世帯視聴率3%台が続いたことでネットメディアやSNSで「爆死」などと叩かれ、失敗作扱いされがちな『親愛なる僕へ殺意をこめて』(フジテレビ系)。
しかし、配信再生数は「第1話が6日間で223万回を記録した」ことが公表されたほか、TVerのランキングでは爆発的な人気の『silent』(同)に続く2~3位の座をキープしている。同作が今秋ドラマに留まらず、歴代ドラマの中でもトップクラスの配信再生数を確保しているのは間違いない。
ネット上の声を拾ってみても、当初は「怖い」「グロい」「見ていられない」などと、ダークでバイオレスな作風を敬遠した声が多かった。しかし、徐々に「展開が早くて面白い」「山田涼介、尾上松也、門脇麦の演技が凄い」などの好意的な声が凌駕し、批判的な声が目立たなくなりつつある。
なぜ視聴率と配信再生数の逆転現象が起きたのか。さまざまな観点から掘り下げていく。
「怖い」「グロい」シーンは外せない
同作の主なあらすじは、「連続殺人犯を父に持つ大学生・浦島エイジ(山田涼介)がある日、自らが二重人格であることを悟り、『“もう1人の自分”が殺人を犯しているかもしれない』という底知れぬ不安にかられ、真相を明らかにしようと決意。そこから驚がくの事実が次々と白日の下にさらされていく……」という二重人格サスペンス。
まず記録的な低視聴率となったのは、“二重人格”という半ば「何でもアリ」の反則的な設定の物語であることが大きかった。以前から二重人格は「漫画的」「子どもっぽい」とみなす人々がいる設定であり、童顔のアイドル・山田涼介が演じることで、その印象が濃くなった感もある。
さらに、猟奇的な連続殺人事件というモチーフは問題ないとしても、第1話~第3話にかけての「残虐な拷問シーンや凄惨な死体カットを見て視聴をやめた」という人がいることも事実だろう。
昨今のドラマ視聴者には、「見やすさ」や「安心・安全」なものを選ぶ傾向があり、リアルタイム視聴に限ると、その割合はさらに増す。特に仕事や学校のある平日は心の負担が軽い「癒し」「笑い」「痛快」などがベースの作品がリアルタイム視聴に選ばれやすい傾向がある。たとえば、見応えのある骨太なドラマを平日に放送しても、「配信か録画で週末にじっくり見る」ため視聴率は上がりづらいものだ。
だから当作は視聴率が低迷しているのだが、かといって、残虐な拷問シーンや凄惨な死体カットをマイルドにしたら、ハラハラドキドキのサスペンスが盛り上がりづらく、配信再生数は下がっていただろう。「見ていられない」ほどの「怖い」「グロい」シーンは作品のベースであり、その後の重要なシーンにつながる前振り。その強度が高いほど、弱々しくも前へ進むエイジへの感情移入にもつながっていく。
今秋の中でも連続性はトップ級
多くの配信再生数を得ている理由は、そんなサスペンスの強度と、先が読めない連続性の高い物語の2点が推察される。
今秋ドラマの中で「先が読めない」「次が気になる」という連続性が高い作品は、当作と『エルピス ―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)、『アトムの童』(TBS系)の3作くらいであり、一話完結の作品と比べると熱狂度は高い。実際、放送が進むたびにネット上には「拷問シーンで離脱した人はもったいなかった」などの声があがっている。
特に当作は、「あやしい人物だらけで謎やどんでん返しが多そう」という声があり、ここまでの4話ではそんな期待の声に十分応えている。ただ、前述した2作と比べたとき、当作のみ原作があるため、ネタバレという不安があるのはマイナスポイントかもしれない。
興味深いのは、「怖い」「グロい」と敬遠せず「攻めてる」と前のめりに受け止めた視聴者ほど、半グレ集団のリーダー・サイを演じた尾上松也、エイジの恋人だが人柄が一変する雪村京花を演じた門脇麦を称賛していること。
そして、この2人に追い詰められたエイジを演じる山田涼介の演技は回を追うごとに凄みを見せている。拷問を受けるシーンや、もう1つの人格“B一”に入れ替わるシーンなど、当作を見続けている人は彼がジャニーズのアイドルであることを忘れているのではないか。
また、「怖い」「グロい」を超えて支持を得ているもう1つの理由は、松山博昭監督の演出。これまで松山監督は、重厚感がありながらも、鮮やかでスタイリッシュな映像で評価を受けてきたが、当作でも見れば見るほど「怖いのに美しい」「グロいのに引き込まれる」という感覚がある。
当作での立ち位置は、ふだんのチーフ演出ではなく、全放送回の演出を全体統括する“総合演出”だけに気合が入っているのだろう。
「復讐編」スタートで黒幕に迫る
そんな松山監督と草ヶ谷大輔プロデューサーのコンビは、これまで今年最大のヒット作だった『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)を成功に導いたばかり。両者ともに、映像化の難しそうな漫画作品に挑み、原作ファンから一定の評価を得てきたこともあり、クオリティ面の不安は少ない。
11月9日放送の第6話予告には、「復讐編、開幕!」と打ち出され、「15年間、俺は復讐のためだけに生きてきた」「父さんはLLじゃない。罪を着せられたんだ」というエイジのセリフが見られる。
LLがエイジの実父・八野衣真(早乙女太一)でなければ誰なのか。相関図に載せられたメインキャストの中では、サイと白菱正人(佐野史郎)が死に、雪村京花が意識不明となったが、まだ浦島亀一(遠藤憲一)、猿渡敬三(髙嶋政宏)、桃井薫(桜井ユキ)、ナミ(川栄李奈)が残っている。
中盤に差し掛かった今、「これ以外の人物を新たに登場させてLLだった」という禁じ手を使うことは考えづらい。いずれも演技巧者であり、クセのある人物を演じることも上手い顔ぶれだけに、誰がLLだったとしても迫力のあるクライマックスになるだろう。
制作サイドが「原作の結末や犯人を変えた」とアナウンスしていないだけに、漫画のネタバレ記事を読まないことをおすすめしておきたい。