あの伝説のドラマがスクリーンで復活した。
東京から僻地の離島に赴任してきた外科医の“コトー先生”こと五島健助(吉岡秀隆)と、島の人々との交流を通して命の尊さを描いた名作『Dr.コトー診療所』である。本作は山田貴敏の同名漫画を基に連続ドラマ化され、2003年7月クールにフジテレビ系列で全11話を放送。最終回で最高視聴率22.3%、平均視聴率でも19%(ともに関東地区・ビデオリサーチ社調べ/以下同)をマークし、同クール最大のヒット作となった。
作品のクオリティ面においても高い評価を得て、04年には1月に2夜連続の『Dr.コトー診療所特別編』、11月にドラマスペシャル『Dr.コトー診療所2004』(前後編)が放送されている。この4本のうち3本が視聴率20%を超え(最高23.3%)を果たすなど、根強い人気ぶりをみせつけた。
この2年後の10月クールで『Dr.コトー診療所2006』(全11話)として再び連ドラ化されると、平均視聴率22.4%と第1シーズンを上回る高視聴率を獲得。最終回で最高となる視聴率25.9%を叩き出したが、これは06年の連ドラ最終回の視聴率1位に輝いている。名実共にフジテレビを代表するドラマの一つといえるワケだ。
東京の大学病院から僻地の島へ
物語は東京の大学病院で外科医をしていた五島健助が星野正一(小林薫)とともに漁船に乗り込み、日本の最西端に近い離島・志木那島を目指して洋上を行くところから始まる。星野は志木那村役場の民生課長で、島の診療所に常駐してくれる医師を長年探し続けていたのだ。星野の娘で看護師の彩佳(柴咲コウ)や役場の職員で診療所事務長の和田一範(筧利夫)をスタッフに張り切る五島だったが、僻地の島にはまともな常駐医師が来たことがなく、彩佳を筆頭に多くの島民が五島を信用できず、診療所を訪れる島民はなかなか現れなかった。
しかし、夜の船上で急性虫垂炎のオペを成功させたり、船で6時間以上かかる本土の病院でしかできなかった様々な難しい治療にも対応し、医師としての確かな技量と誠実な人柄が広まったことで、次第に“コトー先生”として島民から慕われるようになっていく。
そんななか、コトーが大学病院を辞めるきっかけとなった医療事故の関係者で週刊誌記者の巽謙司(津田寛治)が島を訪れ、星野が島民に隠していたコトーの過去が明らかになってしまう。そのため、再びコトーは島民の信用を失ってしまう……というのが、連ドラパート1のあらすじである。
その後の04年のスペシャルドラマは“身近な家族が病気になり別の形のつながりが島の人たちとできていく”、06年の連ドラパート2は“一番近い存在が病気になって、より「家族」を想う”というテーマ(彩佳が乳がんを患ってしまう)が元となっているが、本作のメインディレクターを務める中江功監督によると、「正直、『Dr.コトー』としてはやり尽くした感があった」のだとか。
それでもキャスト、スタッフともシリーズ続行の意向が消えることはなかった。吉岡と会うたびに雑談も交えながら、続編をやるなら何をやるか、テレビドラマなのか映画なのかなどを話していたという。なかなか大きなテーマが決まらず、「さぁやろう!」とはならなかったが、やるべきテーマが見つかってからは一気に話が動き出した。そして約16年の月日を経て、ついに劇場版として復活したのである。
人間ドラマとしての深さ
そんな本作の魅力は、医療ドラマであると同時に離島の生活を描く人間ドラマとしても深い感動を得られる点に尽きる。
まず、主演の吉岡が演じたコトーは、人としては気が弱くて少し情けないが、ほんわかした雰囲気を醸し出している、いじられキャラ。一方で医師としては、離島の診療所ゆえにろくな設備も整っていないなかで困難なオペも成功させるほど優秀だが、決して『ドクターX』の大門未知子のようなスーパードクターではない。1人の医師が離島でできることの限界など、日々さまざまな葛藤を抱えて悩み苦しみ、柔和で少し頼りなさそうでありながらも、人を救うことに強い信念を持っている。何より患者のために尽くす好人物として、非常に人間臭く、実在感があるのだ。
その最たるエピソードが、パート1の第8話『救えない命』である。“あきおじ”と呼ばれ島民から親しまれている老人・山下明夫(今福將雄)が検査の結果、ガンだと判明。コトーは家族に、本土での検査、手術を勧める。だが、あきおじは「もしわしが死んでも、あんたの手にかかって死ねるなら本望じゃ」と、その提案を拒否するのである。島を離れたくないということもあるが、一番の理由は、見知らぬ医師よりコトーが好きだから彼に執刀してほしかったのだ。
さらに「“命は神様に、病気は先生に”じゃ。命のことは神様にしかわからん。だったら病気は先生にお願いします」と、コトーに全幅の信頼を寄せるあきおじ。その気持ちを汲み、コトーは診療所でのオペを決意するが、開始直後、すでに手遅れの状態が判明し、結果的に亡くなってしまう。そのあきおじが生前書いたコトー宛ての手紙には、“悔いなく命を終えた”という趣旨の言葉が並べられており、それを読み、泣き崩れるコトーの姿に観るものは胸を打たれるのである。医師と患者の関係を、これほどまで崇高に描いた医療ドラマはそうはない。
これ以外にも、不器用な生き方しかできない漁師の原剛利(時任三郎)と息子の剛洋(富岡涼)、島民が集うスナックの店主・茉莉子(大塚寧々)と東京から会いに来る息子の竜一(神木隆之介)、そしていつも憎まれ口を叩くひねくれ者の漁労長の安藤重雄(泉谷しげる)と東京在住で妊娠して帰ってくる娘リカ(伊藤歩)とのエピソードなど、さまざまな家族の親子の愛情や人間模様が色濃く描かれており、とにかく“泣けてしまう”のだ。それは流れ行く日常のなかで経験する過ちや弱さ、ズルさや身勝手さ、そして繋がることの貴重さといった“人間臭さ”が登場人物全員に感じられ、魅力的に描かれていたことの証明でもある。
さらに、豊かな自然と海に囲まれた離島での素朴な生活を賛美することなく、離島ならではの厳しい生活や島民それぞれが抱える問題などの過酷な一面もきっちりと描ききっている。そのうえで、コトーと島民たちの島での温かい生活をずっと見続けていたいと思わせられるし、いま見ても古さを感じない普遍的なドラマとしての強みがあるのだ。
ドラマから16年後を描いた映画版
今回の映画版では、ドラマシリーズから16年の時を経た志木那島の“今”が描かれている。診療所の看護師・彩佳は数年前にコトーと結婚し、現在妊娠7カ月という設定。さらに新キャストとして人気グループ・King & Princeの髙橋海人と元・乃木坂46の生田絵梨花が登場。髙橋は志木那島に2カ月間、僻地医療の勉強でやってきた新米医師・織田判斗役を演じるのだが、実は判斗は大病院の御曹司だった。加えて一見チャラそうな見た目とその振る舞いが島民からは受け入れられないものの、腕は悪くなく物事を冷静に見ている一面もある。本作の世界感の中では異色ともいえる役どころだ。
対する生田は、彩佳に憧れ数年前から診療所で看護師として働く西野那美役。那美は志木那島で生まれ、幼い頃から島に住む祖母・西野美登里(藤田弓子)と暮らしていたこともあり、島民とも顔なじみ。しっかり者で男勝りな性格の役どころが、生田自身のはつらつとした雰囲気と相まって、魅力的なキャラクターとなっている。
さらに当時のキャストとスタッフが、ほぼそのまま帰ってくる点もポイントだ。特に注目はドラマ版でコトーの最初の患者となり命を救われた少年・原剛洋だろう。コトーの影響で医師を志し、東京へ行く役どころだが、演じる富岡涼は俳優を引退し、現在は会社員なのである。しかし、会社の後押しもあり、本作のためだけに役者復帰を果たしているのだ。
ストーリーを貫くテーマは、現在の日本の大きな問題でもある高齢化や過疎化だ。それは離島ゆえに、より深刻で近隣諸島との医療統合の話が持ち上がるのである。そうなるとコトーは島を去ることになる。そんななか、想像を超える巨大台風が島に襲来。急患が続出して、さながら診療所は野戦病院と化してしまう。
患者のために孤軍奮闘するコトーの姿は何年経っても、そしてスクリーンでも変わらない。人に対する真摯なその姿に、観る者はまたも涙するに違いない。
(文=上杉純也/フリーライター)