●この記事のポイント
・再エネ主力化の成否を握る蓄電池。その製造でボトルネックとなる「化成(後工程)」に特化し、ファクテムが日本の競争力回復を狙う。
・中国のギガファクトリー経験を武器に、充放電検査装置を核としたワンストップ提案で後工程を統合。工程短縮と品質評価を支える。
・電池を「生き物」と捉え、検査データを寿命予測やリユースに活用。2028年の直流スマート工場構想で省エネ化も描く。
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、日本のエネルギー戦略は大きな転換点にある。再生可能エネルギーの導入量が増えるほど、発電量は天候に左右されやすくなり、電力の“揺らぎ”が課題として浮かび上がる。
この揺らぎを吸収し、電力を「使える形」に整える存在として、蓄電池の重要性は年々高まっている。
一方で、蓄電池は「作れば終わり」ではない。性能、寿命、安全性――それらを決めるのは材料や設計だけではなく、製造工程の精度や管理、そして完成後の評価・データの扱い方にまで及ぶ。とりわけ現場で長く“重たい工程”とされてきたのが、後工程の中核である「化成(かせい)」だ。
このニッチだが極めて重要な領域に、設備メーカーとして切り込み、さらに工場全体の姿まで描こうとしている企業がある。北九州市に本社を置く株式会社ファクテムだ。代表取締役の川越健二氏は、中国で巨大な電池産業が立ち上がっていく過程を現場で見てきたエンジニア。レッドオーシャンとされる電池産業で、同社はどこに勝機を見出したのか――。インタビューから、その戦略の輪郭を紐解く。
●目次
- 「工場のシステムそのものを作る」社名に込めた覚悟
- 中国での「敗北」が教えた、伸びる領域の見極め方
- 誰もが敬遠した「化成工程」を、独壇場に変える
- 「電池は生き物」だからこそ、データが資産になる
- 「やりたいなら、やってみよう」──成長企業の組織づくり
- 福岡に現れる「未来の工場」──直流スマートファクトリー構想
- ディープテック起業家への示唆
「工場のシステムそのものを作る」社名に込めた覚悟
ファクテムという社名は、「Factory System」の頭と後ろをつないで作った造語だという。川越氏は創業時をこう振り返る。
「もともとは特定の業界に絞らず、工場の自動化設備全般、いわゆるファクトリー・オートメーションを極める会社として、2015年に立ち上げました」
設立から約10年。現在、同社の事業の中心は車載用リチウムイオン電池の製造設備、特に「充放電検査装置」にある。インタビューでは「国内屈指のシェアをうかがう」との手応えも語られた。
「現在の事業の9割以上は、EVやハイブリッド車向けのバッテリー製造設備です。北米のEV投資は政策の影響で一時的な停滞が見られる局面もありますが、ハイブリッド車向けや、AIの普及に伴うデータセンター用途の蓄電池需要が伸びています。用途が広がるほど、検査や評価の重要性は増していきます」
ここで注意したいのは、電池市場の“勝ち負け”が、セルメーカー(電池メーカー)の規模だけで決まりにくくなっている点だ。用途が多様化するほど「品質を揃える」「劣化を読める」「安全を担保する」といった運用側の要請が強まる。つまり、後工程やデータの価値が相対的に上がる。ファクテムの狙いは、まさにここにある。
中国での「敗北」が教えた、伸びる領域の見極め方
川越氏のキャリアは、電池産業の激動期と重なる。大学卒業後、自動車部品メーカーを経て、北九州のバッテリー製造設備メーカーに転職。そこで「充放電検査装置」という分野に出会った。2010年から上海に駐在し、中国のEV・バッテリーメーカー向けに全自動設備の構築に携わった。
「2010年から15年の5年間で、中国の地場企業が製造ノウハウを一気に吸収していきました。外資の助けがなくても回るレベルまで、驚くほどのスピードで到達した」
中国市場で起きたのは、単なるコスト競争ではない。設備を入れ、回し、改善する――そのサイクルを高速で回すことで、ノウハウが“内製化”されていく。結果として、外部ベンダーの立ち位置が変わる。川越氏が語る「敗北」とは、価格面というより、産業の学習速度で置いていかれる感覚に近い。
その経験を経て川越氏は帰国し、ファクテムを設立した。「もう一度、日本の電池業界が活性化すればいい」。中国でギガファクトリー構築に関与した経験を、今度は日本の現場に転用する。勝てる場所はどこか――その問いへの回答が、次に語られる「化成工程」だった。
誰もが敬遠した「化成工程」を、独壇場に変える
電池の製造は大きく、①電極を作る「極板工程」、②電池の形に組む「組み立て工程」、③電気を流して活性化させ性能を確認する「化成工程(後工程)」に分かれる。
このうち化成工程は、完成した電池を何度も充放電させ、性能を“育て”ながら検査する。化学反応を伴うため時間がかかり、完成までに数日から1週間程度を要する場合もあると言われる。装置も大型化しがちで、電池メーカーにとっては設備投資負担が重く、工場のスループット(生産能力)を左右しやすい。要するに「コスト・時間・スペース」をまとめて要求する、厄介だが不可欠な工程だ。
川越氏は、メーカー側の心理をこう説明する。
「電池メーカーさんが最もリソースを割きたいのは、性能に直結する前工程です。化成以降は、ある意味で『できてしまった電池』の評価。優先順位が低くなりがちで、アウトソーシングしたいという潜在ニーズがありました。化成工程に係る担当は全体数の4%程度というケースもある」
ここに、ファクテムの勝機がある。化成工程には、充放電検査だけでなく、測定、判定、搬送、温調、安全設計など、多数の周辺装置が絡む。メーカーが個別発注すると、仕様調整・責任分界・データ統合が複雑化しやすい。
そこで同社は、複数装置をまとめて提案し、納入し、運用まで含めて面倒を見る「ワンストップ体制」を打ち出した。
「中国の巨大プロジェクトで全自動ラインを構築してきた人材がいます。元電池メーカーで開発や管理職をしていたメンバーも合流している。単に言われた通りの機械を作るのではなく、電池の特性を理解した上で工程そのものに提案できる。これが選ばれる理由だと思っています」
ここで重要なのは、同社が“装置単体の性能”だけを語っていない点だ。後工程は工程が長く、装置が増え、データも散らばる。だからこそ「統合設計」と「運用の設計」が価値になる。設備メーカーが一段上に出るには、ここが境目になる。
「電池は生き物」だからこそ、データが資産になる
川越氏は電池を「生き物」と表現する。化学反応を伴う以上、同じ条件で作ったつもりでも、個体差や環境差は避けられない。だからこそ後工程で得られるデータは、単なる検査結果ではなく、電池の「健康診断書」になり得る。
「これまではデータを送るだけでしたが、今後は前工程の製造データと照らし合わせて、不良の原因を特定したり、寿命を予測したりする取り組みを、お客さんと始めています」
この話は、電池が“使われる場所”の多様化と相性がいい。電池は車、家庭、産業、データセンターなど用途ごとに求められる安全基準や運用条件が異なる。性能のばらつきをどう扱うか、寿命をどう見立てるかは、製造現場のデータ設計が握る。
さらに、データはリユース(再利用)市場にも接続する。車載用として役目を終えた電池を、家庭用・産業用の蓄電池として使う構想は以前から語られてきたが、安全性・品質担保は簡単ではない。
ここで「新品として出荷された時点の履歴が残っている」ことの価値が増す。後工程データは、電池の“来歴”を証明する材料になり得るからだ。
設備を売るだけでなく、データを“使える形”に整え、次の市場まで見据える。ファクテムの戦略が、単なるエンジニアリングメーカーではなく、インフラ企業的な色合いを帯びてくる理由がここにある。
「やりたいなら、やってみよう」──成長企業の組織づくり
急成長局面の企業にとって、技術や市場以上に難しいのが組織だ。川越氏はスタートアップらしい柔軟さを語る。
「大手にいた技術者の中には、組織の論理に縛られてやりたいことができなかった人も多い。ファクテムでは『面白そうだからやってみたい』という声があれば、基本的に『いい、やってみよう』と即決します。モチベーションこそが最高の技術を生みますから」
一方で、製造業に共通する課題も避けて通れない。熟練工の暗黙知を、どう若手に伝えるか。川越氏は「同じ苦労をさせるわけにはいかない」と話す。
ここは同社にとっての“試験問題”でもある。後工程の価値が上がるほど、現場力の差は競争力になる。その現場力を、再現可能な仕組みにできるかどうか――。ファクテムが掲げる「工場のシステムそのものを作る」が本物かどうかは、この点にもかかっている。
福岡に現れる「未来の工場」──直流スマートファクトリー構想
ファクテムが描く未来像は、設備メーカーの枠を超えつつある。福岡県北九州市の本社工場で、同社が提唱する「直流スマートファクトリー」を実証実験中である。
「太陽光パネルが発電する電気は直流で、電池に貯める電気も直流です。工場では一度交流に変えて使い、必要に応じてまた直流に戻す。そこでロスが生まれる。ならば、工場全体を直流で動かせばいい。工場そのものを巨大な蓄電システムに変えられます」
この構想が示すのは、蓄電池が“製品”に留まらず、“工場の設計思想”を変える可能性だ。エネルギーを作り、貯め、使い、制御する――。それを工場単位で最適化できれば、再エネ比率が高まるほど価値が出る。
もちろん、実証にはハードルもある。工場内の機器・安全基準・既存インフラとの接続など、直流化は理想論だけでは進まない。加えて、投資回収の見通し(どれだけロスが減り、どれだけコストが下がるか)を示す必要もある。
それでも、電池と電力マネジメントを“同じ地平”で扱える企業が、国内で多いわけではない。設備メーカーとしての延長線上にありながら、エネルギーインフラ側へ踏み込む。ここにファクテムの野心がある。
ディープテック起業家への示唆
蓄電池という領域は、たしかに資本力勝負に見える。セルメーカー同士の競争だけを見れば、規模の経済が支配しやすいからだ。
だが川越氏は、戦う場所を「化成工程」という特定プロセスに絞り、さらに「データと知見の統合」で価値を上げる道を選んだ。つまり、勝負の土俵そのものをずらした。
最後に川越氏は、「勝てる領域の見極め方」をこう語った。
「従来のユーザーとメーカーの関係を超えて、パートナーとしてパッケージを販売していく。そこまでいければ、スタートアップでも十分な存在感を示せます」
製造業の強みは、ベテランの知見と現場の改善力にある。一方で、弱点はその知見が“属人化”しやすいことだ。ファクテムが掲げるのは、その知見を工程設計とデータで包み込み、再現可能な仕組みに変える挑戦でもある。
日本のモノづくりが再び世界で存在感を示すとしたら、こうした「後工程」「データ」「統合設計」という、これまで主役になりにくかった領域にこそ、次の答えがあるのかもしれない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)
取材協力:株式会社ファクテム
福岡県北九州市に本社を置く。二次電池(リチウムイオン電池等)の製造設備、特に充放電検査装置の企画・設計・製造を手掛ける。中国での大規模ラインビルド経験を持つエンジニア集団を擁し、日本の蓄電池産業のDXに取り組む。