ChatGPT一強から“使い分け”時代へ…AIの選択基準は「性能」から「仕事の導線」へ

●この記事のポイント
・ChatGPT一強が崩れ、Geminiが急伸。勝敗を分けたのは性能差ではなく、Workspace統合による「仕事の導線」だった。AIは使い分けの時代へ。
・製造・金融・自治体・コンサル現場で進むのは「最強AI選び」ではなく、用途別の最適配置。Gemini、NotebookLM、Perplexityが役割分担を広げる。
・生成AIの価値は文章生成から業務インフラへ移行。今後はツールの優劣より、どのAIをどの工程に置くかという「AIマネジメント力」が個人差になる。

 2026年1月、生成AI市場の勢力図が目に見えて揺れ始めた。最新のWebトラフィック調査によれば、かつて市場の8割以上を独占していたChatGPTのシェアは64.5%まで低下し、代わってグーグルの「Gemini」が21.5%まで急伸。「二強時代」への移行を印象づける結果となった。

 もっとも、この手のシェアは“利用回数”や“アクセス経路”の偏り、企業利用の見えにくさなどによって数字が上下しやすい。したがって、単純に「ChatGPTが失速した」「Geminiが勝った」と断定するのは早計だろう。

 しかし、今回の変化が象徴しているのは、もっと大きな構造転換である。それは、生成AIの評価軸が「賢さ(性能)」から、「仕事の導線(ワークフロー)」へと、静かに重心移動しているという事実だ。

 当サイトがこれまで追ってきたAI動向では、導入障壁の高さ、ハルシネーション(もっともらしい嘘)、運用責任の曖昧さ、さらには“AI幻滅期”の兆しも指摘してきた。だが2026年の現場で起きているのは、生成AIが沈むのではなく、むしろ「AIを使い分ける」という成熟フェーズへの進化である。

 なぜChatGPTは“唯一の正解”でなくなり、Geminiや特化型AIの存在感が増しているのか。企業の導入現場で何が変わったのか。その深層を読み解く。

●目次

「目的地」から「インフラ」へ:Gemini急伸の真因

 ChatGPTが切り開いたのは、「誰でもAIを使える」という革命だった。だが、その革命は同時に“ある弱点”を抱えていた。それは、生成AIが依然として「わざわざ使いに行く道具」である、という点だ。

 一方でGeminiは、AIを“目的地”ではなく“インフラ”に変える戦い方を取った。勝因は、派手な新機能ではない。むしろ、ユーザーが意識しないところで仕事の流れに食い込み、導線を占拠したことにある。

●Google Workspaceとの同化:「別タブを開く」時代の終焉

 GeminiはGoogle Workspaceに統合され、Gmail、ドキュメント、スプレッドシート、Meetなどの作業環境の中に“標準装備”として入り込んだ。つまりユーザーは、AIを起動するという意思決定すら不要になる。

 ビジネスパーソンが生成AIを使えない理由の多くは、「性能が足りない」ではなく、忙しさの中で“使う手間”が勝ってしまうことだった。導線を押さえたGeminiは、その障壁を一気に溶かした。

「生成AIの価値は“賢さ”より“習慣化”にあります。導入が失敗する企業の多くは、モデル比較に時間を使い、現場が“使う仕組み”を作れていない。Geminiが伸びている理由は、技術競争というより、業務導線の戦いで先行した点が大きい」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

●「100万トークン」の暴力:社内知見の“即時検索”が現実に

 Geminiの強みとして語られやすいのが、超長文の処理能力だ。2025年後半から定着し始めた「100万トークン級」の文脈処理は、単なる“長文OK”ではない。

 会議議事録、契約書、過去メール、技術資料、規程集――。企業内には「検索できない知識」が山ほど眠っている。Geminiはそれを丸ごと読み込み、要点化し、比較し、論点を抽出できる。つまり、生成AIを“文章生成”から“企業知見の検索エンジン”へ変質させたのだ。

 ChatGPTが革新的な機能を矢継ぎ早に投入するのに対し、グーグルは既存の仕事の流れにAIを埋め込む。この差は、忙しい現場にとって致命的なほど大きい。

業界別・AI使い分けの最前線:「一強依存」を捨てた企業たち

 2026年現在、先進企業の現場で進んでいるのは、「最強AIを選ぶ」動きではない。むしろ逆で、「一つのAIに頼るリスク」を避け、用途に応じて最適なモデルを組み合わせる運用が主流になりつつある。

 キーワードは、AIオーケストレーション(AIの指揮・使い分け)だ。

■製造業:Gemini × マルチモーダルで「匠の継承」を自動化

 製造現場では、画像・動画も扱えるマルチモーダルAIが威力を発揮する。たとえば、熟練工の作業をスマホで撮影し、Geminiに解析させることで、新人向けの手順書を自動生成する。単なる作業マニュアルではなく、「どこが危険か」「失敗しやすいポイントは何か」まで含めた“教育用コンテンツ”が短時間で整う。

 また、工場のセンサーデータと連携し、異常兆候を自然言語で報告させる動きも増えている。人間が監視するのではなく、AIが監視結果を“報告する側”に回る発想だ。

「現場はAIを“使う”というより、“手順の中に組み込む”ことが重要です。動画→マニュアル化や、異常→報告文生成は、技能継承と品質管理の両方に効く。成果が数字で見えるので現場の抵抗も減ります」(同)

■金融・自治体:NotebookLMが支持される「嘘をつかないAI」の需要

 金融機関や自治体が最も嫌うのは、ハルシネーションだ。ここで存在感を増しているのが、グーグルのNotebookLMである。

 NotebookLMは、指定した資料(条例、内規、マニュアル、過去の回答事例など)だけをソースとして回答させる運用がしやすい。外部の不確かな情報を遮断し、「根拠のある回答」に寄せられる点が評価されている。

 地方自治体の現場では、窓口対応の均質化が課題になる。担当者によって回答が違う、経験者が異動すると知見が失われる――そうした問題に対し、NotebookLMの“ソース固定型”は現実的な解となっている。

「生成AIの誤答は、単なるミスではなく、業務責任の所在を曖昧にします。特に行政や金融では“間違えない仕組み”が優先される。外部情報を遮断し、参照元を限定できる設計は、ガバナンス面で強い」(同)

■コンサル・リサーチ:Perplexityで「ググらない検索」が標準化

 一方で、情報の鮮度と根拠(ソース)を重視する職種では、グーグル検索すら“過去のインターフェース”になりつつある。

 Perplexityのような検索特化型AIは、最新の統計データや報告書を探し、出典を提示し、要点をまとめる。市場調査や競合分析で発生する「ファクトチェック」の工数を大幅に削減できる。

 これまでChatGPTに「調べて」と頼みつつ、最後は人間が検索し直す――という二度手間が発生していた。だが検索特化型AIは、そこをショートカットする。

「スペシャリストAI」が変えるアウトプットの質

 ChatGPTのシェアを奪っているのはGeminiだけではない。特定のタスクに特化した“スペシャリストAI”の浸透も、地殻変動の一部である。

Gamma(資料作成):プロンプトからデザイン済みスライドを自動生成し、「1枚ずつPowerPointを作る」行為を時代遅れにする
DeepL Write:翻訳を超え、ビジネスメールの説得力や丁寧さを調整し、文章の品質を底上げする
Copilot(Excel/Word):Microsoft 365ユーザーにとって、マクロや関数を覚えずに分析を依頼できる“業務補助の標準装備”となる

 ここで重要なのは、スペシャリストAIが単に便利という話ではない。アウトプットの質そのものが変わるという点だ。

 従来の仕事では、「文章が書ける人」「資料が作れる人」「Excelが強い人」が評価されてきた。だが2026年以降は、「適切なAIを選んで成果物を作れる人」が評価される。言い換えれば、個人の能力差は“スキル”から“AI運用力”へと移る。

AIマネジメント力が「個人の格差」になる

「ChatGPTが最強か、Geminiが最強か」という議論は、2026年の現場ではすでに意味を失いつつある。本当に問われているのは、こうした現実的な判断だ。

 ・この仕事は「生成」か「検索」か
 ・根拠の提示が必要か、スピードが優先か
 ・社内文書だけで完結すべきか、外部情報を使うべきか
 ・文章品質を上げたいのか、意思決定を速めたいのか

 つまり、生成AIを“道具として使える”だけでは足りない。どのAIを、どの工程に、どう配置するか――そのマネジメント能力こそが、成果を分ける。

 先行者利益に頼りすぎたOpenAIに対し、既存の仕事の流れに食い込んだグーグル。そして、その隙間を埋めるスペシャリストたち。生成AIは今、群雄割拠のフェーズに入った。

 ツールを固定化することは、自らの生産性に天井を設けることに他ならない。2026年、AIは「試すもの」から、「使いこなして成果を出すもの」へ――完全にフェーズが変わったのである。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)