●この記事のポイント
・ソフトバンクGがOpenAIに累計5兆円超を投資。経産省1兆円支援と連動し、日本版AIサプライチェーンを構築する構想が進む。救済か囲い込みか、その真価が問われる。
・ASI実現に賭ける孫正義。GPU確保、次世代メモリー、データスペース構想を通じ、日本AI基盤を垂直統合へ。国家と企業の境界が揺らぐ巨大実験が始まった。
・官民3兆円スキームの裏で進むSBG主導のAIエコシステム再編。成功すれば日本復活、失敗すればデジタル依存固定化。2027年が分水嶺となる。
ソフトバンクグループ(SBG)が、米OpenAIに対して最大300億ドル(約4兆5000億円)の追加出資を行う方向で最終調整に入った。既存投資分と合わせると累計出資額は347億ドル規模に達し、SBGは事実上の筆頭株主級ポジションを確保する可能性が高い。
かつてアリババ投資で「20兆円超」のリターンを叩き出した孫正義会長兼社長は、いま全精力を「ASI(Artificial Super Intelligence=人工超知能)」へと振り向けている。今回の動きは単なる財務投資ではない。世界のAIプラットフォームの中核を握るOpenAIの“背後”を押さえることで、AIの産業インフラそのものを掌握しようとする構想だ。
だがこの「OpenAI全振り」は、日本のAI産業にとって救済なのか、それとも新たな依存構造の始まりなのか。
●目次
- 「日の丸AI」再定義へ――官民3兆円スキームの実像
- AIの「心臓部」奪還へ――サイメモリ構想
- 企業データを束ねる「xIPFコンソーシアム」
- 救済か、デジタル小作制度か
- 2027年、2029年――時間との戦い
「日の丸AI」再定義へ――官民3兆円スキームの実像
SBGの動きは海外投資にとどまらない。国内では経済産業省と連動し、約1兆円の公的支援を軸にした「日本版AIサプライチェーン」構築が進む。
●経産省「5年間・1兆円支援」の内訳
今回の支援は従来型の補助金とは性格が異なる。成果に応じて資金を追加する「マイルストーン方式」を採用し、段階的に投下される。
・初年度(2026年度):3,000億円超を計上
・5年間総額:約1兆円
・方式:進捗評価による段階投資
主な投資領域は以下の4つだ。
領域 内容
計算資源 NVIDIA製GPU等の共同調達
フィジカルAI 産業用ロボット・自動運転向け基盤モデル開発
データ整備 日本独自データの構造化
省電力技術 次世代メモリー活用
SBG側はこれに約2兆円規模のデータセンター投資を重ねる。北海道・苫小牧、大阪・堺などでの大規模拠点整備だ。合計3兆円規模の巨大構想となる。
経産省関係者はBUSINESS JOURNAL編集部の取材に対し、こう語る。
「今回は“バラマキ”ではない。民間が本気でリスクを取るなら、国がインフラ部分を保証するという設計だ」
AIの「心臓部」奪還へ――サイメモリ構想
AI競争の本丸は半導体メモリーだ。現在、HBM(広帯域メモリー)は韓国勢が8~9割のシェアを握る。
SBGが関与する次世代メモリー企業「サイメモリ(SciMemory)」は、この牙城崩しを狙う。
・HBM比で容量2~3倍
・消費電力半減
・富士通・東京大学・インテルが参画
・新光電気工業など国内企業と連携
元半導体メーカー研究員で経済コンサルタントの岩井裕介氏は指摘する。
「AI時代は“メモリー戦争”だ。計算能力よりもデータ転送効率がボトルネックになる。ここで日本が主導権を握れれば産業構造が変わる」
もし実現すれば、日本はAIインフラの“心臓部”で再浮上する可能性がある。
企業データを束ねる「xIPFコンソーシアム」
SBGは東京大学と共同で一般社団法人「xIPFコンソーシアム」を設立。産業データを共有する「データスペース」構想を進める。
これは日本企業が保有する機密性の高い製造・商習慣データを、SBGの計算基盤やLLMと接続するハブの構築を意味する。
AI政策研究家の鈴喜村恵一氏はこう警鐘を鳴らす。
「データを握る者がAIを制する。日本企業のデータが一社に集約されれば、事実上のプラットフォーム支配が生まれる」
経産省支援を受けることで、SBGは3つの優位を得る可能性がある。
① GPU優先確保
国家プロジェクト化により、NVIDIAなどへの交渉力が飛躍的に高まる。
② 産業データへの先行アクセス
xIPFを通じて集まる企業データへの優先的接続権。
③ 出口としての自社DC
開発されたAIを自社データセンターで運用し、クラウド収益を獲得。
つまり、開発から運用までの垂直統合が完成する。
救済か、デジタル小作制度か
産業界の評価は割れる。
期待の声:「SBGの資金力がなければ、日本は米中AI戦争で完全に脱落していた」
一方で懸念も強い。
「最終的にSBGのプラットフォーム依存が固定化するのではないか」
データ主権の観点からは慎重論が多い。
孫氏の視線は国内市場ではなく、ASI実現とその先のグローバル市場にある。北海道の大規模データセンターは再エネ活用による「低炭素AI拠点」として設計されている。電力効率を武器に、アジア圏のAIハブを狙う。
ある投資銀行幹部は「孫氏は常に“次の20年”を見ている。日本は実験場でもあり、跳躍台でもある」と評価する。
SBGは過去、WeWork問題で巨額損失を出した。しかし同時に、戦略転換の速さも示した。利益合理性が消えれば撤退も辞さない。それがSBGの本質だ。
もし数年後、ASIへの道筋が見えなければどうなるのか。
2027年、2029年――時間との戦い
政府ロードマップでは、
2027年度:実証段階
2029年度:量産化
が節目となる。
成功すれば日本発AI基盤の確立。失敗すれば公的資金の毀損と産業依存の固定化。
SBGの構想は、日本AI産業にとって最大のチャンスであり、最大のリスクでもある。重要なのは、日本企業がプラットフォームに飲み込まれない設計を維持できるかどうかだ。
孫正義という巨大な推進力に、日本はどう向き合うのか。これは単なる企業投資の話ではない。国家のデジタル主権を巡る選択である。2027年――その答えが見え始める。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)