●この記事のポイント
・「19階建てマンション」は法規上安全でも、長周期地震動への解析が省略されがちだ。超高層よりも検証が浅い“制度の盲点”が、地震後の居住継続性に深刻な差を生む可能性がある。
・高さ60mを境に義務化される「時刻歴応答解析」。コストと工期を避けるため19階で止める設計が増える一方、共振リスクは法規の外に置かれてきた実態を検証する。
・耐震基準は「倒壊防止」が目的で、「住み続けられる」保証ではない。マンション選びで本当に見るべきは階数ではなく、解析の深さと設計思想だ。
2025年11月、熊本地方を襲った地震は、日本の高層建築に潜む「見えにくいリスク」を改めて浮き彫りにした。震源から離れた地域でも、高層建築がゆっくり、そして大きく揺れ続けた――原因は長周期地震動である。
海外に目を向ければ、香港で発生したタワーマンション火災など、高層居住の脆弱性を示すニュースも相次ぐ。こうした状況下で、構造設計の専門家の間では、ある“不都合な問い”が囁かれている。
「本当に危ないのは、超高層タワマンではなく、その一歩手前の“19階建てマンション”ではないか」
その真相を追った。
●目次
「20階の壁」に隠された建築制度の境界線
日本の建築基準法には、明確な“線引き”が存在する。それが高さ60メートル(おおむね20階建て)だ。
この高さを超える建築物は「超高層建築物」として扱われ、
・時刻歴応答解析
・国土交通大臣の個別認定
という、極めて厳格なプロセスを経なければならない。
時刻歴応答解析とは、過去の巨大地震の実際の地震波を用い、建物が0.01秒単位でどう揺れ、どこに歪みが集中するかをシミュレーションする高度な解析手法だ。長周期地震動による共振リスクも、この段階で詳細に検証される。
ただし、この解析には数千万円規模のコストと、半年以上の時間がかかることも珍しくない。着工の遅れは、金利負担や販売計画に直結する――デベロッパーにとっては、まさに“経営の急所”だ。
あえて「19階」で止めるデベロッパーの合理性
そこで多くのデベロッパーが選択するのが、高さを60m未満に抑える設計である。
この場合、
・時刻歴応答解析は義務ではない
・比較的簡便な「ルート計算」で建築確認が通る
・工期短縮・コスト削減が可能
というメリットが生まれる。結果として、都市部には「19階建てマンション」が数多く供給されてきた。
しかし、物理法則は法律の境界線を尊重してはくれない。
「長周期地震動は、建物の高さと剛性によって特定の周期で共振します。解析済みの超高層は対策が講じられていますが、19階以下は“最も揺れやすい周期”を持つ可能性がある」(い級建築士・地震研究家の香月真輔氏)
「倒壊しない」と「住み続けられる」は全く別物
ここで重要なのは、日本の耐震基準が何を目的としているかだ。
現行基準の主眼は、「震度6強〜7でも倒壊せず、人命を守る」ことであり、地震後に快適に住み続けられるかどうかは、必ずしも保証されていない。構造体が無事でも、「エレベーター停止」「配管破断」「内装の広範な損傷」が起きれば、実質的には住めない。
「一戸あたり100万円超の一時金が必要になるケースもある。管理組合の合意形成は、極めて困難です。60mという境界線が“安全の断絶”になっているのは、業界では周知の事実です。時刻歴応答解析を行えば歪みの集中箇所は一目瞭然ですが、19階以下ではそこがブラックボックスのまま進む。皮肉ですが、最新解析を経た30階建てより、15〜19階の従来型マンションの方が、地震後に住めなくなる可能性は十分ある」(同)
マンション購入前に確認すべき「3つの視点」
① 任意の時刻歴応答解析を実施しているか
良心的なデベロッパーは、義務でなくても解析を行っている。
② 地盤と構造の相性
湾岸部など軟弱地盤では長周期地震動が増幅しやすい。
③ 営業担当への質問力
「長周期地震動を考慮した解析を行っていますか?」
この問いに、具体的な説明が返ってくるか。
「19階だから安心」「タワマンは危険」――そんな単純な二元論は、もはや通用しない。重要なのは、どこまで揺れを“見に行った設計”かという一点だ。
建築基準法を満たすことは、あくまで最低条件。その先の「生活を続けられるか」という価値に、どれだけの設計思想とコストが投じられているか。それを見抜く目こそが、震災大国・日本で資産と暮らしを守る最強の防御策である。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)