最強牝馬はよく耳にするが、最強マイル牝馬はあまり聞かない。ヴィクトリアマイルの歴史が14回しかないこと、そして古馬マイルG1レース(安田記念・マイルCS)における牡馬の壁が高いことがその理由だろう。実際にレースが新設された1984年以降、マイルCSを制した牝馬は
1986年タカラスチール
1990年パッシングショット
1993年シンコウラブリイ
1994年ノースフライト
2008年ブルーメンブラット
の5頭で、なんと1995年以降牝馬は1勝のみだ。そして同じく1984年以降に安田記念を制した牝馬は
1991年ダイイチルビー
1994年ノースフライト
2008年ウオッカ
2009年ウオッカ
の4頭しかおらず、なんと1995年以降牝馬はウオッカしか勝利していない。そしてこの成績から分かるように、マイルCSと安田記念のJRA古馬マイルG1レースを制した牝馬は、ノースフライトただ1頭なのである。
ノースフライトが安田記念で負かしたのは、外国から来日した5頭(フォレ賞優勝馬ドルフィンストリート、ブリーダーズCマイル2着スキーパラダイス、ジャック・ル・マロワ賞優勝馬サイエダティ、ミドルパークS優勝馬ザイーテン、香港の強豪ウィニングパートナーズ)を筆頭に、サクラバクシンオー(最強短距離馬・スプリンターズS連覇など重賞5勝)、ホッカイセレス(重賞2勝)、フジヤマケンザン(重賞5勝)、ゴールデンアイ(重賞2勝)、マザートウショウ(重賞3勝)といった強力メンバーばかり。
しかも外国馬を含め6頭の牝馬の中で優勝を果たしたのだから、見事な勝利というほかない。勝ち時計の1分33秒2はオグリキャップの記録に続く史上2番目と速く、その内容も文句なしだった。
続くマイルCSで負かした馬も、サクラバクシンオー、フジノマッケンオー(重賞4勝・皐月賞3着)、ホッカイセレス(重賞2勝)、ビコーペガサス(重賞2勝)、イナズマタカオー(重賞3勝)、ニホンピロプリンス(重賞2勝)、ゴールドマウンテン(重賞2勝)となかなかのレベル。
さらに勝ち時計1分33秒0はコースレコードであり、決して偶然ではなく実力に裏付けされた強さであった。ノースフライトは最終的にマイル実績を5戦全勝としており、マイルにおいてその実績と実力に匹敵する馬は、アーモンドアイを含めてもいない。まさに最強マイル女王の称号に相応しい名馬と言えるだろう。
同馬の生い立ちに目を向けると意外な事実が判明する。
ノースフライトの母シャダイフライトは、もともと社台ファームが所有していた繁殖牝馬だったが、それまでの繁殖成績が振るわなかったこと、そして18歳という高齢もあってか、社台グループの繁殖牝馬セールにて売却された馬だった。
その金額はわずか410万円、なんと上場全馬の中で最低金額だったという。しかもトニービンの子供を受胎していたのだから、破格の金額と言えよう。社台ファームとしては苦渋の決断だっただろうが、結果としてそれは最悪の結末になってしまった。
シャダイフライトが産んだノースフライトは、安田記念とマイルCSを制覇。JRA賞最優秀5歳以上牝馬に選出されたのである。
奇しくも同様のケースはその後も見られている。日本ダービーを勝利したジャングルポケットは、同馬を産んだ母ダンスチャーマーが売却されてから日本ダービーを勝ち、今年の桜花賞を制したデアリングタクトの母デアリングバードも、社台ファームが繁殖牝馬セールで手放した馬だったのだ。
今週のヴィクトリアマイルに出走するアーモンドアイは、昨年の安田記念で不利もあって3着。マイルは4戦3勝だが、まだ古馬マイルG1レースを勝利していない。
もし、今週のヴィクトリアマイルの次に安田記念を選択し、秋はマイルCSへの参戦を考えているのであれば、ノースフライトが唯一持つ「牝馬による古馬マイルG1春秋制覇」の偉業に挑むことになる。
アーモンドアイにとって今週のヴィクトリアマイルは、おそらく現時点でのマイル適性を図る格好のレースといえよう。また、香港遠征中止→有馬記念大敗→ドバイ遠征中止と、昨年暮れから続く負の連鎖を断ち切ることができるのか。
そして最強牝馬というだけでなく、最強マイラーとして新たな勲章を勝ち取ることができるか。今週のヴィクトリアマイルは注目の一戦だ。