●この記事のポイント
2025年のEV電池市場はCATLがシェア39.2%、供給量464.7GWhで独走し、BYDと合わせ過半を握る構造が鮮明化。中国は交換式電池網や資源統合で「インフラ化」を進める一方、日本はトヨタ・出光による全固体電池(2027〜28年実用化目標)と材料技術で対抗。欧米は脱中国とコスト上昇のジレンマに直面し、2030年代に向けた供給網と技術覇権争いが本格化している。
韓国の市場調査会社SNEリサーチが2026年2月に発表したデータは、業界関係者に改めて衝撃を与えた。2025年通年のEV電池世界市場において、CATLの世界シェアは39.2%に達し、前年比35.7%増にあたる464.7GWhを供給。世界市場全体の搭載量は1,187GWhと前年比31.7%増を記録した。
さらに重要なのは、その「独走構造」の深さだ。CATL単独で30%超を維持する世界唯一のサプライヤーであり、BYDと合算すれば2社だけで世界シェアの55.6%を握る。LGエナジーソリューション(9.3%)、CALB(4.9%)との差は大きく、パナソニックは3.7%で世界7位にとどまる。
電池コストは車両総コストの30〜40%を占めるとされる。この構造は、自動車メーカーにとって「CATLを使えば依存、使わなければコスト劣後」という二重の制約を生んでいる。
エネルギー政策研究家の佐伯俊也氏はこう指摘する。
「現在のEV電池市場は、単なる部材調達の問題ではなく“エネルギー主権”の問題に近づいています。電池は石油に代わるエネルギー貯蔵インフラであり、特定企業・特定国への依存は、産業政策そのものを制約しかねない」
●目次
中国の覇権戦略:電池の「インフラ化」という次の一手
CATLの戦略はすでに量産競争を超え、「インフラ支配」へと移行している。その象徴がバッテリー交換エコシステム「Choco-SEB」だ。
2025年末時点で1,020基を展開し、2026年末までに3,000基、長期的には3万基を目指す。NIOとの連携に加え、中国主要OEMが参画し、約100社規模のエコシステムが形成されつつある。
100秒で交換可能、月額369〜469元のサブスクモデルという設計は、EVを「所有」から「利用」へ転換するものだ。
「このモデルの本質は“電池の標準化によるロックイン”です。通信でいうと基地局に相当するインフラを押さえれば、ハードウェアの差異は二次的になります。CATLは電池メーカーではなく、エネルギープラットフォーマーになろうとしている」(佐伯氏)
さらに、LFP電池やナトリウムイオン電池の開発、鉱山からリサイクルまでの垂直統合は、資源制約時代における競争優位を一層強固にする。
「リチウムやニッケルといった資源の確保競争は今後さらに激化する。中国勢はすでに鉱山権益、精製、電池製造、リサイクルまで一体化しており、この“資源-製造一体モデル”は短期間では崩せない構造的優位です」(同)
日本の「逆転シナリオ」:全固体電池と材料技術
中国の規模に対し、日本が狙うのは「非連続的な技術革新」だ。その中核がトヨタと出光興産による全固体電池である。
出光は2026年1月、固体電解質の大型パイロット設備に最終投資決定。2027〜2028年の実用化を目指す。
性能面では航続距離1,200km級、10分充電といった指標が掲げられるが、量産には依然として課題が多い。
「全固体電池は確かにゲームチェンジャーになり得るが、量産歩留まり、界面抵抗、寿命といった課題は未解決の部分も多い。普及の本格化は2030年代以降と見るのが現実的です」(同)
このように慎重な評価をする一方で、戦略的意義は大きいとも言う。
「重要なのは“量産前に技術優位を確立すること”です。半導体と同様、初期段階で規格・特許・供給網を押さえた側が長期的な主導権を握る可能性が高い」
さらに、日本の強みは材料分野にある。セパレーターなど主要部材で依然として高いシェアを維持している。ある化学産業アナリストはこう補足する。
「電池の性能は材料で8割決まると言っても過言ではない。中国が量産で優位に立つ一方、高品質材料では日本企業への依存が完全には解消されていない。この“見えにくい支配力”は過小評価すべきではない」
欧米の苦悩:「脱・中国」のコストは誰が負担するのか
欧米は今、「脱中国」とコスト競争力の間で揺れている。
EUは追加関税を導入しつつも、域内電池産業は中国製との価格競争に苦しむ。米国はIRAで国内生産を促進するが、そのコストは最終的に消費者や財政負担として現れる。
「脱中国は政治的には合理的でも、経済的にはコスト増を伴う。問題は“そのコストを誰が負担するのか”であり、現状は消費者・納税者・企業が分担する形になっている」(佐伯氏)
また、関税政策の副作用も無視できない。
「関税は産業保護には有効だが、EV価格を押し上げ普及を遅らせる可能性がある。脱炭素政策との整合性という点で、欧州は難しい舵取りを迫られている」(同)
北米ではパナソニックとテスラの動きが一定の突破口となる。IRAによる補助と内製化が、コスト競争力回復の鍵となる。
2030年を生き残るプレイヤーの条件
今後の競争は「単一の勝者」を決めるものではなく、用途別の多極化へ向かう。
・LFP・ナトリウム電池による低コスト大量普及市場
・全固体電池による高性能プレミアム市場
産業政策の観点からは、さらに別の軸が重要になる。
「電池産業の本質は“エネルギーの地政学”です。資源、技術、製造、リサイクルのいずれか一つではなく、全体を設計できる国・企業が主導権を握る」(同)
その上で、日本の戦略的ポジションについてこう述べる。
「日本は完成品での覇権は難しくとも、材料・装置・リサイクルで不可欠な存在になれる。重要なのは“代替不可能性”をどこで確保するかです」(同)
また、リサイクルの重要性も増している。
「2030年代には廃電池が“都市鉱山”として重要資源になる。ここで先行できるかどうかは、中国依存を減らす上で決定的な意味を持つ」(同)
2026年時点での勝敗を断じるのは早い。だが明確なのは、電池産業がもはや単なる製造業ではなく、「エネルギー・資源・地政学が交錯する中核産業」へと変貌しているという事実だ。
CATLの優位は短期的には揺るがない。しかし、技術の非連続性と供給網の再編という二つの潮流が、2030年代の競争地図を書き換える可能性は十分にある。
日本がその変化の中でどのポジションを確保できるか——その戦いは、すでに始まっている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)