相次ぐモバイルバッテリーの発火事故…市場を激変させる“燃えない電池”も続々登場

●この記事のポイント
・日比谷線で発生したモバイルバッテリー発火事故は、個人の持ち物が都市インフラを脅かす時代に入ったことを示した。老朽化リチウム電池の危険性と、2026年から進む規制強化、次世代「燃えない電池」への転換を追う。
・相次ぐ発火事故を受け、政府は2026年4月から回収責任を強化。安価な海外製バッテリーは淘汰され、市場は安全技術重視へ転換する。日本勢が主導する次世代電池が新たな競争軸となる。
・通勤電車で起きた発火事故は他人事ではない。劣化バッテリーの見分け方と、ナトリウムイオン電池や準固体電池といった「燃えない」選択肢を提示し、安全を投資と捉える視点を示す。

 2026年1月21日朝、東京メトロ日比谷線の車内でモバイルバッテリーが発火し、通勤時間帯の車内は一時騒然となった。幸い大惨事には至らなかったものの、密閉空間で発生した「小さな火災」は、都市インフラの脆弱性を浮き彫りにした。

問題は、この事故が決して「想定外」ではなかった点にある。私たちのカバンの中には、すでに寿命を迎えつつあるリチウムイオン電池が大量に存在しており、それらは今や個人の持ち物という域を超え、社会全体のリスク要因となり始めている。

●目次

通勤路に潜む「動く火薬庫」…老朽化するリチウム電池という構造問題

 事故直後、SNSには白煙が立ちこめる車内や、乗客が車両から避難する様子が次々と投稿された。多くの人が驚いたのは、「あれほど身近な製品が、ここまで危険になり得るのか」という事実だろう。

 モバイルバッテリーの国内普及が本格化したのは2010年代前半。すでに10年以上が経過し、市場には経年劣化した製品が大量に残存している。

 電池技術に詳しい戦略コンサルタントの高野輝氏は、次のように警鐘を鳴らす。

「リチウムイオン電池は消耗品です。内部のセパレーター(絶縁材)は年数とともに劣化し、外見上は問題がなくても、内部ではショート寸前というケースが珍しくありません」

 これはもはや個人のモラルや注意喚起で片づけられる問題ではない。通勤電車、航空機、オフィスビル、イベント会場――。人が密集する場所に持ち込まれる“可燃物”として、モバイルバッテリーは新たなBCP(事業継続計画)リスクになりつつある。

政府の逆襲と「2026年4月ショック」…売りっぱなしモデルの終焉

 相次ぐ事故を受け、経済産業省は制度面での大きな転換に踏み切った。2026年4月に施行予定の改正・資源有効利用促進法では、小型充電式電池についても、メーカーや販売事業者に対し回収・再資源化体制の構築が事実上義務化される。

 背景には、事故増加だけでなく、「誰も最後まで責任を取らない市場構造」への強い問題意識がある。

「これまでの日本市場は、海外製の安価な製品が“売り逃げ”できてしまう構造でした。回収責任を課すことで、安全にコストをかけない企業は自然淘汰されることになります」(同)

 この制度改正は、業界関係者の間で「2026年4月ショック」と呼ばれている。とりわけ影響が大きいのが、法人向けノベルティや備品として大量配布されてきた低価格帯バッテリーだ。企業にとっては、配布済み製品が“回収義務付き負債”に変わる可能性すらある。

「リチウム・パラドックス」の終焉…日本勢が仕掛ける次世代電池

 リチウムイオン電池は、長らく「高容量化」を至上命題として進化してきた。しかし、エネルギー密度を高めるほど、内部ショート時の発火エネルギーも増大する。この構造的ジレンマは、業界で「リチウム・パラドックス」と呼ばれてきた。

 この袋小路を突破しつつあるのが、日本メーカー主導の次世代電池技術だ。

ナトリウムイオン電池

2025年、エレコムが世界に先駆けて量産化したナトリウムイオン電池は、可燃性が極めて低く、釘を刺しても発火しないレベルの安全性を実証している。

「ナトリウムはリチウムと比べて反応性が低く、熱暴走が起きにくい。多少重くても、“燃えない”価値は圧倒的です」(同)

準固体(セミソリッド)電池

オウルテックやMOTTERUなどが採用する準固体電池は、電解質をゲル化することで液漏れと発火リスクを抑制する技術だ。全固体電池の実用化を待たず、現実的な価格帯で安全性を引き上げる“橋渡し技術”として注目されている。

あなたのカバンの中の「時限爆弾」…今すぐ確認すべき3つのチェックポイント

 専門家が口を揃えて勧めるのが、「使い続けない勇気」だ。次の3点に該当する場合、即時の買い替えが望ましい。

 ・本体が膨らんでいないか…机に置いてガタつくのは内部ガス発生のサインだ。
 ・購入から2年以上経過していないか…充放電300〜500回が安全限界とされる。
 ・PSEマークと製造元が明確か…責任主体が不明な製品は、事故時の補償が期待できない。

 かつて数千円で買えた「大容量」の安心感は、いまや都市機能を止めかねないリスクと隣り合わせだ。2026年、問われているのは「容量」ではなく、「燃えないという設計思想」である。

 ナトリウムイオン電池や準固体電池への移行は、単なるガジェット選びではない。個人の安全、企業のBCP、そして社会インフラを守るための投資判断だ。

 モバイルバッテリーは、もはや消耗品ではない。次世代インフラとして選別される時代が、すでに始まっている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)