましたが、渡部さんは仕事も私生活も順調で、天狗になっていたのかもしれない。そして、だからこそさらに渡部さんの立場が強くなっていって、児嶋さんを含めて周囲が助言をすることもできなくなっていた。それもこれもやっぱり、“大衆迎合タイプ”となってブレイクしたことが背景にあるように思えてなりません。もしも、『エンタの神様』での成功体験がなければ、もっとネタやお笑いというものに真剣に向き合って、こういったスキャンダルにはならなかったのでは……とも考えてしまいますね」(前出・お笑い業界関係者)
いわば世間の側にぐっと“すり寄って”ブレイクした渡部だったが、今は世間から厳しい目を向けられる立場となってしまった。ここから巻き返す方法はあるのだろうか……。
(文=編集部)