メタ、93兆円投資で一国家分の電力を握る…「数百GW」構想がもたらす覇権の地殻変動 ●この記事のポイント ・メタが新組織「メタ・コンピュート」を設立し、2028年までに約93兆円を投じて数百GW級の計算基盤を構築へ。AI競争はモデルから電力・工場の物量戦に移行する。 ・原子力(SMR)との連携で電源を自前化するメタの戦略は、テック企業が「電力の消費者」から「供給主体」へ転じる転換点を示す。AI覇権はエネルギー安全保障と不可分となった。 ・元トランプ政権側近を起用したのは、AIインフラが資金調達・規制突破・国家交渉を要する“政治案件”だからだ。計算資源の集中はAIの公共性を揺さぶり、覇権構造を固定化する。 生成AIをめぐる競争の主戦場は、ここ数年「LLM(大規模言語モデル)の賢さ」だった。いかに自然な文章を生成し、どれほど高精度に推論し、ユーザー体験を磨き上げるか。勝敗は“ソフトウェアの出来”で決まる――そう信じられてきた。 しかし、米メタが新設したインフラ特化組織「Meta Compute(メタ・コンピュート)」は、その常識を根底から覆す。マーク・ザッカーバーグCEOが掲げたのは、2028年までに総額6,000億ドル(約93兆円)を投じ、数十〜数百ギガワット級の計算基盤を構築するという計画だ。 もはやこれは「企業の設備投資」ではない。国家予算に匹敵する物量を、AIのためだけに投入する“産業戦争”である。 言い換えれば、AIの勝者は「より賢いモデルを作る企業」ではなく、電力と半導体と土地を押さえ、24時間365日、巨大な計算機を回し続けられる企業になる。AI競争は、アルゴリズムから“工場”の戦いへ移行しつつある。 1. 「数百ギガワット」という数字の衝撃――計算機が“国家”を凌駕する時代 メタが掲げた「数百GW(ギガワット)」は、AIの世界において異様な破壊力を持つ数字だ。なぜなら、これは単なる“サーバー台数”の話ではなく、エネルギーインフラを支配する構想に直結するからである。 日本の発電設備容量(火力・水力・原子力・再エネの合計)は、2023年度末時点で約260GW規模とされる。ピーク需要は季節や気象条件にも左右されるが、全国合計で160〜180GW程度が目安になる。 つまりメタが「数百GW」を本気で実現するなら、それは一企業が日本という国家の電力インフラに匹敵する規模の受電・消費構造を持つことを意味する。 かつてITビジネスは「サーバーを借りれば起業できる」という、軽量でスケーラブルな“持たざる経営”の象徴だった。だが今、AIは真逆へ進んでいる。勝つためには、自前の「発電」「送電」「冷却」「半導体供給」を含む巨大装置産業化が避けられない。 計算資源の軍拡競争:データセンターではなく「AI工場」へ 従来のデータセンターは、あくまでクラウドサービスや企業システムのための“インフラ”だった。ところが生成AIの学習・推論は、電力とGPUを食い尽くす。規模が増えるほど競争優位が拡大するため、投資競争は指数関数的に激化する。 メタ・コンピュートが目指すのは、単なる大型DCではなく、最初からAI専用として設計された「AIファクトリー(工場)」の群れだ。ここでは、性能のボトルネックはCPUでもネットワークでもなく、電力供給と冷却である。 「電力が確保できないなら、計算は回らない。計算が回らなければ、モデルもサービスも成立しない。AI時代の競争優位は“データ”より“電力”に移っている」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏) 2. テック企業は「電力の消費者」から「供給主体」へ――原子力と垂直統合の現実 Metaの計画でより本質的なのは、計算基盤の規模ではなく、エネルギー戦略の質的転換である。 近年、米国ではTerraPowerやOkloなど、次世代原子力(SMR:小型モジュール炉)を軸に「AI時代の電源」を再定義する動きが進む。Metaもこうした原子力スタートアップとの提携を通じて、計6.6GW相当の原子力電力を確保したとされる。 この動きが示すのは、テック企業が「電力会社から買う側」ではなく、自ら電源を押さえ、供給構造を設計する側に回るという構図の変化だ。 日本が直面する「グリッド接続待ち」との決定的な差 日本でもデータセンター需要は増えているが、現場では「電力が足りない」「送電網につなげない」という課題が顕在化している。グリッド接続待ちで数年単位の遅延が生じる例も珍しくない。 この“電力ボトルネック”が、AI競争における致命傷になり得る。 対してメタは、既存の電力網を待たない。自ら原子力を取りに行き、電源と計算基盤を垂直統合する。速度と規模が違う。ここに、米国の資本市場と産業戦略の恐ろしさがある。 「いま世界で起きているのは、AI企業が電力会社の顧客ではなく“共同設計者”になるという変化だ。SMRはその象徴で、技術というより資本と規制対応のゲームになっている」(同) 3. 93兆円は「企業の賭け」ではない――国家級の資金力が競争のルールを書き換える メタが投じる6,000億ドル(約93兆円)は、金額だけで常識を破壊している。 日本の防衛予算(2024年度・約8兆円)の10倍超、一般会計(約112兆円)にも迫る規模を、単一企業が「AI計算力」という目的に集中投下する。しかも短期間で、である。 このインパクトは、投資家向けの“夢の数字”ではなく、産業構造の現実を映す。 AIの覇権競争は、もはや技術者の創意工夫だけで決まらない。電力・半導体・資本市場・政府交渉を束ねた総力戦である。言い換えるなら、AI競争の勝敗は「企業の財務体力」そのものに回帰している。 4. 異例の抜擢:ディナ・パウエル・マコーミックが握る「政治と金」 この巨大投資の舵取り役として、メタは新組織メタ・コンピュートの社長兼副会長にディナ・パウエル・マコーミック氏を据えた。トランプ政権で国家安全保障担当の補佐官を務め、ゴールドマン・サックスでも要職を歴任した人物である。 この人事は、AIインフラ投資が「技術」ではなく、政治・金融・規制突破の領域であることを示す。 データセンター建設には、電力・水資源・土地・環境規制・住民合意が絡む。さらに原子力を組み込むなら、連邦政府・州政府・規制当局との交渉は避けられない。 つまり彼女の役割は、エンジニアリングではない。資金調達の構造設計と、主権国家との交渉回路の確保だ。 「AIインフラは“国家安全保障案件”になった。データセンターは工場ではなく、戦略資産だ。だからMetaは政治と金融に強い人材を置いた」(同) 5. 他社も“電力戦争”へ:マイクロソフト、アマゾン、グーグル、そしてメタ メタの動きは突飛に見えるが、実態は「最も極端な先頭集団」だ。すでに主要テック各社は、電力と計算資源の確保へ舵を切っている。 ・マイクロソフト:OpenAIとの大型インフラ計画を推進し、クラウド優位を維持 • ・アマゾン(AWS):原子力発電所近接のデータセンター確保など、電力立地を最優先 • ・グーグル:TPUなど独自チップとネットワーク最適化で効率を追求 • ・メタ:メタ・コンピュートで垂直統合を徹底し、物量で圧倒 ここで重要なのは、グーグルのような“効率の優等生”ですら、最終的には電力制約に突き当たるという点だ。効率改善には限界がある。需要が増え続ける以上、最後は「どれだけ電力を持てるか」に回帰する。 6. AIが「公共財」から「私有財産」へ――次の10年に起きる危うい転換 ザッカーバーグは「パーソナル超知能(Personal Superintelligence)」を掲げる。誰もが超知能を使える世界をつくるという理想だ。 しかし、物理インフラの現実は逆の方向に働く。AIが高度化するほど、必要な計算資源は増え、参入障壁が上がり、巨額投資が可能なプレイヤーに集中する。 その結果、AIは“誰もが使える公共財”ではなく、一部の巨大企業が私有する戦略資産になりかねない。 さらに、地域社会との摩擦も避けられない。水資源、電力系統、土地利用、雇用、環境負荷。データセンターは地方経済の救世主とされる一方で、“迷惑施設化”するリスクも抱える。 「計算資源の集中は、AIの民主化ではなく“寡占化”を生む。電力とGPUを握る者が、知能へのアクセス権を決める構造になりつつある」(同) 結論:21世紀の「石油」を掘り当てるのは誰か 20世紀の覇者が石油を制したように、21世紀の覇者は「計算能力という名のエネルギー」を制する。メタは今、その覇権を取りに行っている。 93兆円の賭けは、Metaをソーシャルメディア企業から「地球規模のインフラ企業」へと変貌させるのか。それとも、電力と規制と地域社会の壁に阻まれ、巨大な負債を抱えるのか。 ただ一つ確かなのは、AI競争の勝敗が「モデルの賢さ」だけでは決まらない時代に入ったという事実だ。今後の10年、世界の産業地図を塗り替えるのは、コードではなく――電力と工場と外交ルートである。そのカウントダウンは、すでに始まっている。 (文=BUSINESS JOURNAL編集部)

●この記事のポイント
・メタが新組織「メタ・コンピュート」を設立し、2028年までに約93兆円を投じて数百GW級の計算基盤を構築へ。AI競争はモデルから電力・工場の物量戦に移行する。
・原子力(SMR)との連携で電源を自前化するメタの戦略は、テック企業が「電力の消費者」から「供給主体」へ転じる転換点を示す。AI覇権はエネルギー安全保障と不可分となった。
・元トランプ政権側近を起用したのは、AIインフラが資金調達・規制突破・国家交渉を要する“政治案件”だからだ。計算資源の集中はAIの公共性を揺さぶり、覇権構造を固定化する。

 生成AIをめぐる競争の主戦場は、ここ数年「LLM(大規模言語モデル)の賢さ」だった。いかに自然な文章を生成し、どれほど高精度に推論し、ユーザー体験を磨き上げるか。勝敗は“ソフトウェアの出来”で決まる――そう信じられてきた。

 しかし、米メタが新設したインフラ特化組織「Meta Compute(メタ・コンピュート)」は、その常識を根底から覆す。マーク・ザッカーバーグCEOが掲げたのは、2028年までに総額6,000億ドル(約93兆円)を投じ、数十〜数百ギガワット級の計算基盤を構築するという計画だ。

 もはやこれは「企業の設備投資」ではない。国家予算に匹敵する物量を、AIのためだけに投入する“産業戦争”である。

 言い換えれば、AIの勝者は「より賢いモデルを作る企業」ではなく、電力と半導体と土地を押さえ、24時間365日、巨大な計算機を回し続けられる企業になる。AI競争は、アルゴリズムから“工場”の戦いへ移行しつつある。

●目次

「数百ギガワット」という数字の衝撃――計算機が“国家”を凌駕する時代

 メタが掲げた「数百GW(ギガワット)」は、AIの世界において異様な破壊力を持つ数字だ。なぜなら、これは単なる“サーバー台数”の話ではなく、エネルギーインフラを支配する構想に直結するからである。

 日本の発電設備容量(火力・水力・原子力・再エネの合計)は、2023年度末時点で約260GW規模とされる。ピーク需要は季節や気象条件にも左右されるが、全国合計で160〜180GW程度が目安になる。

 つまりメタが「数百GW」を本気で実現するなら、それは一企業が日本という国家の電力インフラに匹敵する規模の受電・消費構造を持つことを意味する。

 かつてITビジネスは「サーバーを借りれば起業できる」という、軽量でスケーラブルな“持たざる経営”の象徴だった。だが今、AIは真逆へ進んでいる。勝つためには、自前の「発電」「送電」「冷却」「半導体供給」を含む巨大装置産業化が避けられない。

計算資源の軍拡競争:データセンターではなく「AI工場」へ

 従来のデータセンターは、あくまでクラウドサービスや企業システムのための“インフラ”だった。ところが生成AIの学習・推論は、電力とGPUを食い尽くす。規模が増えるほど競争優位が拡大するため、投資競争は指数関数的に激化する。

 メタ・コンピュートが目指すのは、単なる大型DCではなく、最初からAI専用として設計された「AIファクトリー(工場)」の群れだ。ここでは、性能のボトルネックはCPUでもネットワークでもなく、電力供給と冷却である。

「電力が確保できないなら、計算は回らない。計算が回らなければ、モデルもサービスも成立しない。AI時代の競争優位は“データ”より“電力”に移っている」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)

テック企業は「電力の消費者」から「供給主体」へ――原子力と垂直統合の現実

 メタの計画でより本質的なのは、計算基盤の規模ではなく、エネルギー戦略の質的転換である。

 近年、米国ではTerraPowerやOkloなど、次世代原子力(SMR:小型モジュール炉)を軸に「AI時代の電源」を再定義する動きが進む。メタもこうした原子力スタートアップとの提携を通じて、計6.6GW相当の原子力電力を確保したとされる。

 この動きが示すのは、テック企業が「電力会社から買う側」ではなく、自ら電源を押さえ、供給構造を設計する側に回るという構図の変化だ。

日本が直面する「グリッド接続待ち」との決定的な差

 日本でもデータセンター需要は増えているが、現場では「電力が足りない」「送電網につなげない」という課題が顕在化している。グリッド接続待ちで数年単位の遅延が生じる例も珍しくない。

 この“電力ボトルネック”が、AI競争における致命傷になり得る。

 対してメタは、既存の電力網を待たない。自ら原子力を取りに行き、電源と計算基盤を垂直統合する。速度と規模が違う。ここに、米国の資本市場と産業戦略の恐ろしさがある。

「いま世界で起きているのは、AI企業が電力会社の顧客ではなく“共同設計者”になるという変化だ。SMRはその象徴で、技術というより資本と規制対応のゲームになっている」(同)

93兆円は「企業の賭け」ではない――国家級の資金力が競争のルールを書き換える

 メタが投じる6,000億ドル(約93兆円)は、金額だけで常識を破壊している。

 日本の防衛予算(2024年度・約8兆円)の10倍超、一般会計(約112兆円)にも迫る規模を、単一企業が「AI計算力」という目的に集中投下する。しかも短期間で、である。

 このインパクトは、投資家向けの“夢の数字”ではなく、産業構造の現実を映す。

 AIの覇権競争は、もはや技術者の創意工夫だけで決まらない。電力・半導体・資本市場・政府交渉を束ねた総力戦である。言い換えるなら、AI競争の勝敗は「企業の財務体力」そのものに回帰している。

異例の抜擢:ディナ・パウエル・マコーミックが握る「政治と金」

 この巨大投資の舵取り役として、メタは新組織メタ・コンピュートの社長兼副会長にディナ・パウエル・マコーミック氏を据えた。トランプ政権で国家安全保障担当の補佐官を務め、ゴールドマン・サックスでも要職を歴任した人物である。

 この人事は、AIインフラ投資が「技術」ではなく、政治・金融・規制突破の領域であることを示す。

 データセンター建設には、電力・水資源・土地・環境規制・住民合意が絡む。さらに原子力を組み込むなら、連邦政府・州政府・規制当局との交渉は避けられない。

 つまり彼女の役割は、エンジニアリングではない。資金調達の構造設計と、主権国家との交渉回路の確保だ。

「AIインフラは“国家安全保障案件”になった。データセンターは工場ではなく、戦略資産だ。だからMetaは政治と金融に強い人材を置いた」(同)

他社も“電力戦争”へ:マイクロソフト、アマゾン、グーグル、そしてメタ

 メタの動きは突飛に見えるが、実態は「最も極端な先頭集団」だ。すでに主要テック各社は、電力と計算資源の確保へ舵を切っている。

 ・マイクロソフト:OpenAIとの大型インフラ計画を推進し、クラウド優位を維持
 ・アマゾン(AWS):原子力発電所近接のデータセンター確保など、電力立地を最優先
 ・グーグル:TPUなど独自チップとネットワーク最適化で効率を追求
 ・メタ:メタ・コンピュートで垂直統合を徹底し、物量で圧倒

 ここで重要なのは、グーグルのような“効率の優等生”ですら、最終的には電力制約に突き当たるという点だ。効率改善には限界がある。需要が増え続ける以上、最後は「どれだけ電力を持てるか」に回帰する。

AIが「公共財」から「私有財産」へ――次の10年に起きる危うい転換

 ザッカーバーグは「パーソナル超知能(Personal Superintelligence)」を掲げる。誰もが超知能を使える世界をつくるという理想だ。

 しかし、物理インフラの現実は逆の方向に働く。AIが高度化するほど、必要な計算資源は増え、参入障壁が上がり、巨額投資が可能なプレイヤーに集中する。

 その結果、AIは“誰もが使える公共財”ではなく、一部の巨大企業が私有する戦略資産になりかねない。

 さらに、地域社会との摩擦も避けられない。水資源、電力系統、土地利用、雇用、環境負荷。データセンターは地方経済の救世主とされる一方で、“迷惑施設化”するリスクも抱える。

「計算資源の集中は、AIの民主化ではなく“寡占化”を生む。電力とGPUを握る者が、知能へのアクセス権を決める構造になりつつある」(同)

21世紀の「石油」を掘り当てるのは誰か

 20世紀の覇者が石油を制したように、21世紀の覇者は「計算能力という名のエネルギー」を制する。メタは今、その覇権を取りに行っている。

 93兆円の賭けは、Metaをソーシャルメディア企業から「地球規模のインフラ企業」へと変貌させるのか。それとも、電力と規制と地域社会の壁に阻まれ、巨大な負債を抱えるのか。

 ただ一つ確かなのは、AI競争の勝敗が「モデルの賢さ」だけでは決まらない時代に入ったという事実だ。今後の10年、世界の産業地図を塗り替えるのは、コードではなく――電力と工場と外交ルートである。そのカウントダウンは、すでに始まっている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)