国内2番目のIRは北海道が有力?「年2000億円」試算、課題は依存症と自然破壊

●この記事のポイント
・観光庁が2027年にIR公募を再開し、国内2カ所目の候補として北海道が浮上。年2000億円試算の一方、依存症・自然破壊・域外流出など課題も重い。
・人口流出と経済停滞が続く北海道でIR誘致が再燃。苫小牧・函館が関心を示し議論が本格化するが、地域に利益を残す設計と合意形成が成否を左右する。
・“年2000億円”の夢か、社会コストの罠か。大阪に続くIR2枠目を狙う北海道に追い風が吹く一方、依存症・治安・環境破壊の影が重くのしかかる。

 国内で統合型リゾート(IR)の整備が、再び動き出した。カジノを含む大型リゾート開発をめぐっては、賛否が割れ続けてきた経緯がある。しかし現実として、法制度は整い、国も「次の2枠」に向けて正式な公募スケジュールを提示している。

 観光庁は昨年12月、残るIRの区域認定枠(最大3カ所のうち2枠)について、2027年5月から同年11月まで公募を行うと発表した。すでに一枠は大阪府・大阪市が認定を受け、2030年の開業を予定している。残る2枠に向け、自治体側の“再挑戦”が始まった格好だ。

 そのなかで、次の有力候補として浮上しているのが北海道である。道はIRに関する有識者懇談会を設置し、今月から議論を本格化させた。さらに地元財界や観光関連業界で誘致議論が活性化し、道議会でも自民会派を中心に検討組織が立ち上がるなど、かつての「慎重姿勢」から明確に空気が変わりつつある。

 だが、IRは“魔法の杖”ではない。経済効果の数字が大きければ大きいほど、反動として社会的コストの議論も避けられない。カジノ依存症や治安悪化、さらには自然環境の破壊といった問題は、推進派にとって不都合な論点であっても、読者が最も知りたいポイントでもある。

 北海道は本当に「国内2番目のIR誘致」を勝ち取れるのか。期待される経済効果とメリット、そして懸念されるデメリットを、現時点で整理する。

●目次

「残り2枠」へ動き出す国のスケジュール…大阪に続くのはどこか

 IR整備法(特定複合観光施設区域整備法)は、全国で最大3カ所までIR区域を認定できると定める。大阪が先行して認定されたことで、「次はどこが勝つのか」というフェーズに入った。

 この公募スケジュールが意味するのは、単なる自治体間の競争ではない。IRは民間事業者の投資が巨大であり、国の審査も厳格だ。さらに住民理解や議会合意、候補地の確保、交通インフラの整備、そしてカジノ規制・依存症対策の制度設計まで、準備に時間がかかる。

 つまり、2027年の公募に間に合わせるには、2026年の時点で「勝負に必要な体制」をほぼ整えていなければならない。

 そうした条件を踏まえると、北海道が今このタイミングで有識者懇談会を立ち上げたことは、誘致に向けた意思表示としての意味合いが大きい。

北海道はなぜ今、IRに再び前向きになったのか

 北海道がIR誘致を語り始めたのは、実は最近の話ではない。道は2012年という早い段階からIR誘致の議論を開始し、2019年には苫小牧市植苗地区を候補地に選んだ。

 しかし、当時の道は同年、誘致申請の見送りを表明している。背景には、カジノへの世論の慎重さ、候補地の環境面への懸念、そして政治的リスクがあったとされる。

 それでも再び議論が盛り上がっているのは、北海道が置かれた構造的な事情がある。

 第一に、経済の伸び悩みだ。観光資源に恵まれる一方で、産業の厚みという点では課題が残り、域内投資の呼び込みは長年のテーマである。

 第二に、人口流出と地域の地盤沈下だ。とくに若年層の流出は、労働市場の縮小だけでなく、消費・税収の減少を通じて、地域経済をじわじわと弱らせる。

 第三に、観光が“量”から“質”へ移行する局面に入っていることだ。訪日客が増えるだけでは、観光地は疲弊する。宿泊単価を上げ、滞在日数を延ばし、域内消費を増やす「高付加価値型観光」が求められている。

 IRは、まさにこの「高付加価値化」を象徴する政策ツールである。

道内で誘致の議論が再点火、苫小牧と函館が関心表明

 道内では、誘致を後押しする動きが相次いでいる。

 北海道経済連合会など地元財界は誘致に積極的とされ、道議会でも自民会派の約20人が参加する検討組織「IR調査会」が発足した。さらに観光庁も誘致をバックアップする姿勢を見せているという。

 道は昨年、道内179市町村を対象にIR整備に関する意向調査を実施し、苫小牧市と函館市がIR整備に関心があると表明した。

 今月からは、道が設置した有識者懇談会で議論が開始された。ここで問われるのは、単なる賛否ではない。「どの地域に、どの規模で、何を核とするIRをつくるのか」という設計思想そのものだ。

北海道が示す「経済波及2000億円」試算は何を意味するか

 道はIRの経済効果について、経済波及効果を最大で年2000億円、税収効果を234億円と試算している。数字だけを見れば非常に大きい。

 この規模がもたらすメリットは多岐にわたる。

(1)建設投資と雇用創出
IRはホテル、会議場(MICE)、商業施設、エンタメ施設などが一体となった大型開発であり、建設投資の波及は大きい。開業後も運営・警備・清掃・接客・イベントなど雇用は幅広い。

(2)観光の“滞在型”への転換
北海道観光は広域であり、移動距離が長い。IRが拠点となれば、滞在日数の延長や二次交通の整備、周遊観光の促進につながる可能性がある。

(3)MICE誘致の強化
国際会議、企業の大型イベントなど、MICEは地域に高単価の消費をもたらす。北海道が国際会議都市としてプレゼンスを高めれば、観光の安定化にも寄与する。

「IRの本質はカジノというより、MICEを含めた“通年型の集客装置”を地域に持つことです。北海道のように季節変動が大きい地域では、閑散期の需要を底上げできるかが勝負になります」(観光政策アナリスト・湯浅郁夫氏)

“最大2000億円”の数字には落とし穴も

 経済効果の試算は、自治体がIRを推進する際の根拠として提示されることが多い。一方で、試算がひとり歩きしやすい危うさもある。

 ポイントは、経済効果が「地域に残るお金」とは限らない点だ。

(1)収益の域外流出リスク
大阪IRでは運営主体が米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスである。北海道でも外資や大手資本が中心になれば、収益の一部は域外へ流れる。

「経済波及効果が大きく見えるほど重要なのは“地元企業がどこまで参画できるか”です。建設・運営の発注が道外企業中心になれば、道内の実感としては盛り上がりに欠ける可能性があります」(同)

(2)観光の食い合い問題
IRに観光需要が吸い寄せられることで、既存の観光地や宿泊施設が“カニバリゼーション(食い合い)”を起こすリスクもある。全体の観光消費が増えるのか、単に再配分されるだけなのかは、設計と運用次第だ。

最大の反対論点は「依存症・治安悪化」。社会的コストの現実

 IRのデメリットとして最も強く指摘されるのは、カジノ依存症の増加と治安悪化である。これは感情論ではなく、制度設計の問題だ。

(1)依存症対策は「後付け」では効かない
入場制限、本人確認、利用履歴の管理、相談支援体制など、依存症対策は制度設計の中核に置かなければならない。

精神科医からも「ギャンブル依存は意思の弱さではなく、脳の報酬系が変化する疾患です。IRを進めるなら、医療・福祉・家族支援を含めた“地域の受け皿”が不可欠になります」との指摘が出ている。

(2)治安悪化リスクは“ゼロにはできない”
犯罪が増えるかどうかは一概に言えないが、現金が動く場所には必ずリスクが伴う。防犯カメラや警備体制を強化すれば抑止は可能だが、地域の不安感が消えるわけではない。

苫小牧・植苗地区で懸念される「自然破壊」と合意形成の壁

 北海道IRの有力候補地として言及される苫小牧市植苗地区については、自然環境への影響が議論になりやすい。北海道のブランド価値は、まさに自然そのものに依拠している。ここを損なう形で開発が進めば、本末転倒になりかねない。

 環境問題は、単に“自然を守るべきだ”という理念だけでなく、観光地としての競争力に直結する。

「環境アセスは形式的に実施するだけでは意味がありません。湿地・生態系・水系への影響は、後から回復できないものも多く、計画段階での代替案検討が重要です」(湯浅氏)

 さらに、住民合意形成は最大の政治課題となる。IRは賛成派と反対派の対立が先鋭化しやすい。過去に見送りとなった経緯があるだけに、北海道が再び挑戦するなら、丁寧な説明と透明性が必須となる。

「北海道IR」は勝てるのか…鍵は“カジノ以外”の勝ち筋

 北海道が国内2番目のIR誘致を狙うなら、単に「経済効果が大きい」「人口流出対策になる」という主張だけでは弱い。求められるのは、北海道ならではの勝ち筋だ。

 具体的には、次の3点が問われる。

(1)観光の高付加価値化(富裕層・長期滞在)
北海道の強みは四季、食、自然、体験価値にある。IRを“入口”として、道内周遊に観光客を流せるか。

(2)MICEと産業集積(会議場+研究開発+スタートアップ)
IRを単なる観光施設で終わらせず、ビジネス交流や産業誘致の装置にできるか。

(3)地元企業参画(発注・雇用・地域金融)
域内循環が生まれなければ、数字ほどの実感は生まれない。地元企業が主体的に参画できる仕組みが必要だ。

IRは「経済政策」であり「社会政策」でもある

 IRは、地域経済の起爆剤になり得る。一方で、その副作用も強い。北海道が経済波及2000億円という試算を掲げるなら、同じ熱量で「社会的コストをどう抑えるか」「自然をどう守るか」「利益をどう地域に残すか」を示さなければならない。

 大阪に続く「国内2番目のIR」誘致は、北海道が最有力候補のひとつと言える。しかし勝負は、誘致の熱量だけでは決まらない。地域の未来像をどう描き、リスクとどう向き合うか――その設計力が問われている。

 北海道が目指すべきは、単なる“カジノのある街”ではない。観光・産業・雇用を持続的に生み出し、道内経済が自走する「稼ぐ仕組み」をつくれるかどうか。IRは、その覚悟が試される国家プロジェクトである。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)