実験時間6割減、「データ不足」の製造現場をDX化する…“言い訳するAI”の突破力

●この記事のポイント
・シード調達から約4年、SUPWATは製造業DXの壁に直面した。現場データの少なさと、ブラックボックスなAIを嫌う職人の心理。デット調達等で資金を繋ぎつつ、彼らは泥臭くプロダクトを磨き続けた。
・突破口は特許技術「説明可能なAI」だ。LLMが分析結果の理由を言語化し、現場の納得感を獲得。さらにわずか50件のデータでも高精度な解析を実現し、エンジニアの「経験と勘」を科学する基盤を築いた。
・実験時間を6割削減する成果を背景に、プレシリーズAで約2億円を調達。自動車産業からロケット、農業へと領域を広げ、2030年のIPOと「知的製造業」のグローバル展開を見据え、新たな挑戦を始める。

 2026年1月、製造業向けSaaS「WALL」を提供する株式会社SUPWATが、プレシリーズAラウンドで約2億円の資金調達を発表した。

 通常、スタートアップのエクイティ調達サイクルは1年〜1年半と言われることが多い。しかし、SUPWATは前回シードラウンドから今回のプレシリーズAまで、約4年という歳月をかけてプロダクトを磨き上げてきた。 この間、デットファイナンス等を活用しながら事業を前進させ、じっくりと腰を据えて向き合ってきた「製造業DX」という巨大市場。その裏側で、彼らは何を掴み、どうPMF(プロダクトマーケットフィット)への道筋を見出したのか。

 代表取締役CEOの横山卓矢氏への取材から見えてきたのは、AIの精度だけでは動かない「職人の壁」と、それを乗り越えるための「翻訳機能(説明可能なAI)」、そして「スモールデータ」との戦いだった。

●目次

製造業の「死の谷」:データが足りない、理由が分からない

「正直に言えば、製造業のセールスサイクルは非常に長い。加えて、顧客ごとのニーズが想像以上に多様でした」

 横山氏は4年間の苦闘をそう振り返る。SUPWATが挑んでいるのは、サプライチェーン(調達・物流)ではなく、「エンジニアリングチェーン(研究開発・設計・生産技術)」の最適化だ。

 ここでSUPWATが直面したのは、製造現場特有の「スモールデータ問題」だった。ウェブ業界のように数百万のビッグデータがあるわけではない。実験は何万回と行われているが、処理が必要な非構造化データが多い状況では、従来のAIモデルは精度が出せなかったのだ。

 しかし、この4年間で彼らはアルゴリズムを磨き上げた。2025年2月の大型アップデートでは、従来の約半分のデータ量(50件程度)でも高精度な学習モデルを構築可能にし、実験回数の少ない研究開発の初期フェーズでも導入できる強靭なエンジンを完成させた。

技術者の拒絶反応:「ブラックボックスは使えない」

 もう一つの、そして最大の壁は、現場エンジニアが抱く「AIへの不信感」だった。

 従来の機械学習は、データを入れれば高精度な「答え」を出す。しかし、その思考プロセスはブラックボックスだ。「なぜその配合だと粘度が下がるのか?」という理由がわからなければ、エンジニアは数億円規模の設備投資や量産の意思決定などできるはずがない。

「エンジニアは職人です。馴染みのないAIがいきなり出した答えを、そのまま信じることはできません。『なぜ?』が欠けていたのです」(横山氏)

PMFのトリガー:特許技術「LLMによる言語化」

 この「信頼の壁」を突破するためにSUPWATが開発し、特許を取得(特許第7560193号)したのが、生成AIを活用した「解釈機能」だ。

 これは機械学習が算出した「変数の重要度(Feature Importance)」などの分析結果を、LLM(大規模言語モデル)が読み解き、自然言語で解説する技術だ。 例えば、「この配合条件だと、製品の強度が上がる傾向があります。理由は、温度条件が〇〇℃付近で最も化学反応が安定するという過去のデータ傾向と一致するからです」といった具合に、AIがエンジニアに対して“プレゼン”をしてくれる。

 この「納得感」が現場を動かした。実際に導入企業では、研究開発工程の実験・解析時間を60%超削減するという劇的な成果も実証されている。

自動車から「宇宙」、そして「食品」へ

「WALL」の進化は、使い勝手の面でも現れている。以前の「ウィザード形式(一方通行の手順)」から、エンジニアが試行錯誤しやすい「ダッシュボード形式」への刷新だ。これは、現場の職人がAIを「使わされる」のではなく、「相棒として使い倒す」ためのUI/UXのPMF(プロダクトマーケットフィット)といえる。

 そして今、その適用範囲は自動車産業にとどまらない。 直近では、将来宇宙輸送システム株式会社と協業し、次世代ロケット向けの極低温対応燃料タンクの設計最適化に着手。さらには、食品加工にも広がりを見せつつあり、将来的には農業(イチゴ栽培の条件最適化)など従来はベテラン農家や職人の勘に頼っていた領域へも展開を見据える。 

「プレシリーズA」に込めた覚悟

 今回の調達をあえて「シリーズA」ではなく「プレシリーズA」とした理由について、横山氏は「PMFの完全達成に向けた、最後助走期間」と位置付ける。

「2030年のIPOを見据えています。そのためには、日本国内だけでなく、グローバル市場で『知的製造業』のデファクトスタンダードにならなければなりません」(横山氏)

 4年間の潜伏期間を経て、技術的負債ならぬ「技術的資産」を積み上げたSUPWAT。AIによる「翻訳」を手に入れた日本のモノづくりが、再び世界で勝負する日はそう遠くないかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)