現場業界のインフラを目指すミツモアと”産業創造VC”の邂逅
●この記事のポイント
・SMBC Edgeは投資後に「売上の何%を我々がコミットする」と約束する。資金を出して待つだけの従来型VCとは根本的に異なる、”事業を一緒に作る”姿勢が最大の特徴だ。
・現場業界(エアコン取付・引越・水道工事など)に特化したミツモアは、9年かけて全国9万事業者のデータを足で稼いで構築。AIにも代替されない参入障壁を持つ。
・「現場業界のインフラ企業になる」というミツモアのビジョンをSMBC Edgeが支持。人材・売上・M&Aの3軸支援で、スタートアップと成熟産業の融合を描く。
VCから出資を受けたものの、担当者と話せるのは月1回の定例のみ。そこでかけられる「何かあれば相談してください」といった言葉を、何人の起業家が虚しく聞いてきただろうか。
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)傘下のベンチャーキャピタル「SMBC Edge」は、そんな構造を根本から変えようとしている。2025年10月に本格始動したこの組織のミッションは「新たな産業創造を通じた日本の再成長の実現」。自らを「産業創造VC」と定義し、投資だけにとどまらない事業開発支援に本腰を入れる。
今回、SMBC Edgeの出資先として注目されるのが、株式会社ミツモアだ。エアコン取付や引越し、水道工事といった「現場業界」向けに見積もり比較プラットフォーム「ミツモア」と現場管理SaaS「プロワン」を展開し、創業9年でシリーズBまで調達。「日本のGDPを増やし明日がもっといい日になると思える社会に」というミッションのもと、現場業界のDXに挑み続けている。
なぜSMBC Edgeはミツモアに投資したのか。そして、”産業創造VC”は何が違うのか。SMBC Edge取締役・Managing Directorの宮坂友大氏、投資チームVice Presidentの松浦佑真氏、事業開発チームVice Presidentの中村優太氏、ミツモア代表取締役CEO・石川彩子氏、取締役CSO・吉村昌子氏に話を聞いた。
●目次
- 「SMBCらしからぬ方法で」――産業創造VCが生まれた理由
- なぜ現場業界か――9年で築いた”崩せない参入障壁”
- 「勝ち馬に乗らない、勝ち馬を作る」――SMBC Edgeの投資哲学
- 採用・売上・M&A――「事業を一緒に作る」3つのコミットメント
- 現場業界のインフラへ――ミツモアが描く10年後
- SMBC Edge・ミツモア、両社ともに仲間を募集中
「SMBCらしからぬ方法で」――産業創造VCが生まれた理由
SMBC Edgeのバリューは「『SMBC』ならではの強みを、『SMBC』らしからぬ方法で」という言葉に集約される。
宮坂氏はこう語る。
「独立系のVCは独立した資本で完結してしまうので、インパクトが弱い。SMBCはアセットも大きく、大企業への経営レベルのアクセスもほぼ全社に持っている。外部スタートアップのプロフェッショナルと、SMBCのアセットを掛け算すれば、次の新しいアルファを出せるんじゃないかというのが仮説でした」
21名ほどの組織のうち、2名を除く全員が外部採用のスペシャリストだ。投資担当だけでなく、HR・事業戦略・M&Aの専門家が一体となってスタートアップを支援する体制は、従来の銀行系VCとは一線を画す。
ベンチマークとしているのは、米国のアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)だ。「勝ち馬に乗る」のではなく「勝ち馬を作る」――この理念が組織設計の根幹にある。
150億円の国内向けファンド(2025年10月ローンチ)に加え、グローバル・ブレインと共同運営する300億円のグロースステージ向けファンドも持つ。大阪拠点も開設済みで、今年は福岡およびシンガポールオフィスの設立も予定。日本のスタートアップのグローバル展開支援、海外のスタートアップの日本進出支援、および海外投資家・VCの日本市場誘致を同時に進める。
なぜ現場業界か――9年で築いた”崩せない参入障壁”
ミツモアが向き合うのは、エアコン取付・引越し・設備工事・水道工事・電気工事といった「現場業界」だ。
吉村取締役CSOは、この市場の課題をこう説明する。
「現場業界は人手不足が深刻で、求人倍率は5倍を超えるほど。市場規模は巨大なのに生産性が上がっておらず、業界全体が消えてしまうんじゃないかという危機感を経営者の方々が抱いている。そこにフォーカスを絞りました」
現在、ミツモアは2つの事業を展開している。
ひとつが見積もり比較プラットフォーム「ミツモア」。エアコン取付などの依頼内容を入力すると、全国9万の事業者データとマッチングして最大5件の見積もりを自動で提示する。従来2週間かかっていた見積もり取得を、1分に短縮するサービスだ。
もうひとつが現場管理SaaS「プロワン」。顧客管理から見積・受注・施工・請求まで、現場業務の全工程を一つのプロダクトで完結させる。急成長を続け、東京ガスなどの大手企業にも導入されている。
この事業を支えるのが、「世界でミツモアしか持っていない」と石川CEOが語る独自データだ。
「600サービス分の見積もりロジックを作るために、業者さんに電話をかけ続けて料金データを集めた。そのうち約300サービスは私が自分で設計しました。普通のスタートアップはやらない。でも、これが参入障壁になっています」(石川氏)
テック系スタートアップにとって真似しにくい、アナログと泥臭さが生み出した競争優位。宮坂氏はこの点を「ソフトウェアのバックグラウンドの人がやりますと言っても、絶対にできない」と評価する。
「勝ち馬に乗らない、勝ち馬を作る」SMBC Edgeの投資哲学
では、SMBC Edgeはなぜミツモアへの投資を決めたのか。
松浦VP(投資チームVice President)は「向き合っている市場の大きさ」を第一の理由に挙げる。
「これまでの日本のスタートアップは、大きい産業に向き合おうとすると時間も課題もハードルも大きいということで、どちらかというとニッチな市場にフォーカスする流れがあった。ミツモアはそれと真逆で、本当に正面から巨大な市場に向き合っている。そこが刺さりました」
加えて、AI時代における事業の強さも確信につながった。
「ソフトウェアのところはAIに代替されるリスクがある。でも、実需のデータや現場との関係性はされない。むしろデータを活用することが追い風になる。ロングで見た時、大きな会社になると思いました」(宮坂氏)
そして、最後の決め手は「人」だった。
「最後はご飯を食べて、出資するかどうかを決めます」と宮坂氏は言う。「コンサルバックグラウンドの2人が、なぜこのアナログな現場業界に本気で向き合っているのか。そのパワーと推進力の掛け算が、投資した理由です」
SMBC Edgeが選んだのは、財務諸表の先にある、人間の本質だった。
採用・売上・M&A――「事業を一緒に作る」3つのコミットメント
SMBC Edgeが従来の銀行系VCともっとも異なる点は、出資と同時に「コミットメント」を明示することだ。
中村VP(事業開発チームVice President)はこう説明する。
「投資実行の際に、採用で何人コミットするか、あるいは売上の何パーセントを我々が作るかを、数字として約束します。月1の定例で話を聞くだけ、という関係ではありません」
支援の柱は3つある。
ひとつ目は「組織・採用支援」。CxOや幹部陣の採用計画に対し、SMBC Edgeのネットワークを活用して人材を引っ張ってくる。「これから顕在化する組織課題に先回りする」という能動的なスタンスが特徴だ。
ふたつ目は「売上創出」。SMBCグループが持つ大企業ネットワークを活用し、出資先の顧客開拓を直接支援する。「エコシステムの中で、売上をコミットできるプレイヤーはほとんど存在しない」(中村氏)という現状に、正面から挑んでいる。
みっつ目は「アライアンス支援」。事業成長の選択肢として提携先の探索や周辺サポートを提供する。将来的なアライアンスやM&Aを「EXIT」「成長の手段」として捉える視点は、日本のスタートアップエコシステムが次のステージへ進むうえで重要な示唆を持つ。
「前職で事業責任を持っていた立場から言うと、毎月持ってくるのは売上の数字です。売上を作るところにコミットできる投資家は、本当に少ない。だからこそ、そこに踏み込みたい」(中村氏)
現場業界のインフラへ――ミツモアが描く10年後
石川CEOが描く未来は、壮大だ。
「現場業界向けの全てのソリューション――ITか非ITかを問わず――を、我々が提供している状態を作りたい。東京電力や東京ガスがなくなったら困るように、ミツモアがなければ現場業界が回らない、そういうインフラ企業になることが目標です」
その実現に向け、ミツモアは「ハッチュー」という新サービスも開始した。プロワンのインフラ環境とミツモアの9万事業者ネットワークを組み合わせた受発注DXサービスで、現場企業が人手不足に直面した際のリソース補強を可能にする。
石川CEOのキャリアは中国と日本を行き来する幼少期から始まり、コンサルティングファームでの経験を経て創業に至った。バックグラウンドはテックではなく、コンサル。だからこそ「ソフトウェアだけで産業は変わらない」という確信がある。
「子供の頃の日本は輝いていた。でもコンサル時代に感じたのは、日本の経済が傾いているということ。労働生産性を上げることで、その課題に向き合いたかった」(石川氏)
この思想を、SMBC Edgeは正面から受け止めた。
「スタートアップとSMBCグループが日々対峙している成熟産業、このエコシステムが交わるところに、次なる産業が生まれると信じています。ミツモアはその象徴的な存在です」(中村氏)
かつてVCは「回転ずしのように流れてくるスタートアップを待って投資する」と揶揄されることがあった。SMBC Edgeは、その受動的な構造に真正面から挑んでいる。
資金を出して待つのではなく、売上をコミットして共に作る。顕在化していない課題を先回りして潰す。そして、現場業界という「AIに代替されない実需」に向き合うスタートアップを、メガバンクのアセットで後押しする。
投資後に「売上の何%は我々が作る」と約束するVC――。それが日本のスタートアップエコシステムに何をもたらすか、ミツモアとの共創がその答えを示すことになる。
SMBC Edge・ミツモア、両社ともに仲間を募集中
この挑戦を共に進める人材を、両社は現在積極的に採用している。
SMBC Edgeが求めるのは、スタートアップの経営陣伴走ができる専門性を持った人材だ。キャピタリストとしての投資目線だけでなく、HR・事業開発・M&Aといった実務で成果を出してきた人間を求めている。中村氏はこう語る。
「何かしらの専門性があって、経営陣と伴走できる人であれば。そういう人材はどこも取り合いですが、だからこそ本気で探しています」
一方、ミツモアが大切にするのは「ロマンとソロバン」の両立だ。現場業界のインフラを作るという壮大なビジョンに共感しながら、数字にも真剣に向き合える人材を探している。テック系のバックグラウンドにとらわれず、この産業を本気で変えたいという意志を持つ人であれば、年齢も性別も問わない。「コミットメント・執着が一番大事」というのが石川CEOの言葉だ。
日本の産業の根幹を支える現場業界に、テクノロジーとメガバンクのアセットで挑む。その最前線に立ちたい人材にとって、両社は今がまさに入り時といえる。
(構成=BUSINESS JOURNAL編集部)