「土屋太鳳なめんなよ!」…『やんごとなき一族』が低視聴率でも成功の理由

 ネットニュースでは低視聴率報道が多いものの、放送中から終了後にかけてツイッターなどSNSの動きは活発そのもの。視聴者の盛り上がりという点で『やんごとなき一族』(フジテレビ系)は、春ドラマの中で上位に入っていることは間違いないだろう。

 同じ木曜に放送されていた『未来への10カウント』(テレビ朝日系)が最終回の放送を終えた中、『やんごとなき一族』はまだ3話も残されている。終盤を前に、あらためて当作にはどんな狙いがあり、どの部分がネット上の盛り上がりにつながっているのか、掘り下げておきたい。

 主なあらすじは、「母と東京の下町で営む大衆食堂の看板娘・篠原佐都(土屋太鳳)が、江戸時代から400年以上続く名家で莫大な資産を有する一族の深山健太(松下洸平)と結婚。一族からの猛反対や嫌がらせを受けるが、健太の『深山家を普通の家族にしたい』という願いを叶えるために戦うことを決意する」というもの。

 このあらすじを見て、「東海テレビの昼ドラ?」「80年代の大映ドラマっぽい」などと思った人が続出していた。実際、その印象通り、佐都を「シンデレラ」、健太を「王子様」、当主・深山圭一(石橋凌)を「王様」にたとえたナレーション、お城みたいな深山家の建物、圭一のごう慢すぎる振る舞い、佐都に対する仕打ちの数々など、「いつの時代の話?」とツッコミを入れざるを得ないケレン味たっぷりのシーンが散りばめられている。

 ただ、心の中でツッコミを入れられても、作り手たちの評価にはつながらない。現在のドラマ制作者に求められる配信視聴やSNSへの書き込みにつなげるための、よりエスカレートさせた仕掛けが必要になってくる。

「離婚の念書」をさりげなく公開

 その最たるところが、佐都の義姉・美保子(松本若菜)の「#松本劇場」だった。松本と言えば、これまでは美人女優らしい清楚な役や、物静かで薄幸な役柄が多かっただけに、目をひんむいて悪態をつき、奇妙な歌や踊りを見せる姿へのギャップは大きく、毎週このシーンを楽しみにしている視聴者は多い。

 そんな「#松本劇場」に話題を奪われがちだが、主演・土屋太鳳へのツッコミを促すシーンも負けじとてんこ盛り。土下座を強いられ、ケーキを頭に叩きつけられ、謎のマダムから突然キスされるなどの試練が次々に訪れたほか、目を覆いたくなるような佐都と健太のイチャイチャシーンも含め、ネット上の書き込みを促している。「土屋は松本に食われている」なんて声もあるが、土屋の演じる佐都が普通の人で目立たないからこそ周囲の異常さが際立ち、作品全体の人気につながっているのは確かだ。

「ネット上の書き込みを促す」と言えば、6月9日放送の第8話でも、立花泉(佐々木希)が佐都に健太との離婚を迫り、慰謝料などが書かれた念書を突きつけるシーンがあった。ただ、今作はこれだけでは終わらせず、念書の文面をさりげなく公開。そこには「慰謝料は1億円」「子どもの養育費は月額200万円で、誕生月には100万円追加される」「進学費用も含め、成人するまで支払われる」などが書かれていたが、これもネット上へのツッコミを想定した演出にほかならない。

 また、泉が健太の前に突然ウエディングドレス姿で現れて結婚を迫るシーンもあったが、これだけなら昼ドラなどでも見たことがあり新鮮味はない。しかし、「その背後に泉と健太の顔写真を貼った結婚式のイメージ映像を流す」という、ツッコミを促すひと工夫が加えられていた。

 もちろん俳優たちの演技による貢献度も大きく、彼らがこれらのシーンを大まじめに演じることで、昼ドラや大映ドラマを超えてコントのように見えるほどのシュールな笑いを生んでいる。これらの明確な狙いと地道な努力があるからこそ、『やんごとなき一族』はネット上で盛り上がりを見せているのだろう。

現実への影響力はないエンタメ作

 制作サイドの地道な努力としてもう1つ挙げておきたいのが、PR映像の作り込み。以下に各話の予告映像でテロップ表示されたあおりフレーズを挙げていこう。

第1話「これは現代のおとぎ話 王子様に見初められた庶民の女の子 シンデレラのその後を描くアフターストーリー シンデレラは幸せになれたのか それとも― 義父の陰謀 義母の苦悩 義姉の策略 魑魅魍魎うごめく上流階級」

第2話「忍び寄る女の影 やんごとなき愛人 深山家の非情なる掟 二人の関係に亀裂が―?富を手にするシンデレラ 襲いかかる悲劇 問われる女主人の資質」

第3話「誕生日の悲劇 秘められた二人の想い 動き出す禁断の関係 迫り来る危機 交錯する運命の結末は―?」

第4話「離婚を賭けた指令 立ちはだかる難攻不落の壁 妨害 暗躍 逆襲 シンデレラVS女郎蜘蛛 一族が抱えるそれぞれの苦悩」

第5話「シンデレラが招いた悲劇 深山家女の宿命 やんごとなき『お見合い』 お姫様の運命は―?」

第6話「形勢逆転の大チャンス到来!? 絶体絶命忍び寄る魔の手 跡取り問題勃発 次期女主人をかけた最後のバトル それぞれが守るべき大切なもの」

第7話「佐都が妊娠!! 地獄の始まり あの女が大波乱を巻き起こす…! 水面下でうごめく悪意 衝撃のキス 女と女の修羅場 壮絶な戦いの幕開け どんな運命でも君となら乗り越える」

第8話「女VS女の最終決戦 美しき悪魔の暴走 さらなる絶望的な状況へ マダムキリコ再び! 衝撃の爆弾宣言! 逆境に立ち向かうため強くなる 愛のために奇跡を起こせるか!? 女と女の激情が衝突! 驚愕のクライマックスへ―」

第9話「深山家の鉄の掟 クセがスゴい当主の妹 盗まれた深山家の宝 初めて明かされる美保子の秘密 深山の“女の務め”に苦しんだ過去 深山家の掟を変えられるのか― ついに、出産のとき…」

 これらのPR文を見れば、作り手たちが何をやりたいのか、視聴者に何を見てもらいたいのかがわかるのではないか。ここまで真剣にやり切っているからこそ、エンタメ作としての完成度につながっているのだろう。

 一部で「女の争いをあおりすぎ」というフェミニストなどからの酷評もあるが、このドラマにリアリティや現実への影響力はほとんどなく、お門違いだろう。作り手たちが最初からファンタジーであることを明示している上に、男性のほうが女性より圧倒的にバカで情けない人物として描かれているからだ。

ついに土屋太鳳が女性支持を獲得か

 今作でフジテレビの連ドラ初出演にして初主演を務める土屋は、これまで「数字が獲れない」「同性に好かれない」などの厳しい声を浴びせられがちだった。

 しかし、健太や義母・深山久美(木村多江)の「深山家を変えてほしい」という思いに応えるべく立ち上がり、強大な当主に立ち向かう今回の役は、久々のハマリ役に見える。深山家の家族たちが佐都の影響を受けて変わっていく……という筋書きは出来すぎの感こそあるが、ケレン味たっぷりのドラマほどハッピーエンドが求められるため、自然なものにも見える。

 第1話で佐都が「庶民なめんなよ!」と闘志を燃やす印象的なセリフがあった。これは佐都のキャラクターと、その後のストーリーを示す重要なシーンだったが、少なからず「土屋太鳳なめんなよ!」という意味も含まれた演技だったのではないか。

 ただ、佐都への仕打ちがもっともっと厳しく、虐げられるシーンがあったほうがアンチを巻き込んで、さらに盛り上がり、土屋にとっての見せ場が増えたのかもしれない。このあたりは「打たれ強い土屋と言えども、『いじめ』などと批判を受けるリスクがあるから、これくらいに留めておこう」という制作サイドの意識が働いたように見える。しかし、終盤ではこれまで以上に厳しい仕打ちに苦しみ、虐げられるシーンが用意されている可能性もありそうだ。

 好き嫌いがハッキリ分かれる作品のためアンチも多いが、作り手の期待通りに盛り上がっている人々も多い以上、成功と言っていい作品だろう。