●この記事のポイント
・「スイッチを押さない家」を実現するHOMMAが日本に本格参入。照明・空調を建築段階から統合制御する「Built-in Intelligence」が核。米国では賃料約11%アップ、入居速度2倍の実績。三井不動産、三菱地所、長谷工など国内大手との協業も始動。2028年に年間1000世帯導入を目指す。日本のスマートホーム市場の行方を占う試金石となるか。
・電話はスマートフォンに、クルマはEVと自動運転へ。だが住宅はどうか? この問いを10年前に立てたシリコンバレー発のHOMMA Group(以下、HOMMA)が、ついに日本市場への本格攻勢をかける。4月20日に開催されたメディア説明会で、代表の本間毅氏が語った戦略の全貌をレポートする。
電話はスマートフォンになり、車はEVと自動運転へと進化した。では、住宅はどうか——。この問いを10年前に立てたのが、シリコンバレー発のスタートアップ、HOMMA Group株式会社だ。
2016年の創業以来、米国で建築とテクノロジーを融合させた「Built-in Intelligence(ビルトイン・インテリジェンス)」を開発・実装してきた同社は、2025年12月に東京拠点を設立し、日本市場への本格参入を果たした。4月20日、東京・代々木上原のオフィスで開かれたメディア向け事業説明会に、代表取締役の本間毅氏が登壇。その事業戦略と狙いを語った。
●目次
「住宅だけが100年間変わっていない」
「iPhoneもテスラも、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアがあってこそイノベーションが生まれた。住宅も同じです。家にどれだけ新しい設備を入れても、それを束ねるプラットフォームがなければ、人の生活は変わらないのです」
本間氏は創業当時の資料を手に、こう語った。電話は100年でスマートフォンへ、車はEVと自動運転へと姿を変えた。一方で住宅は「100年間ほとんど何も変わっていない」と言い切る。
人が人生の約40%の時間を過ごす「家」を変えることで、生活の質を根本から底上げできる。それがHOMMAの創業思想だ。目指すのは「便利で時短」ではなく、「そこに住む人の、より幸福な時間」だという。
なぜ今、日本なのか——米国金利高騰が生んだ決断
「正直に言うと、もともとアメリカ以外への展開を考えた時、生まれ育った日本は最初の候補でした。ただ、タイミングを少し前倒しにしたのは、アメリカの市場環境の変化が大きかった」
本間氏はこう率直に明かす。2022年以降、米国では急激な金利上昇が続き、個人向け住宅ローン金利は6〜8%台に達した。不動産開発コストが膨らみ、デベロッパーの資金繰りが悪化。HOMMAの主要顧客でもあった開発業者が苦戦を強いられる状況となった。
アメリカ市場がスローダウンしている中で、日本は着工件数こそ減少傾向にあるものの、高付加価値な物件への需要は根強い。ZEH(省エネ住宅)の普及や、シニア向けヘルスケア需要の拡大など、「暮らしの質」を求める動きが加速している——そう判断した本間氏は、日本参入を前倒しで決断した。
「操作しない家」の科学——照明が睡眠を変える
HOMMAの最大の特徴は、建築段階からテクノロジーを組み込む「Built-in Intelligence」だ。一般的な後付けIoTガジェットとは異なり、家の「OS」として機能する。
家族3人が2LDKで暮らすとすると、1日に約300回スイッチを押している計算になると本間氏は言う。HOMMAはこの「300回」をゼロにすることを目指す。センサーが人の動きを検知し、照明・空調・ブラインドが自律的に動く。スマートスピーカーもアプリも、日常的には必要としない。
特に力を入れているのが照明だ。1日を5つの時間帯に分け、明るさだけでなく色温度も自動で変化させる。これは「サーカディアンリズム(体内時計)」に基づく設計で、光環境を整えることで睡眠時間が52分改善したという研究結果もあるという。「昼はオフィスのような白い光、夜はレストランのような暖色」すなわち、同じ空間でありながら、時間帯によって全く異なる表情を作り出す。
日本では照明設計への関心がまだ低く、特にミドルクラスの物件では手が入っていないことが多いと本間氏は指摘する。そこに差別化の余地があると見ているわけだ。
大手デベロッパーが動き始めた
そんなこだわりを追求しても、果たして「売れるのか」という疑問への一つの答えが、すでに出始めている。
日本での導入実績を見ると、三井不動産レジデンシャル(パークアクシス豊洲キャナル)、日鉄興和不動産(リビオメゾン西麻布)、長谷工コーポレーション、三菱地所レジデンス(ザ・パークハウス晴海タワーズ)など、大手デベロッパーの名前が並ぶ。岡山・島根といった地方でのモデルハウス採用も始まっている。
ビジネスモデルはデベロッパー向けのライセンス提供が中心だ。導入コストは照明器具込みで平米あたり3万円(エントリーポイント)、ランニングコストはシステム監視・アップデート込みで月1000円。米国での実績では、周辺相場より約11%高い賃料設定でも入居速度は2倍、更新率は全米平均を2割以上上回った。デベロッパーにとっては「コスト」ではなく「投資」として成立する構造だ。
将来的には一般住宅への展開も視野に入れているが、当面は富裕層向け高級物件でブランドを確立する戦略を取る。「上から下へはできる。下から上は難しい」と本間氏は言い切った。
2028年・1000世帯への道
HOMMAが掲げる目標は、2028年までに年間1000世帯(10万平米)への導入だ。日米累計100世帯という現状からすれば、10倍以上のスケールアップになる。三井不動産や長谷工といった大手との協業が軌道に乗りつつある今、数字の達成可能性は決して絵空事ではない。
ただ、課題がないわけではない。建築と先端テクノロジーを組み合わせた複合システムは、万一の故障時の対応が問われる。給湯器が壊れれば数日でメーカーの修理が来る日本の住宅サービスの水準と、照明からセンサー、エッジコンピューターまでが連動するシステムを、どこまで同じ速さで維持できるか。日本法人の設立から1年半、サポート体制の実力はこれから試されることになる。
今後は床暖房や給湯器など対応機器をさらに拡充していく方針だが、本間氏は、今後は主流になるであろうAIによる自動化については慎重な姿勢も見せる。
「AIをやりすぎると、思ってもないことをやられちゃったりする。お節介にならないように、ちょっといい味付けを考えていきたい」
自律化を進めながらも、住む人の意思を尊重するバランスをどう取るか。それもまた、HOMMAが問われ続ける課題だ。
新しいもの好きの富裕層は、10年後の面倒くささを考えずに飛びつくかもしれない。それで構わない。問題はその次だ。HOMMAが日本の高級住宅市場で本当に根を張れるかどうかは、テクノロジーの完成度だけでなく、壊れた時に誰が来てくれるか、という地道な問いにかかっている。
日本のスマートホーム市場が本格化するかどうか。HOMMAの挑戦は、その試金石になる。
(文=昼間たかし)