●この記事のポイント
・グーグルが実験公開したAIネイティブ・ブラウザ「Disco」は、検索を不要にし、情報を“使えるツール”へ再構築する。これはChrome時代の終焉と、10兆円規模の検索広告モデルを揺るがす自己破壊的挑戦だ。
・Discoの中核機能「GenTabs」は、複数サイトを横断解析し業務アプリを自動生成する。グーグルは広告依存から、取引手数料・B2B課金へと収益構造の大転換を迫られている。
・AIブラウザ戦争が激化する中、グーグルは“情報を作る側”へ踏み込んだ。検索帝国の解体か、次世代覇権の布石か──Chrome統合の瞬間、ウェブの主役は人からAIへ移る。
インターネットの入口として17年以上にわたり君臨してきた「Chrome」が、静かに役割の転換点を迎えている。グーグルがGoogle Labsでテスト公開したAIネイティブ・ブラウザ「Disco」は、単なる新機能追加ではない。
それは「検索」という行為そのものを、歴史の裏側へ押しやる可能性を秘めた実験だ。
●目次
- 「検索しないブラウザ」という思想転換
- 核心機能「GenTabs」が示す、生産性の再定義
- 三つ巴のAIブラウザ競争、その本質的な違い
- 10兆円規模の自己破壊——検索広告モデルは終わるのか
- パブリッシャーは“素材”に堕ちるのか
「検索しないブラウザ」という思想転換
結論から言えば、Discoはブラウザではない。ユーザーの目的を理解し、解決手段をその場で生成する“作業環境”である。
従来のChromeやSafariは、情報を「探すための窓」だった。検索し、読み、比較し、整理する——この知的労働は、すべて人間側に委ねられていた。
Discoはこの前提を破壊する。Gemini 3を中核に据え、ユーザーが開いているタブ、閲覧履歴、作業文脈をリアルタイムに理解し、「目的達成のためのアプリケーションそのもの」を生成する。
「これは“検索体験の進化”ではなく、“検索の不要化”に近い」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)
核心機能「GenTabs」が示す、生産性の再定義
Discoの思想を最も端的に表すのが「GenTabs」だ。
散在する複数のタブ——公式サイト、SNS、レビュー記事、PDF資料。これらをGemini 3が横断的に解析し、分析ダッシュボードや比較ツールとして再構築する。
重要なのは、「要約」ではなく「操作可能なUI」を生成する点だ。ユーザーは情報を読むのではなく、直接“使う”。
「ExcelやBIツールに転記する工程が消える。これはCIO視点では革命的だ」(同)
三つ巴のAIブラウザ競争、その本質的な違い
AIブラウザを巡る競争は、すでに三極化している。
OpenAI「Atlas」:操作を代行するエージェント
Perplexity「Comet」:信頼性を重視するリサーチャー
グーグル「Disco」:UIそのものを生成するビルダー
グーグルの立ち位置は異質だ。既存のウェブを「操作」も「回答」もするが、最終的には再構築して“ソフトウェア化”する。
このアプローチは、Android・Workspace・検索インデックスという資産を持つグーグルだからこそ可能だ。
10兆円規模の自己破壊——検索広告モデルは終わるのか
最大の焦点は、検索広告という10兆円超の収益源をどう扱うかだ。
GenTabsが普及すれば、検索結果(SERP)に滞在する理由は消える。広告クリックは激減し、従来モデルは自壊する。
だがグーグルは、次の布石を打っている。
・成約ベース(CPA)課金
・アプリ内ネイティブ推薦
・B2B向け高付加価値サブスクリプション
「短期的には確実に収益リスクがある。だが“検索に固執する方が、より危険”という判断だろう」(同)
パブリッシャーは“素材”に堕ちるのか
AIによる再構築は、メディアやECにとって諸刃の剣だ。PVという指標は意味を失い、「AIにどれだけ価値を提供したか」が問われる。
グーグルは送客強化を掲げるが、主導権は完全にAI側に移る。
「これはメディア危機ではなく、“評価軸の転換”だ」(同)
Discoはまだ実験だ。しかし、これがChromeに統合された瞬間——“ブラウザ後”の時代が始まる。
検索帝国の解体か、次世代覇権の布石か。グーグルは今、自らの最大の成功体験を否定する賭けに出ている。
「ブラウザとは、情報を探す場所ではなく、問題を解決する場所である」。この定義変更は、すべてのビジネスリーダーにとって他人事ではない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)