モス「のり弁バーガー」バカ売れの衝撃…吉野家、くら寿司ら外食大手の中食争奪戦

●この記事のポイント
モスバーガーが2025年7月にEC限定発売した「モスライスバーガー〈のり弁〉」が従来比5倍以上の販売数を記録。同社ECサイト史上最大のヒットを背景に、吉野家の冷凍牛丼・リンガーハットのちゃんぽん・くら寿司の体験型セットなど、外食大手が家庭の冷凍庫シェアを争うMD事業の戦略を解説する。

 コロナ禍を経て、外食産業の「稼ぎ方」が根本から変わりつつある。店舗への集客だけでなく、家庭の食卓をいかに抑えるか。今、モスバーガーが放った「モスライスバーガー〈のり弁〉」が同社ECサイト史上最大のヒットを記録し、業界に激震が走っている。吉野家やリンガーハット、くら寿司など各社がしのぎを削る「MD(マーチャンダイジング)事業」の最前線から、オンライン戦略の成功法則を読み解く。

●目次

「店舗の再現」を捨てたモスの逆転発想

 2025年7月に発売された「モスライスバーガー〈のり弁〉」は、発売直後から注文が殺到し、2022年7月開設の公式ECサイト「モス公式オンラインショップ ~Life with MOS~」の販売記録を塗り替えた。従来の冷凍モスライスバーガーと比較して5倍以上の販売数を記録するという異例のヒットとなり、2026年3月には第2弾「モスライスバーガー〈のり弁〉~えび天丼風~」のシリーズ展開へとつながった。のりとごはんを組み合わせた和風テイストのバーガーという異色の商品が、なぜここまで熱狂を生んだのか。

 その答えは「店舗メニューの冷凍版」という発想を徹底的に捨てたことにある。モスが2022年に本格始動させたMD事業のコンセプトは明快だ。「家庭で楽しむ、新しいモス」。店舗体験の代替品ではなく、ECチャネルでしか手に入らない「特別なモス体験」をゼロから設計するというアプローチだ。実際、モスライスバーガー〈のり弁〉は店舗メニューには存在せず、海外のモスバーガーで好評だったメニューのアレンジを取り入れるなど、EC専用商品としての独自性を徹底している。「店舗では食べられない」という希少性そのものが、消費者の購買動機となっている。

 食品マーケティングに詳しいコンサルタントの視点からも、この戦略転換は高く評価される。

「外食チェーンがEC展開で失敗するパターンの多くは、店舗の人気メニューをそのまま冷凍にしてしまうケースです。消費者は『劣化版』を求めているわけではない。モスが賢いのは、ECというチャネルの特性に合わせてプロダクトを再定義した点です」(食品マーケティングコンサルタント・杉田誠氏)

 MD事業の立ち上げ背景には、外食産業が抱える構造的な課題もある。原材料費や人件費の高騰、少子化による市場縮小、そしてコロナ禍で露呈した「店舗一本足打法」のリスク。ハンバーガー以外の収益柱を確立することは、モスにとって経営の生命線でもあった。

「冷凍牛丼」の先駆者が切り拓いた道

 外食チェーンのEC参入における先駆者として、必ず名前が挙がるのが吉野家だ。同社の「冷凍牛丼の具」は30年以上にわたるロングセラーであり、現在もECや量販店での安定した売り上げを誇る。その成功の核心は「店舗クオリティの徹底維持」に尽きる。

 吉野家はEC向け冷凍品の製造においても、店舗で使用するものと同等の牛肉・タレを使用することにこだわってきた。「吉野家の味」というブランド資産を毀損しないことが最優先であり、それが長年にわたるリピート購入につながっている。

 一方、リンガーハットは異なるアプローチで成功を収めた。同社は冷凍「長崎ちゃんぽん」の製造に専用ラインを整備し、冷凍状態でも麺の食感や野菜の風味を損なわない製法を追求。ロードサイドに多い店舗特性上、都市部の顧客との接点が限られていたが、ECと量販店展開によって「リンガーハットに行けない人」を顧客化することに成功している。

 両社に共通するのは「ストック需要」の掘り起こしという発想だ。外食チェーンはこれまで「わざわざ行く場所」として消費者に認識されてきた。しかしECと冷凍技術の進化は、ブランドを「いつでも家にある存在」へと昇華させる可能性を開いた。冷凍庫の中に吉野家があれば、忙しい夜に牛丼が食べたくなったとき、消費者は店舗ではなく冷凍庫に手を伸ばす。これは「機会損失の回収」ともいえる戦略的意義を持つ。

「冷凍食品市場は近年、質の向上と消費者意識の変化によって急拡大しています。かつての『手抜き食』というイメージは払拭されつつあり、外食ブランドの冷凍品は『本物の味』を家庭で再現できる付加価値商品として認知されています」(同)

「体験型」で差別化を図るくら寿司の独自路線

 くら寿司のEC戦略が際立つのは、「モノを売る」から「コトを売る」へのシフトにある。同社の「おうちでくら寿司」セットは、シャリとネタを分けて届けることで、家庭での「手巻き寿司体験」というエンターテインメントを提供する。単なる食事の調達ではなく、家族の食卓に非日常の体験を持ち込む設計だ。

 ラインナップの多様性も特筆に値する。店舗では提供が難しい高級食材——国産の冷凍うなぎや専門スイーツ——をEC限定で展開することで、客単価を大幅に引き上げる「まとめ買い」戦略を実現している。5個・10個単位のセット販売は、送料コストを分散させつつ、消費者に「まとめて買ったほうがお得」という心理を働かせる効果がある。

 くら寿司の戦略は、ファミリー層への訴求という観点でも優れている。子どもと一緒に手巻き寿司を作るという「参加型の食体験」は、SNSとの親和性も高く、UGC(ユーザー生成コンテンツ)による自然な拡散を生みやすい。商品そのものがマーケティングツールになっているともいえる。

外食大手EC戦略「成功の三原則」

 各社の成功事例を横断的に見ると、オンラインならではの勝ちパターンは三つに集約される。

 第一の原則は「メニュー選定の精度」だ。 冷凍に向かない食材・調理法は問答無用で排除し、「冷凍だからこそ美味しい」あるいは「冷凍しても劣化しにくい」素材を積極的に採用することが出発点となる。モスのライスバーガー、吉野家の牛肉、リンガーハットのちゃんぽんスープ——成功商品には必ず、冷凍との相性を見極めた開発の知恵がある。モスライスバーガー〈のり弁〉においても、海苔の噛み切りやすさとくずれにくさを両立した海苔巻きスタイルを採用するなど、冷凍・レンジアップ後の食体験を緻密に設計している。

 第二の原則は「限定性による希少価値の創出」だ。 「店舗では食べられない」という希少性が、送料というハードルを越える動機になる。ECと店舗を同じ商品で埋めてしまえば、消費者は安価な店舗購入を選ぶ。ECにしかない価値を設計することが、チャネルの住み分けに直結する。

 第三の原則は「まとめ買いを前提とした価格・パッケージ設計」だ。 1個単位での販売は送料負けしやすく、消費者の購入ハードルも高い。モスライスバーガー〈のり弁〉も5個入りセットを基本単位としており、一回あたりの物流コストを下げながら、消費者には「まとめ買いの合理性」を提示している。定期購入(サブスクリプション)との組み合わせも、LTV(顧客生涯価値)向上に有効な手段として注目されている。

店舗とECは「カニバリ」を越えて共生する

 EC展開に踏み切る際、多くの外食チェーンが懸念するのが「店舗売上との共食い(カニバリゼーション)」だ。しかし実態は逆の動きが起きていると、各社の事例は示唆している。

 ECでブランドのファンになった消費者が店舗へ足を運び、店舗のヘビーユーザーがECでリピート購入する——この循環構造こそが、OMO(Online Merges with Offline)の深化が外食産業にもたらす最大の恩恵だ。モスライスバーガー〈のり弁〉がEC限定商品でありながらモスというブランド全体の認知・好意度を高め、第2弾のシリーズ展開へとつながったことは、その好例といえる。

 中長期の事業環境を見渡せば、MD事業への投資意義はさらに高まる。物価高騰と人手不足が深刻化する中、店舗の拡大は固定費とリスクの増大を意味する。一方、EC・MD事業は一度製品開発と物流インフラを整えれば、比較的低い限界コストでスケールできる。「守りの経営」として位置づけられてきたMD事業は今、「攻めの投資」として外食経営の文脈で再定義されつつある。

「家庭の冷凍庫の中のシェア」をめぐる争奪戦は、今後さらに激化するだろう。次の覇権を握るのは、ブランドの強度と、ECというチャネルの特性を掛け算できた企業になる。消費者の食卓という最後のフロンティアで、外食大手たちの戦いはいよいよ本番を迎えている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/食品マーケティングコンサルタント)