トヨタ「EV消極」戦略の完全勝利…欧州2035年禁止撤回で露呈したEVバブルの末路

●この記事のポイント
・欧州の2035年エンジン車禁止が事実上撤回され、EV一本足戦略は限界に直面。政策主導のEVバブルが崩れ、HVを軸にしたトヨタの現実路線が評価を逆転させた。
・VWやフォードがEV投資で巨額赤字に沈む一方、トヨタはHV需要を取り込み1000万台体制を維持。エンジン技術と供給網を守った戦略が競争力を生んだ。
・日本でもEV優遇税制の見直しが進み、「EV特権」は終焉へ。豊田章男氏が貫いた全方位戦略は、流行より顧客を重視した経営の勝利だった。

「EV(電気自動車)に乗り遅れた周回遅れのトヨタ」――。ほんの数年前まで、欧米メディアや一部投資家が執拗に繰り返していたこのフレーズは、2026年を迎えた今、完全に過去のものとなった。

 かつてトヨタを「守旧派」と断じた論者たちは、いまや一転して、豊田章男会長が唱え続けてきた「マルチパスウェイ(全方位戦略)」の先見性を評価している。EV一極集中に走った欧米メーカーが巨額赤字に沈み、政策を主導してきた欧州が自ら方針転換を余儀なくされる中、トヨタだけが収益・供給・技術のすべてで安定成長を続けているからだ。

 この劇的な逆転は、偶然ではない。理想論に突き動かされた「政策主導のEVバブル」が崩壊し、トヨタが一貫して守ってきた「顧客主導の現実主義」が勝利した結果である。

●目次

欧州の「敗北宣言」とEV化の限界

 自動車業界に決定的な転機が訪れたのは、2025年末だった。EU欧州委員会は、2035年に予定していた内燃機関車(エンジン車)の新車販売禁止方針を事実上撤回。合成燃料(eフューエル)やバイオ燃料に加え、HV(ハイブリッド)やPHV(プラグインハイブリッド)を認める方向へ大きく舵を切った。

「エンジンは死んだ」とまで断じていた欧州が、現実の前に膝を屈した形だ。背景にあるのは、想定を大きく下回るEV普及率と、欧州メーカー自身の深刻な経営悪化である。

 独フォルクスワーゲン(VW)は、年間2兆円規模ともいわれるEV投資を続けてきたが、2025年7〜9月期決算では、ポルシェの戦略修正に伴う引当金計上などが響き、営業損益は約2300億円の赤字に転落した。

 米フォードでは、EV部門の累積損失がすでに数兆円規模に達し、開発計画の大幅な縮小を余儀なくされている。GMやメルセデス・ベンツも、相次いで全車EV化目標の撤回や延期を発表した。

 自動車アナリストの荻野博文氏は、こう指摘する。

「EVは技術的には成立しても、事業として黒字化できるモデルが確立されていない。補助金という“ドーピング”が切れた瞬間、採算が崩れる構造だった」

 インフラ整備の遅れ、航続距離への不安、車両価格の高さ――。ユーザーは冷静に現実を見極め、「不便で高価なEV」よりも「便利で燃費が良いHV」を選び始めた。その受け皿となったのが、トヨタだった。

トランプ関税すら追い風に変える「1000万台体制」

 一方、トヨタの強さは際立つ。2025年度上半期(4〜9月)の世界販売台数は526万台を超え、過去最高を更新。EV需要の減速という逆風下にあっても、販売は衰える気配を見せない。

 特筆すべきは、北米市場での存在感だ。トランプ政権による高関税政策という不確実性があるにもかかわらず、「関税前の駆け込み需要」すら味方につけ、HV販売を急拡大させている。

 その背景には、年間1000万台超を安定的に生産できる供給体制がある。EV需要が読めず、他社が生産ラインの停止や再編に追われる中、トヨタだけがフル稼働を続けられるのは、エンジン技術を捨てず、サプライチェーンを維持してきたからだ。

「トヨタはEVブームでも既存サプライヤーを切らなかった。結果として、供給網が崩れず、いまの需要変動にも耐えられる」(荻野氏)

日本でも始まる「EV特権」の終焉

 EV逆風は、国内政策にも波及し始めている。政府は2028年以降、これまで免税・減税の対象だったEVに対し、車両重量に応じた新たな税負担を課す方針を検討中だ。最大で年2万4000円程度の重量税上乗せが想定されている。

「環境に良いから税金が安い」というEVの特権は終わり、「重い車は道路を傷めるから負担せよ」という、内燃機関車と同じ公平な土俵に立たされる。

 こうなれば、価格が手頃で燃費が良く、リセールも安定しているHV・PHVの優位性はさらに高まる。政策面ですら、トヨタに追い風が吹き始めているのだ。

豊田章男氏が「独り」で戦っていたもの

 トヨタの豊田章男会長は、かつてこう語っていた。

「BEVがどれだけ進んでも、世界全体のシェアは3割程度にとどまる」
「敵は炭素であって、内燃機関ではない」

 当時、この発言は「EVに後ろ向き」「変化を恐れている」と批判された。しかし今、その主張が現実になりつつある。

 トヨタはHV、PHV、EV、水素、合成燃料――あらゆる選択肢を同時並行で磨き続けてきた。世界がEV幻想から覚めたとき、唯一“戦える武器”をすべて揃えていたのがトヨタだった。

 欧米メーカーが巨額赤字の中でHV開発へ“先祖返り”を試みる一方、トヨタはすでに次世代エンジンや全固体電池の量産化フェーズに踏み込んでいる。

「トヨタの強さは、技術そのもの以上に時間を味方につけた戦略にある。短期の株価や政策に振り回されなかった」(同)

 トヨタの勝利は、「EVブームの終焉」という偶然の産物ではない。政策や流行に迎合せず、世界の顧客が本当に求めるものを見極め続けた経営判断の勝利である。

 かつて「周回遅れ」と嘲笑された王者は、今、誰の影も踏まぬ荒野を独走している。そしてこの逆転劇は、自動車産業に限らず、すべての製造業に「ブームへの向き合い方」を問い直す教訓を突きつけている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)