ECの主役がアマゾンからグーグルへ…Shopify・Visaとの連合でAIが買い物を完結

●この記事のポイント
・グーグルが本格始動させた「Agentic Commerce」は、AIが検索から決済までを代行する新たなECのOSだ。物流を握るアマゾンに対し、判断と実行を支配するAI基盤で覇権奪還を狙う。
・Geminiを起点に、ShopifyやVisaと連携するグーグルは、ECを自社に囲い込まない“強者連合”戦略を選択した。アマゾン依存からの脱却を促すこの動きは、小売業の力学を変えつつある。
・消費者の入口がECサイトからAIエージェントへ移行する時代、ブランドは「人に選ばれる」だけでは不十分になる。日本企業に突きつけられるのは、「AIに選ばれる存在」への転換だ。

 長らくEC(電子商取引)の世界では、アマゾンが事実上の“標準”として君臨してきた。検索、比較、購入、決済、配送――あらゆる体験を自社のプラットフォーム内に閉じ込めることで、他を寄せ付けない強固な経済圏を築き上げたからだ。

 しかし2026年、その構図が大きく揺らぎ始めている。検索の巨人・グーグルが本格始動させた「Agentic Commerce(エージェンティック・コマース)」は、単なるEC機能の拡張ではない。AIがユーザーの代わりに“意思決定し、実行まで担う”という、新しい商取引のOSを提示する試みである。

●目次

「検索」から「実行」へ──買い物を“考えない”時代の到来

 従来のネットショッピングは、表面的には便利になったようでいて、実態は依然として「人間の労働」に依存していた。複数のサイトを開き、価格やレビューを比較し、在庫や配送日を確認し、決済情報を入力する。ユーザーは無意識のうちに、購買プロセスの大半を自ら担ってきたのである。

 グーグルが描く未来は、これを根底から覆す。ChromeのAIモードやGemini上で「キャンプ用テントを、予算5万円以内で評価の高いものから選んで購入して」と指示するだけで、AIが検索、比較、最適化、決済までを一気通貫で代行する。

 この思想自体は、OpenAIの「Atlas」やPerplexityのエージェント機能とも共通する。だが決定的に異なるのは、グーグルが世界最大の検索インデックスとブラウザ、決済基盤を同時に握っている点だ。

「Agentic Commerceの本質は、AIが“提案する存在”から“実行責任を負う存在”へと進化した点にある。これはUXの改善ではなく、購買行動そのものの自動化だ」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

決済の摩擦ゼロ、Geminiが“店舗”になる瞬間

 ユーザー体験において最も破壊的なのは、GeminiやChrome上に直接埋め込まれる購入・決済機能である。会話の流れから一切離脱することなく、Google WalletやGoogle Pay、PayPalに保存された情報を用いて即時決済が完了する。

 配送状況や在庫もAIがリアルタイムで小売事業者と同期し、「いつ届くか」「在庫はあるか」を確認するために別サイトを開く必要はない。

 これはECサイトが担ってきた「店舗機能」を、AIインターフェースそのものが吸収することを意味する。

「ユーザーは“どこで買うか”を意識しなくなる。意識するのは“誰に任せるか”だけであり、その座を狙っているのがGeminiだ」(同)

小売業に現れる「バーチャル販売員」…クーポン不要の、超パーソナライズ販促

 Agentic Commerceは、消費者だけでなく小売事業者側の構造も変える。グーグルのAI機能を自社サイトに統合すれば、24時間稼働する高度なバーチャル販売員を常駐させることが可能になる。

 AIはユーザーと直接対話し、商品説明や比較、在庫確認を行う。さらに重要なのが、リアルタイムで生成される個別最適化の販促施策だ。

 従来のように、不特定多数に向けたクーポンをばら撒く必要はない。AIは「今このユーザーが、どの条件なら購入するか」を判断し、その瞬間にだけ、最小限の値引きや特典を提示する。

「これは販促の自動化ではなく、利益率の最適化エンジンだ。マーケターの役割は“施策を作る”ことから、“AIにどう判断させるか”へ変わる」(同)

対アマゾン、最強の「アンチ・エージェント連合」

 グーグルの戦略が巧妙なのは、自らが在庫を持つ小売業者にならない点にある。今回の発表では、Shopify、ウォルマート、Visa、American Expressといった巨大プレイヤーとの提携が明らかにされた。

 これは、物流と在庫を自社に囲い込む「アマゾンモデル」とは正反対の思想だ。グーグルはあくまで“中立的なAIハブ”に徹し、データの独占もしないと明言している。

 小売側にとっては、
・アマゾンへの高い手数料
・顧客データのブラックボックス化
という長年の不満からの脱却を意味する。

「アマゾンは“市場”だが、グーグルは“OS”になろうとしている。この違いは、長期的には極めて大きい」(同)

ECの勝者は「物流」ではなく「判断」を制する

 かつてグーグルは、「世界中の情報を整理する」ことで覇権を握った。いま同社が狙うのは、その次の段階――人間の行動そのものを代行することだ。

 Agentic Commerceが普及すれば、消費者の入口はECサイトではなく、AIエージェントという単一の窓口に集約される。そこではブランド力よりも、「AIにどう評価されるか」が売上を左右する。

 アマゾンが築いたのは「物流の帝国」だったが、グーグルが挑むのは、「判断のOS」を巡る戦いである。

 この地殻変動の只中で、日本の小売業者やマーケターに残された時間は多くない。自社は“人に選ばれるブランド”である前に、“AIに選ばれる存在”か。その問いに答えられない企業は、静かに購買導線から消えていくことになるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)