非情に強い勢力で猛威を振るっている台風14号が九州に接近した18日夜、ロック歌手の矢沢永吉が福岡市の「福岡PayPayドーム」でコンサート開催を強行。「安全を確保できる方、帰路につける方のみご来場ください」と呼びかけられる異例の事態となり、終了後に移動手段がなくなったファンによって混乱が生じるなどしたことで物議を醸した。
開催当日の18日朝、矢沢の公式サイトで「福岡ドームは屋根があり、頑丈に作られた会場であること。雨風が中に入ってこないこと。そして何より『矢沢さん!中止しないでください!』『開催して下さい!』というお声がものすごい数のメールが届いております」として、コンサート開催が発表された。
その一方で「ご来場いただく方は、ご自身の判断で必ず安全を確保できる方、帰路につける方のみご来場ください。決してご無理なされず、ご自身で判断してください」と呼びかけられ、参戦を断念する人には返金対応すると説明された。
異例のコンサートはほぼ満員になり、大きなトラブルもなく午後8時ごろに終了した。
しかし、台風の影響で会場周辺は地下鉄やバスなどすべての公共交通機関が午後7時ごろまでに運休。周辺でタクシー待ちをしたり、行き場をなくして途方にくれたりするファンが続出し、一部報道では「県警が観客の安全確保に配慮するよう申し入れをしていた」と伝えられている。
SNSでは、会場周辺で発生した渋滞に巻き込まれた無関係の一般ドライバーから「渋滞で帰れない」などと苦情の声があがっており、真偽不明ながら「ファンがホテルに押しかけてロビーに居座ったり、他の客に部屋を譲ってくれと声をかけたりしている」「地元民のための避難所に押しかけた」といった情報も飛び交った。
ファンからは「永ちゃんありがとう!」「永ちゃん、ライブ決行でまた伝説つくってくれた」といった称賛の声もあったが、ネット上では「命の危険もある災害時に『来るなら自己責任で』って無責任では」「観客が帰宅難民になるだけじゃなく、周辺住民やスタッフにも迷惑がかかるのに」「観客は自己責任だとしても、もし何かあったら対応しなきゃいけない人がいることを忘れないでほしい」といった批判コメントが多く寄せられた。
さらに、一部の矢沢ファンからも「永ちゃん、ごめんだけど今回のはないわ……まともな判断してほしかった」「今回のイベントを『伝説』で終わらしてはいけない」といった意見があがっている。
小田和正、西川貴教は「中止」の決断
当日は、「マリンメッセ福岡」でコンサートを予定していた小田和正が「公共交通機関の計画運休による交通手段の確保が難しいことと、何よりもお客様の安全第一を最優先に考えました結果、公演を中止とさせて頂きます」として中止を発表。また、滋賀県草津市で開催予定だった西川貴教主催による音楽イベント「イナズマロックフェス2022」も3日目(19日)の公演をとりやめていた。
こうした安全最優先の決断が支持を集めたことで、コンサートを強行した矢沢への批判が余計に強まっている部分もあるようだ。
ただ、その一方で「来ないなら返金、来るなら自己責任…ここまで対策して『無責任』って言われるのはアーティスト差別でしょ」「えーちゃんに責任ないよ。大人なんだからファンもわかってるやろ。本当に危険だと思ったら行かないよ」「ファンの要望に応えて決行を英断、来れないファンには返金対応。個人的には神運営すぎるんだが」といったファンからの擁護の声もあり、賛否を呼んでいる。
ロックというと「やんちゃ」「無茶をする」といったイメージもあるが、最近は観客の安全最優先で“大人な対応”をすることに称賛が集まる傾向がある。
8月に開催された音楽フェス「SUMMER SONIC 2022」では、ONE OK ROCKのボーカル・Takaが感染防止対策で禁じられていた観客の「声出し」を煽ったことで批判を受けた。一方、同フェスに出演したHYDEは「声を出せないのは残念。かといって『ルールなんて関係ねえ、声出していこうぜ』ってのもなんか違う。怖がってる人の横ではしゃぐのはダサい」と語り、観客に向けて「その場所はお前たちが3年かけてコロナから勝ち取った場所なんだぞ!有効的に使え!」と呼びかけたことで、ファン以外からも喝采を浴びた。
ロック界の「生ける伝説」としてリスペクトを集めていた矢沢だが、今回の決断で大きくイメージが変わってしまった可能性もありそうだ。