NHKだからこそ作れた『あなたのブツが、ここに』が“これぞ夜の朝ドラ”な理由

あなたのブツが、ここに』(NHK)は、大阪の運送会社を舞台にしたドラマだ。

 2020年。シングルマザーの山崎亜子(仁村紗和)はキャバクラ嬢として働いていたが、コロナ禍の影響で仕事が激減し、店は休業状態となる。なけなしの貯金もキャバクラで知り合った客による給付金詐欺に遭い、無一文になってしまう。

 生活を立て直すため、娘の咲妃(毎田暖乃)と共にお好み焼き屋を営む母・美里(キムラ緑子)のもとに戻った亜子は、キャバクラの常連客だった葛西信夫(岡部たかし)の仲介で、彼が社長を務める運送会社・マルカ運輸で働くことになる。

 本作が放送されている「夜ドラ」は今年の4月に作られた新設枠で、月曜から木曜の22時45分から23時にかけて1日15分の放送となっている。名称からわかるように朝ドラ(朝の連続テレビ小説)の形式を夜枠に持ってきたドラマ枠で、スタート当初は朝ドラの形式を用いて朝ドラではできないドラマ、さながら“夜の朝ドラ”とでもいうような作品を発表するドラマ枠になるのではないかと期待していた。

 これまで放送された作品は、高校生グループが主人公の学園ミステリー『卒業タイムリミット』、人の心の声が聞こえる少女と居酒屋の大将が主人公のドラマ『カナカナ』、BSプレミアムで放送されていた『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』、コント番組『LIFE!』のチームが作ったコメディドラマ『事件は、その周りで起きている』。

 NHKは平日22時45分から23時30分にかけての時間帯を「若年層ターゲットゾーン」と呼んでおり、「夜ドラ」も若者向けドラマという方向性で作られていた。

 対して、『あなたのブツが、ここに』は制作局がNHK大阪で、朝ドラの『おちょやん』を手がけたスタッフが集まっているということもあってか、これまでの夜ドラとは違い、ハードでシリアスな大人のドラマに仕上がっている。その意味でイレギュラーな作品だが、元キャバ嬢のシングルマザーが運送会社に就職して成長していく物語は、これこそ“夜の朝ドラ”という印象で、放送形態と物語がうまく合致している。

辛辣な展開と丁寧な描写

 運送会社で働くことになった亜子は先輩の武田浩三(津田健次郎)から仕事を教わるのだが、武田は無愛想で、教え方も乱暴だ。元キャバ嬢だからすぐ辞めると思ってバカにしているのだと思った亜子は、武田に反発する。しかし、いざ自分一人で配達するようになると、時間内にすべての荷物を届けることができない。

 やがて、武田には武田の考え方があって、亜子に対して厳しく接していたことがわかるのだが、慣れない仕事をしていく中で少しずつ手順を覚えていく姿を、とても丁寧に描いているというのが初見の印象だ。また、運送業は接客業でもあるため、一癖も二癖もある客と対話しないといけない。ついつい長話をして引き止める老人や女装を趣味としている中年男性などはかわいい方で、時間に1分でも遅れると激怒する客との対応などは観ていて心がえぐられる。

 しかも時代は、コロナが蔓延し始めた2020年だ。ただでさえ大変な仕事なのに、コロナ禍直後ということもあり、人々の心は殺伐としている。緊急事態宣言、まん延防止措置といったアナウンスが国から入るたびに客の対応は殺伐としていき、そのたびに亜子たちも傷つく。

 辛辣な展開が続くため、観ていてあまり楽しい気持ちになるドラマではない。

 特にコロナ禍は今もまだ続いている問題なので、描写の一つひとつにこちらも過敏になってしまう。そのため、マスクの付け方すらいちいちチェックが厳しくなってしまうのだが、おそらく作り手は厳しい目線に晒されることを覚悟した上で作っているのだろう。2020年、2021年と時間が過ぎていくのだが、同じコロナ禍でも人々の心境や労働環境がめまぐるしく変化していった状況を、とても丁寧に描いている。

 亜子の娘・咲妃が外で友達に顔を見せるためにマスクを外したところを高齢者に怒られ、それを見ていた同級生からコロナだと言って消毒液をかけられていじめられる描写などは、今だからこそ描けた生々しいシーンである。

 現在のテレビドラマは、医者、弁護士、刑事といった華やかな職業ばかりを描いており、庶民の日常に根ざした物語が作られる機会が、年々、減ってきている。そこにコロナ禍が重なったことで、テレビドラマはコロナのない世界で浮世離れした出来事を描く作品ばかりとなっている。

 ドラマの中ぐらい現実を忘れて美男美女が楽しく戯れる華やかな世界が観たいという気持ちもわからないではないが、フィクションの膜が二重に重なっているような作り物めいた世界を見せられているようだ。

 そんな中、『あなたのブツが、ここに』は運送会社を舞台にコロナ禍の庶民の日常を描いており「これぞ、日本のテレビドラマ」と言える作品に仕上がっている。こういうドラマが作れたのはやはり、NHKだからだろう。

 本作は今週で終わってしまうが、今後も「夜ドラ」には庶民の日常に根ざしたドラマを作り続けてほしい。