●この記事のポイント
2026年(令和7年分)の確定申告は、マイナポータル連携の普及でスマホ完結が進む一方、会社員にとって“逆転増税”のリスクが高まる分岐点となっている。副業20万円以下の誤解による住民税増、医療費控除での補てん金入力ミスや通院交通費の未計上、住宅ローン控除の省エネ基準未適合による控除ゼロ、さらに医療費控除とふるさと納税の限度額の食い合いなど、制度の組み合わせによる見えにくい落とし穴が顕在化。本記事は、具体的なケースと専門家コメントを交え、手取りを守るための実践的チェックポイントを提示する。
2月16日、2026年(令和7年分)の確定申告が始まった。マイナンバーカードとマイナポータル連携の普及により、会社員でもスマホ一つで申告が完結する時代だ。だが、その「手軽さ」が、皮肉にも手取りを削る“逆転増税”を生むケースが増えている。
背景には、
・副業拡大による所得構造の複雑化
・医療費控除のデータ連携の限界
・住宅ローン控除の性能要件の厳格化
・ふるさと納税との相互作用
といった複数制度の“交差点”がある。
税理士の村井綾乃氏はこう警告する。
「最近の相談は“計算ミス”より“制度の組み合わせミス”が圧倒的に多いです。本人は節税したつもりでも、翌年の住民税通知で初めて“増税”に気づくケースが増えています」
本稿では、2026年申告の分岐点となる「4つの地雷」を、ビジネスパーソン目線で整理する。
●目次
- 「副業20万円以下は申告不要」という危険な神話
- 医療費控除:マイナポータルが見逃す“隠れ経費”
- 2026年の分岐点:住宅ローン控除と“性能不適合”
- 【盲点】ふるさと納税と医療費控除の“食い合い”
- 結論:「自動化」は節税を保証しない
「副業20万円以下は申告不要」という危険な神話
会社員に最も広がっている誤解が「副業所得が20万円以下なら申告しなくていい」というものだ。これは所得税だけの話である。
■ 所得税はセーフでも、住民税は別ルール
確定申告をしない場合でも、住民税の申告は別途必要になるケースがある。さらに問題なのは、「医療費控除などのために確定申告をすると、副業分も自動的に紐づく」点だ。
結果として、
・副業所得が住民税計算に反映
・翌年の住民税が上昇
・「増税された」と錯覚
という構図が起こる。
「副業20万円以下=ノーリスクではありません。確定申告を一部だけ行う“中途半端申告”が一番危険です」(村井氏)
■ 会社にバレるリスクは“チェック漏れ”
さらに実務上増えているのが、住民税の徴収方法のチェックミスだ。副業分を「普通徴収(自分で納付)」にしなければ、会社の給与から天引きされる住民税額が変動する。これが副業発覚の典型パターンだ。
マイナ連携は自動でも、徴収方法の選択は自動ではない。ここを見落とすと、税額だけでなくキャリアリスクにも直結する。
医療費控除:マイナポータルが見逃す“隠れ経費”
医療費控除は「自動入力で終わる」と思い込んだ瞬間に損が始まる。
■ 補てん金の“過大入力”で控除が蒸発
入院給付金などの補てん金は、「その医療費の範囲内」で差し引くのが原則だ。例えば、医療費10万円、保険金20万円の場合、差し引けるのは10万円までだ。ここを「20万円」と入力すると、他の医療費まで圧縮され、控除額が必要以上に減る。
「保険金の入力ミスは、還付金額が数万円単位の差につながります」(同)
■ 12月分・交通費・市販薬は自動では出ない
マイナ連携で取得できるのは主に保険診療情報。だが、「年末分の反映遅れ」「通院の電車・バス代」「セルフメディケーション税制対象の市販薬」などは手入力が前提だ。
「交通費の積み上げだけで1〜2万円差が出る家庭も珍しくありません。アナログ作業こそ差別化ポイントです」(同)
2026年の分岐点:住宅ローン控除と“性能不適合”
今回の申告で最も金額インパクトが大きいのは住宅ローン控除だ。
■ 省エネ基準を満たさない新築は「控除ゼロ」の可能性
一定時期以降に入居した新築住宅では、省エネ基準適合の証明がなければ控除対象外になるケースがある。最大で数百万円規模の控除差になるため、「住宅会社が大丈夫と言っていた」では済まされない。
「住宅ローン控除は“証明書ビジネス”。条件を満たしていても書類がなければゼロです」(同)
■ 所得2,000万円の壁と“副業ブーメラン”
合計所得金額が一定額を超えると控除対象外になる。
ここで落とし穴になるのが、副業利益、株式売却益、暗号資産利益などで所得が押し上げられ、「わずかに超えて失格」というパターンだ。節税目的の副業や投資が、住宅ローン控除を失わせる“逆転現象”も起こり得る。
【盲点】ふるさと納税と医療費控除の“食い合い”
節税上級者でも見落としがちなのが、控除同士の相互作用だ。医療費控除を使うと課税所得が下がる。すると、ふるさと納税の「控除限度額」も下がる。
結果として、「想定より限度額が小さくなる」「自己負担2,000円を超える」「トータルで損をする」という”節税貧乏”現象が起こる。
「医療費控除とふるさと納税は“足し算”ではなく“引き算の関係”。必ず同時シミュレーションが必要です」(同)
【ビジネスパーソン向け】損益分岐点FAQ
Q:マイナポータルで「データ取得」すれば完了?
A:危険です。12月分医療費、交通費、市販薬、ふるさと納税の寄付証明。必ず手元の合計額と画面上の金額を突合してください。
Q:副業赤字で本業の税金は安くできる?
A:性質次第。事業所得なら損益通算可能だが、雑所得扱いなら赤字は切り捨て。判断を誤ると後日否認リスクがある。
Q:還付申告は期限を過ぎても可能?
A:還付のみなら一定期間さかのぼれるケースがある。慌てて誤申告するより、精査が優先。
結論:「自動化」は節税を保証しない
マイナポータル連携は“計算の効率化”にすぎない。税額を最適化するのは、人間の理解と確認だ。
・副業は住民税まで視野に
・医療費はアナログ証跡を掘り起こす
・住宅ローンは性能証明を確認
・控除同士は同時シミュレーション
確定申告は単なる年中行事ではない。会社員にとっては“可処分所得の再設計”だ。提出ボタンを押す前の30分が、来年の手取りを決める。スマホ時代の申告こそ、最後は“疑う力”が最大の節税策である。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=村井綾乃/税理士)