トヨタ1強体制を加速させるか…300万円台「ランクルFJ」がSUV市場を揺さぶる

●この記事のポイント
トヨタが2026年に投入する新型「ランドクルーザーFJ」は、300万円台という価格でラダーフレーム構造を採用した本格SUVとして注目を集めている。受注停止が続くランクル300・250の需給逼迫を緩和する“調整弁”としての役割が期待される一方、日本市場では競合不在の状態が続き、トヨタ1強体制をさらに強化する可能性も指摘される。2.7Lガソリンエンジンやパートタイム4WDなどコスト重視の設計により、「室内の狭さ」「乗降性の悪さ」「4WDの使い勝手」といった弱点も存在する。実用性と資産性を兼ね備えた“道具としてのクルマ”である点を理解できるかが購入判断の分かれ目となる。

 2026年の国内自動車市場において、間違いなく“台風の目”となる一台が姿を現そうとしている。トヨタ自動車が投入する新型「ランドクルーザーFJ(以下、ランクルFJ)」だ。発売は同年5月以降と見込まれており、すでに市場では“争奪戦”を前提とした期待が過熱し始めている。

 現在、ランドクルーザーシリーズ(300、250、70)は、いずれも需要過多により国内受注が実質停止。中古車市場では新車価格を上回る“価格逆転”が常態化し、需給の歪みは極限まで達している。そうしたなかで登場する“第4のランクル”は、需給逼迫の解消に向けた切り札となるのか。それとも、さらなる混乱を招く引き金となるのか。

 本稿では、このランクルFJを単なる新型車ではなく、「市場構造を変える装置」として捉え、その本質に迫る。

●目次

「受注停止」でも売れる…トヨタが描く需給コントロール戦略

 まず押さえるべきは、トヨタが現在直面している“異常な需要環境”だ。SUV(スポーツ用多目的車)市場全体は拡大基調にあるが、とりわけラダーフレーム構造を持つ本格オフローダーは供給が追いつかず、事実上の「売りたくても売れない」状態にある。ランクル300は納期数年、250も同様に長期化、70は限定供給──この状況は、メーカーにとって機会損失であると同時に、ブランド価値を維持するジレンマでもある。

 ここで投入されるのが、よりコンパクトで生産効率の高いランクルFJだ。自動車アナリスト・荻野博文氏はこう指摘する。

「FJは単なるエントリーモデルではなく、“需給の緩衝材”として設計されている可能性が高い。高価格帯モデルに集中した需要を一部吸収し、ランクルブランド全体の熱量を維持する役割を担うとみられます」

 つまりFJは、“売るための車”であると同時に、“待たせすぎないための車”でもある。顧客を他ブランドへ流出させないための、極めて戦略的なプロダクトと言える。

競合不在の現実…日本SUV市場の“空白”

 では、このFJの競争環境はどうか。結論から言えば、極めて「競合が弱い」市場に投じられる。

 かつてこの領域では三菱自動車「パジェロ」が存在感を放っていたが、現在は事実上の不在。各社の現行ラインナップを見ても、FJと真正面から競合する車種は見当たらない。

・スズキ「ジムニーシエラ」:オフロード性能は高いが、サイズ・快適性・積載性でFJに劣る

・三菱「パジェロスポーツ」:海外主力だが、日本市場では空白状態

・ホンダ「パスポート」:北米主軸で、サイズ・価格ともにFJより上位

 結果として、FJの最大の競合は“他社ではなく自社”になる。具体的には、都市型SUVである「カローラクロス」や、中古市場で価格高騰が続く「旧型FJクルーザー」だ。これは、トヨタがセグメント全体を“内製化”している構図ともいえる。

 荻野氏は次のように分析する。

「現在の日本市場は、“トヨタ内での競争”に近い状態だ。他社が不在の領域では、価格帯や用途別に自社製品を並べることで需要を囲い込む戦略が成立する。FJはその典型例だ」

 この構造こそが、「トヨタ1強」をさらに強固にする要因でもある。

300万円台の裏側…“割り切り”としての設計思想

 ランクルFJの最大の魅力は、300万円台後半と見込まれる価格設定にある。ラダーフレーム構造を持つ本格SUVとしては異例の“低価格帯”だ。

 だが、その価格は決して「お得」だけで成立しているわけではない。明確な“割り切り”の上に成り立っている。搭載が見込まれるのは2.7Lガソリンエンジン。ハイブリッドや高出力ターボではなく、信頼性とコストを優先した選択だ。この時点で、トヨタがFJを「ラグジュアリーSUV」ではなく「実用車」として位置づけていることがわかる。問題は、その割り切りがユーザー体験にどのような影響を与えるかだ。

■購入前に直視すべき「3つの死角」

(1)想像以上に「狭い」室内空間

 FJはコンパクト化と悪路走破性を両立するため、全高を高めつつ全長・全幅を抑えている。その結果、室内空間、とりわけ後席はタイトだ。

 ドア開口部は狭く、乗降性も決して良好とは言えない。ファミリーユースを想定する場合、この点は“試乗ではなく実用目線”で確認する必要がある。

(2)パートタイム4WDという“割り切り”

 FJはフルタイム4WDではなく、2WDと4WDを手動で切り替えるパートタイム方式を採用する見込みだ。

 これはオフロード性能や燃費の面では合理的だが、雨天時の高速走行や日常使用においてはフルタイム式に劣る場面もある。

「パートタイム4WDは“理解して乗る”必要がある仕組みだ。知らずに乗ると違和感につながるが、理解すれば非常に合理的な選択でもある」(同)

 つまり、この仕様は“性能の問題”ではなく、“使いこなしの問題”といえる。

(3)高さが生む「乗り降りの壁」

 悪路走破性を高めるための高い最低地上高は、日常利用では“乗り降りのしにくさ”として表れる。

 特に高齢者や子どもにとっては、この高さがストレスになる可能性がある。ステップ装着などの対策はあるものの、根本的な解決にはならない。

万人受けはしないのに売れる理由

 ここまで見てきた通り、ランクルFJは万人向けのクルマではない。快適性や利便性を求めるなら、カローラクロスやハリアーのほうが適している。それでもなお、このクルマが売れると予測される理由は明確だ。

「本物のラダーフレーム車」が、この価格で手に入るからである。荻野氏はこう総括する。

「FJの本質は“所有する価値”にあります。単なる移動手段ではなく、耐久性・信頼性・ブランドを含めた“資産性”を持つ点が評価されるでしょう」

 ランクルブランドは世界的に高いリセールバリューを持ち、過酷な環境でも走り続ける信頼性で知られる。FJは、そのエッセンスを比較的手の届く価格帯に落とし込んだモデルだ。

 ランクルFJは、需給逼迫の緩和という意味では「救世主」となり得る。しかし同時に、トヨタへの需要集中をさらに強める「加速装置」としても機能する。つまりこのクルマは、市場を“正常化”する可能性と、“独占化を進める”リスクの両方を内包している。

 そしてユーザーに突きつけられる問いはシンプルだ。このクルマの“不便さ”を受け入れられるか。ランクルFJは、快適な乗用車ではない。あくまで「道具」であり、「使いこなす対象」だ。その本質を理解せずに手を出せば後悔するが、理解したうえで選ぶなら、これほど魅力的な選択肢もない。

 トヨタが仕掛けたこの“劇薬”が、日本の自動車市場にどのような変化をもたらすのか。その答えは、発売後の受注状況がすぐに示すことになるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)