AI時代に、オンライン上でやり取りしている相手が『本当に人間か』をどうたしかめるのか。その問いに真正面から取り組んでいるのが、World IDだ。
World IDは、「自分が実在する一人の人間である」ことをオンライン上で示すためのデジタルIDで、本人認証と暗号技術を組み合わせて成り立っている。
チケット販売や限定商品の抽選、ゲーム、マッチングアプリといったサービスでは、不正アカウントやボットによる買い占めや荒らしをどう防ぐかが共通の課題になっているが、World IDは専用デバイス「Orb※」で取得した顔と目の写真をもとに、一人ひとりに匿名のIDを発行し、「一人につき一つのアカウント」であることを支える仕組みをつくろうとしている。
※Orb(オーブ)は、画像の保存や他の情報の収集を行うことなく、写真の撮影と処理を通じて(その人物が)唯一無二であることを証明するためのデバイス。
このプロジェクトを推進するのが、2019年にサム・アルトマンとアレックス・ブラニアが共同設立したTools for Humanity(TFH)だ。生成AIとボットが急速に広がるこれからのインターネットで、人間証明をどのような“社会インフラ”にしようとしているのか。World IDの責任者を務めるアジャイ・パテル氏に、その狙いと現在地、今後のビジョンを聞いた。
●目次
人間であることの証明はAI時代に不可欠
──World IDとは何でしょうか。まずはプロジェクト全体の概要から教えてください。
このプロジェクトは、一言で言えば「人間であることの証明(Proof of Human)」に取り組むものです。私たちのミッションは、ボットや偽アカウントではなく、実在する人間だけで構成されたグローバルなネットワークを構築することです。オンライン上で「相手が本物の人間かどうか」を確かめられる仕組みは、AI時代のインターネットにとって欠かせない基盤になると考えています。
──AIが急速に進歩する中で、なぜ「人間であることの証明」が社会にとって不可欠になるのでしょうか。
AIは生産性を飛躍的に高め、コードを書けない人でもアプリをつくれるようにするなど、大きな恩恵をもたらしてきました。同時に、AIによって高度なボットや自律エージェントを簡単につくれるようになり、多くのサービスで「ユーザー=人間」という前提が成り立たなくなってきました。
その結果、チケットやクーポンの不正取得、レビューやSNS投稿を使った世論操作、ディープフェイクを利用したなりすましといった問題が顕在化しています。 そこで必要になるのが、アカウント認証やメッセージ送信、決済・取引などオンライン上の行為について、「その背後にいるのが実在の一人の人間かどうか」を確認できる新しいレイヤーです。
World IDは、そのレイヤーを提供することで、私たちがインターネットで享受している価値ある体験を守りつつ、新しいサービスや経済活動も実現できるようにしたいと考えています。
日本市場は戦略上の重点エリア
──最近の発表によると、Worldのユーザー数は3,800万人以上で、すでに多くの人が本人認証を済ませているそうですね。現在、どのような国や業界、サービスで導入が進んでいるのでしょうか。
人と人とのやり取りがサービスの価値そのものになっている分野ほど、Worldの強みはわかりやすく現れます。代表的なのは、オンライン対戦ゲーム、ソーシャルメディア、ビデオ会議などのコミュニケーションサービス、そしてマッチングサービスです。現在は160カ国以上で展開しており、とくにアメリカ、イギリス、日本の3地域を戦略上の重点エリアと位置づけています。日本国内にもすでに数百の拠点があり、いまも拡大を続けています。
──日本市場を重要なエリアの一つとしている背景はなんですか。
以前Googleにいたとき、世界中のユーザー調査を見てきましたが、日本は独自の文化をもつがゆえに、常にユニークなインサイトを与えてくれる市場でした。そうした意味でも、とても重要な存在です。
加えて、日本は非常にクールで、デジタル化が進んだ社会です。新しいテクノロジーの受け入れも早く、Worldとの相性も良いと感じています。すでに複数のパートナーと大規模な連携プロジェクトが動いており、他国のパートナーと話す際に「日本で実際に機能しているエコシステム」として示せる点も、大きな価値だと考えています。
マーケティングや公共サービスをどう変えるか
──今後、どのような企業と協業したいですか。どのようなシステムを一緒につくっていきたいと考えていますか。
私たちが目指しているリアル・ヒューマン・ネットワークが、将来的に80億〜100億人規模まで広がれば、「人間であること」を前提に設計されたサービスや制度を、もう一段進化させられると考えています。
たとえばマーケティングの世界では、いま多くの企業が、一人が複数のメールアドレスやアカウントを使ってクーポンやキャンペーン特典を何度も受け取る状況に悩まされています。「一人につき一回だけ」という前提が技術的に守られれば、限られた予算を本当に届けたい新規顧客やロイヤルティ向上の施策に、より正確に振り向けられるでしょう。
さらに、ログインのたびに表示される「信号機の写真を選んでください」といった画像認証(CAPTCHA)の煩わしさを減らす、といった日常的な使い方もあります。一度「人間であること」が証明されれば、その後はボットだと疑われて行動を止められることなく、ずっとスムーズにサービスを使い続けられる。そんなストレスの少ないオンライン環境を目指しています。
──ビジネスだけでなく、公共セクターや社会課題の解決にも応用できそうですね。
そうですね。政府が給付金や補助金を配るとき、一人が二回受け取ってしまうような「二重取り」の問題を防ぎやすくなり、本当に届けたい相手に、より確実に支援を届けられるようになるでしょう。
一方で、世界には法的な身分証明書を持たず、従来のKYC(本人確認)や政府からの支援を受けられない人が約10億人いるといわれています。World IDは、そうした人たちにもデジタルな資格証明を届けることを視野に入れています。
実際に、バッテリーと無線通信を備えたOrbを持って遠隔地を回り、その場で認証を行う取り組みも進行中です。どこに住んでいても、誰もが新しいテクノロジーにアクセスできる世界を実現すること。それがエコシステムにおける重要なビジョンのひとつです。
World IDの最終ゴール、意識されない仕組みへ
──今後1〜3年の中期的な戦略的優先事項は何ですか。
私たちの戦略には、大きく3つの柱があります。1つ目はネットワークの拡大です。より多くの人がアクセスできるように、Orbの設置拠点を増やしつつ、小型化や新モデルの展開も進めていきます。
2つ目は実用性の強化で、World IDを導入するサービス側と、その上にサービスをつくる開発者コミュニティの両方を育てることに力を入れています。 3つ目は分散化とオープンソース化です。信頼されるインフラにするため、Orbのソフトウェアやハードウェア仕様などの中核コンポーネントをGitHub上で順次公開し、外部のプレーヤーにも開発に参加してもらう方針です。
──AIが進歩し続ける中で、最終的にWorld IDはどんな役割を担うことになるでしょうか。
このプロジェクトにとっての成功とは、メールを送るのと同じくらい当たり前に、仕組みを意識せずWorld IDが使われている状態だと考えています。
それは、純粋な人間同士のオンライン交流を可能にし、人間が自分のデジタルライフを自分でコントロールし続けられるようにするためのインフラです。たとえ多くのタスクをボットに任せるようになっても、最終的な主導権は人間側に残り続ける。AIが加速する世界の中で、人間中心の要素を保ち続けるための土台になりたいと思っています。
※本稿はPR記事です。