NHKドラマ『17才の帝国』が今年最大の問題作である理由

 今夜、最終話が放送される『17才の帝国』(NHK)は今年最大の問題作だ。

 NHKの土曜ドラマ(土曜夜10時枠)で放送されている本作は、少し先の未来を舞台にしたSFドラマ。202X年。GDPが戦後最大に落ち込み、G7からも除外され失業率は10%を超えている日本の惨状は、サンセット・ジャパン(経済の日没)と呼ばれていた。

 現状を打破するため、内閣総理大臣の鷲田継明(柄本明)は、優秀な若手政治家の育成を目的とした政治プロジェクト・Utopi-AI(通称、ウーア)を立ち上げる。

 まずは、青波市を量子コンピューター・ソロン(政治AI)が運営する実験都市に変えて、10万人を越える15才から39才の応募者の中から4人を閣僚として選出したのだが、ソロンが総理大臣に選んだのは、なんと17才の高校生・真木亜蘭(神尾楓珠)だった。

 青波市の総理大臣に就任した真木は、青波市の議会を廃止、10年前から進んでいた商店街の再開発プロジェクトを一から見直す、市職員の50%をリストラ、といった大規模改革をすぐに実行。真木たち閣僚の議論はネット上ですべて公開されており、リアルタイムで市民の「支持/不支持」といったリアクションが反映されるようになっている。

 真木の支持率が30%を切ればソロンによって罷免されるという危うい状況の中、議会は少しずつ成果を出し、支持率は高まっていく。

 物語は、ある種の政治シミュレーションとなっており、架空の地方都市を若者がAIで統治したらどうなるのか? が生々しい形で描かれている。

 量子コンピューターを用いて高校生が政治運営するというアイデアこそSF的な飛躍があるものの、人口の高齢化と経済衰退が背景となっているサンセット・ジャパンという政治状況の見せ方はとてもリアルだ。

 細かい数値の見せ方や生活の隅々までAIが普及したときに何が起きるかというディテールの見せ方は、ドラマというよりはNHKスペシャルの教養番組を観ているかのようで、まずは精密に作り込まれた世界観に圧倒される。

 一方、ドラマとしての見どころは真木の過去にまつわる謎が謎を呼ぶサスペンス。

 真木は母子家庭で家が貧しく、母を亡くした後は祖母を看病するヤングケアラーという孤独で苦しい日々を送っていたが、白井雪という少女が優しい手を差し伸べてくれたことが唯一の救いだった。しかし、白井家は一家心中を図り、雪は父母と共に命を落としてしまう。

 実は雪の父は、鷲田総理の第一秘書だった。白井家の一家心中の背後に、鷲田総理の不正献金疑惑があったのではないかと劇中では噂されているが、その真相はまだ明らかになっていない。

 だが一方で、真木がAIを用いて雪を人工知能・スノウとして復活させていた。17才の少女の姿をした雪=スノウと真木は対話を繰り返しており、二人には表には出ていない別の目的があるようにも見える。

 さまざまな要素が複雑に絡み合いながら、物語は転がり続けていて、気になる要素は盛りだくさん。果たしてあと1話でまとまるのかと不安になる。

朝ドラや大河に引けを取らない充実度

 アイデアの豊富さにおいては、同じNHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)や大河ドラマと比べても、引けを取らない充実度となっている本作だが、この作り込みは制作陣の力によるところが大きいだろう。

 制作統括は、朝ドラの『あまちゃん』、大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』を手がけた訓覇圭が担当。プロデューサーには坂元裕二脚本のドラマ『カルテット』(TBS系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)を手がけた、関西テレビ社員の佐野亜裕美が参加している。

 数々の話題作を送り出してきた二人が局の垣根を超えてタッグを組んだ本作は、圧倒的な完成度を誇るSFドラマに仕上がっている。

 同時に実写でありながら、アニメを観ているかのような手触りと大胆な飛躍を感じる。これは脚本を担当する吉田玲子の功績が大きい。吉田は『けいおん!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『平家物語』といった数々の傑作アニメを手がけている、アニメを主戦場とする脚本家。

 本作はNHKの海外向け番組配信「NHKワールドJAPAN」で展開するためのドラマプロジェクトとして始まっている。

 海外のプロデューサーにリサーチしたところ、日本のコンテンツに期待されているものが「SF」と「アニメ」だと知った佐野は、吉田玲子に脚本を依頼。そして、吉田が昔から温めていた「17才の帝国」のアイデアがドラマ化される運びとなったのだが、アニメ業界から吉田を連れてきてSFドラマを作るという流れ自体が、経験のない17才の少年が総理大臣としてAIで政治を行う本作の世界と重なるものがある。

 吉田の脚本はテレビドラマに慣れている立場から観ると、とても独特で、話数が短いこともあってか、各キャラクターが何を考えているのかわからないまま物語が飛躍していく。この飛躍がとてもスリリングで本作最大の魅力だが、同時に一番の不安要素でもある。

 残り1話。果たして物語はまとまるのか? 真木の政治を見守る市民の気持ちで最後まで見守りたい。