司法DXはどこまで可能か…ADR認証で切り開くスマホ離婚調停の事業戦略

●この記事のポイント
・裁判所に行かず、スマホだけで離婚調停を完結させる「wakai」。弁護士法72条という岩盤規制をADR認証で突破した、司法DXの最前線を追う。
・顔を合わせないチャット型調停と、人×AIのハイブリッド設計により、感情的対立を構造化。従来半年超の離婚調停を最短1〜2カ月に短縮する仕組みとは。
・LTVが見込みにくい「離婚」を、人生の再起動と捉え直す発想。不動産・保険と連動する収益モデルと、相続・労働紛争への横展開戦略に迫る。

「離婚調停」――それは、平日の日中に裁判所へ出向き、待合室で鉢合わせする恐怖に怯えながら、数ヶ月から時には年単位の時間を費やす消耗戦だ。この「不便で苦しい」アナログな司法プロセスを、スマホ一台で完結させるサービスが登場した。株式会社DDRが展開する「wakai(ワカイ)」だ。

 なぜ、もっとも参入障壁が高いとされる「司法の聖域」で、民間主導のDXが可能になったのか。そして、LTV(顧客生涯価値)が見込めない「離婚」という領域で、どう収益モデルを描くのか。DDR代表・的場令紋氏に、その規制突破力と事業戦略を聞いた。

●目次

規制産業への挑戦:「闘い」ではなく「隙間」を埋める

 FinTechやMedTechに続き、最後に残された巨大規制産業が「司法(LegalTech)」だ。特に日本では、弁護士法72条(非弁行為の禁止)が鉄壁の守りを見せる。民間企業が「調停」を行うことは、長らくタブーとされてきた。

 的場氏はこの壁をどう突破したのか。答えは、正面突破の「闘い」ではなく、制度を正しくハックする「ADR(裁判外紛争解決手続)認証」の取得だった。

「岩盤規制」を溶かした1年半の言語化

「法務省の認証(ADR)を取得し、民間事業者として『調停』を行う資格を得ました。これには約1年半から2年を要しました。近道はなく、利用規約からシステムの運用、セキュリティに至るまで、泥臭く丁寧に言語化し、法務省とすり合わせる作業の連続でした」

 

 

「2割司法」の救済 弁護士業界からの反発はなかったのか。的場氏は「むしろ歓迎されている」と語る。

「日本には、法的トラブルに遭っても公的サービスや弁護士を利用できる人がわずか2割しかいない『2割司法』という課題があります。残り8割は、費用や手間を理由に泣き寝入りしている。我々は弁護士の仕事を奪うのではなく、この8割の層を救い上げ、潜在的な法的需要を掘り起こす役割なのです」

デジタル調停のメソッド:感情は「チャット」で処理せよ

「wakai」の最大の特徴は、当事者が顔を合わせず、スマホ上のチャットと選択式の入力フォームで交渉が進む点だ。ここには、コンフリクト・マネジメント(紛争解決)の合理的な設計思想がある。

構造化された「争点」 「従来の調停は、何をどう決めていいか分からず、感情論の応酬で長期化していました。我々のシステムでは、財産分与や面会交流などの争点をメニュー化(構造化)しています。ユーザーは選択肢を選ぶだけでよく、お互いの要望が可視化されるため、論点が明確になります」

人とAIのハイブリッド すべてを自動化するわけではない。ここぞという合意形成の場面では、Zoomを通じて「人(調停人弁護士)」が介入する。 「システムで整理しきれない感情的な対立は、中立な立場である調停人弁護士がオンラインでリードします。これにより、通常なら半年以上かかる調停を、最短1〜2カ月で合意まで導くことが可能です」

マネタイズの出口戦略:「人生の再起動」を支援する

 経営者として気になるのは、「離婚」というビジネスの収益性だ。基本的にリピートがない(あってはならない)サービスであり、LTVの積み上げが難しい。しかし、的場氏は「離婚」を単なる法的処理ではなく、「人生の再起動(リセット)」の起点と捉えている。

「リセット」経済圏への接続
「離婚はゴールではなく、新しい人生のスタートです。そこには必ず、住み替え(不動産)や保険の見直しといったニーズが発生します。我々はここをアライアンスパートナー(不動産会社や保険会社)と連携し、送客による手数料モデルを構築しています。ユーザー課金だけでなく、この『ライフイベント経済圏』全体で収益を上げるモデルです」

横展開のスケーラビリティ
 さらに、この「オンライン調停スキーム」は離婚以外にも応用可能だ。

「次は『相続』、その次は『少額債権』や『労働トラブル(賃金未払い)』へ展開します。特に相続は年間140万人が直面する巨大市場。離婚で培ったノウハウを横展開し、あらゆる『揉め事』の解決インフラを目指します」

日本発、世界最大のODRプラットフォームへ

 インタビューの最後、的場氏は「米国LegalZoomを超える」という野望を語った。

「目指すのは、世界最大のODR(Online Dispute Resolution:オンライン紛争解決)プラットフォームです。米国には時価総額2000億円規模のリーガルテック企業がありますが、我々は日本独自の『話し合いの文化』をテクノロジーで昇華させ、アジア、そして世界へ輸出できるモデルだと確信しています」

 司法という重厚な扉をこじ開けたDDR。その挑戦は、日本の行政DXや規制改革の試金石となるかもしれない。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)