2026年、物流大変革…物流の主役が運送会社から荷主へ、改正下請法とCLO義務化

●この記事のポイント
2026年、日本の物流業界は構造転換の臨界点を迎えた。1月施行の改正下請法により、ドライバーの「荷待ち・荷役の無償提供」が禁止され、契約書面化が義務化。荷主企業は拘束時間を含めた物流コスト負担を強いられる。さらに4月には改正物流効率化法により、年間9万トン以上の貨物を扱う企業に「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務化され、経営レベルでの物流最適化と国への報告責任が発生。違反時は企業名公表や個人罰の可能性もある。これにより物流は単なるコストから経営インフラへと変質し、「非効率な荷主は取引から排除される」時代が到来した。

 2024年4月、トラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限が課された、いわゆる「2024年問題」。人手不足と輸送能力の低下が顕在化し、日本の物流は“限界”を迎えたとされる。

 だが、真の転換点はむしろその先にある。2026年、物流の構造そのものを根底から揺るがす「2つの法改正」が本格的に動き出した。しかも、その矛先はこれまでの“弱者”であった運送会社ではない。長年にわたり物流現場に無理を強いてきた「荷主企業」そのものである。

 もはや物流は“外注コスト”ではない。経営そのものを左右する「規制領域」へと変質した。

●目次

「無償の常識」が違法になる:改正下請法のインパクト

 2026年1月に施行された改正下請法は、日本の物流現場に長年横たわっていた“慣習”に明確な終止符を打った。

 象徴的なのが、「荷待ち」と「荷役」に関する扱いである。従来、ドライバーが数時間にわたって待機させられる「荷待ち」や、本来契約外であるはずの積み降ろし作業(荷役)は、事実上無償で行われるケースが多かった。運送会社は取引関係上これを拒めず、結果としてドライバーの長時間労働と低収益構造が固定化してきた。

 改正法は、この構造を明確に違法と位置づけた。

・荷待ち、荷役の無償提供の禁止
・委託内容の書面交付の義務化
・契約外業務の強制に対する規制強化

 これにより、荷主企業は「運賃」だけでなく、「拘束時間」や「作業内容」を含めた総合的な物流コストを負担する義務を負うことになる。

 物流コンサルタントの斎藤直樹氏はこう指摘する。

「今回の改正は、単なる価格交渉の話ではありません。これまで“グレーゾーン”として黙認されてきた慣行が、明確に“違法行為”へと転換された。荷主企業のコンプライアンスリスクは一気に跳ね上がっています」

 従来のように「現場で柔軟に対応してほしい」という曖昧な依頼は通用しない。契約にない作業をさせれば、それだけで法令違反となる可能性がある。

経営陣を直撃する新制度:CLO義務化の衝撃

 さらに2026年4月、もう一つの“劇薬”が本格適用された。改正物流効率化法に基づく「物流統括管理者(CLO)」の設置義務である。

 対象となるのは、年間取扱貨物量が9万トン以上の「特定荷主」。製造業、小売業、EC事業者など、多くの大企業が該当する。

 注目すべきは、その位置づけだ。CLOは単なる担当者ではなく、「役員クラス」での選任が求められる。つまり、物流は現場部門ではなく、経営課題として扱わなければならなくなったのである。

 CLOの役割は想像以上に重い。

 ・物流効率化に関する中長期計画の策定・実行
 ・積載率向上や荷待ち削減のKPI管理
 ・モーダルシフト(鉄道・船舶)の推進
 ・国への定期報告義務

 さらに重大なのは、罰則の存在だ。取り組みが不十分な場合、国からの勧告・公表措置が取られる可能性がある。加えて、報告義務違反や虚偽報告があれば、企業だけでなくCLO個人にも責任が及ぶ。

「CLOは“名前だけの責任者”では許されません。実態として物流改善を実行できなければ、企業価値の毀損だけでなく、経営陣個人の責任問題に発展する可能性もある。これは日本企業にとって極めて異例の制度設計です」(同)

真の役割は「社内改革の司令塔」

 CLOの本質は、物流の専門家であること以上に、「社内の意思決定を変える権限」を持つ点にある。

 多くの企業では、これまで営業部門が納期を優先し、製造部門が生産効率を優先する中で、物流は“しわ寄せ”を受ける構造にあった。

・突発的な出荷指示
・非効率な小口配送
・出荷準備の遅延による長時間待機

 こうした問題は、現場レベルでは解決できない。CLOは経営の立場から、これらに対して「NO」を突きつける役割を担う。

 つまり、物流改革とは単なる輸送効率の問題ではなく、「企業オペレーション全体の再設計」に他ならない。

「選ばれる荷主」だけが生き残る時代へ

 2026年の制度改革がもたらす最大の変化は、力関係の逆転である。これまで「仕事を発注する側」であった荷主企業は、今後「選ばれる側」へと立場を変える。

 運送会社は、改正下請法を背景に、不利な条件を受け入れる必要がなくなる。長時間の荷待ちや非効率な運用を強いる荷主とは、契約を見直す、あるいは取引を停止する動きが広がる可能性が高い。

 一方で、物流効率化に本気で取り組む企業は、明確な優位性を持つ。

・荷待ち時間の短縮
・積載率の最適化
・デジタルによる配車・在庫管理の高度化

 これらを実現した企業は、限られた輸送リソースを優先的に確保できる。

「今後は“どの企業がトラックを持っているか”ではなく、“どの企業が効率的に使えるか”が問われる時代になります。物流は完全に競争優位の源泉に変わりました」(同)

物流は「コスト」から「経営インフラ」へ

 2026年の法改正は、日本企業に対して明確なメッセージを突きつけている。物流を軽視する企業は、市場から排除される。

 これは誇張ではない。物流が滞れば、製品は届かず、売上は立たない。サプライチェーンの寸断は、そのまま企業価値の毀損に直結する。にもかかわらず、多くの企業では依然として物流が「間接コスト」として扱われているのが実態だ。

 だが、その時代は終わった。物流はコストではなく、経営インフラーー。この認識を持てるかどうかが、2026年以降の企業競争を分ける分水嶺となる。

 2024年問題は、確かに大きな転換点だった。しかし、それはあくまで“前哨戦”に過ぎない。2026年の法改正は、より本質的だ。現場の努力ではなく、経営の意思決定そのものを変えなければ、対応できない。

 CLOの設置は、その象徴である。物流はもはや現場任せにできる領域ではない。経営陣が直接責任を負うテーマへと格上げされた。対応が遅れれば、法令違反、企業名の公表、そしてサプライチェーンの崩壊という現実が待っている。

 逆に言えば、ここで構造改革に踏み出した企業だけが、次の時代の競争優位を手にする。2026年は日本企業にとって、「物流をどう扱うか」が問われる最終期限なのである。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=斎藤直樹/物流コンサルタント)