怒涛の勢いでYouTubeチャンネルの登録者数を伸ばしてきた暴露系YouTube「ガーシー義和のガーシーch【芸能界の裏側】」。半年あまりでチャンネル登録者数が100万人を超えるなど、芸能ゴシップ分野においては上半期の大きな話題の一つとなった。東谷義和氏(以下、ガーシー氏)の“アテンド体験”による暴露に重ねて、ガーシーchには芸能人に関する情報提供も多く寄せられているということもあり、世間では「ガーシーの影響力は週刊誌を超えるのではないか?」という見方が語られたこともあった。
だが、チャンネル開設当初から筆者はガーシーchと週刊誌は「似て非なるもの」であると考えていた。なぜガーシーchは週刊誌とは違うのか。当稿ではいくつかのポイントに絞って解説してみたい。
まずガーシーchの「強み」について見ていきたい。
第一に実名、顔出しの暴露であるという点であろう。27年間、さまざまな芸能人をアテンドしてきたという人脈と、交遊のある芸能人の素顔やLINEを晒すという内容にはインパクトがあった。チャンネル開始直後にガーシー氏にいろいろと晒された俳優の城田優は、ガーシーchで彼に関する動画が配信された後に、因果関係は不明ながら出演していたいくつかのCMが非公開になるなど少なくない影響を受けた。チャンネル開設当初は、テレビ局関係者や芸能関係者に会うたびにガーシーchのことが話題にあがっていたほど、注目度が高かったものだ。
第二の強みは、チャンネル登録者120万人というフォロワー数のインパクトであろう。暴露チャンネルとして知名度を高め、一時は140万人をオーバーするなど怒涛の勢いでチャンネル登録者数を増やしていった。ガーシー氏のTwitterのフォロワーも約40万人おり、YouTube動画はTikTokなどでも拡散されておりその認知度は高い。インフルエンサーといっても過言ではない発信力を身につけた。
第三の強みは、ガーシー氏の巧みな話術と仕草が上げられる。迫力がありながらも愛嬌ある語り口は説得力があり、時折、胸に手を当てるような仕草は言葉に信ぴょう性を感じさせるような効果があり、暴露に一定の真実味を持たせるような仕掛けがいくつも施されている。
週刊誌との違い
一方で、週刊誌は現状では難しい局面にあることは否めない。近年、紙メディアである週刊誌の部数は低迷を続けている。各週刊誌の発行部数は10万前後~20万部台で推移しており、売り上げ面での苦戦が続いているのだ。
また、週刊誌のスタイルが時代にマッチしていないという部分も少なくない。例えばガーシー氏の話を“真実”だと感じる視聴者がいるのも、顔出し実名で話しているというSNS時代特有の強みがあるといえる。一方で週刊誌記事は、基本的に記者の名前が入らない無署名記事である。慎重に裏取りを重ね記事を書いているにもかかわらず、無署名記事であるがゆえに執筆者が見えないことで「週刊誌はいい加減」だという評価を受けやすいという側面がある。読者からすれば、週刊誌記者に対して人間的な親しみが持ちにくい。読者との距離がやや離れているというのは、週刊誌というメディアの大きな弱点の一つになっているといえるだろう。
しかし、ガーシーchがいくつも強みを持っているからといって、週刊誌メディアが劣るということは現時点ではないと断言できる。
チャンネル登録者数と週刊誌の発行部数を単純比較すると、確かにガーシーchは週刊誌にとって脅威だといえる。だが、数字の面でも決して劣っているわけではないのだ。週刊誌のスクープ記事はウェブメディアに転載されることが常識となっている。週刊誌のスクープ記事は新聞、テレビだけに限らず、ネット上での拡散力も大きい。ウェブのスクープ記事は数百万~数千万PVを稼ぐこともある。この数字はガーシーchに決して引けを取らないものだといっていいだろう。
もう一つ、「影響力」という側面で見ると、週刊誌の存在感はガーシーchより依然として大きいといえるだろう。ガーシーchがいくら暴露を続けようとも、現在は「インパクトが薄れている」(テレビ局社員)と見られるようになってきている。実際にガーシー氏は新田真剣佑や綾野剛などの暴露を執拗に続けているが、現時点で彼らのタレント活動に大きな影響は出ていない。城田優以降の暴露については、ネット上でこそ話題になるものの影響力は極めて限定的になってしまっている。
一方で週刊誌は、政治家のスキャンダルに映画業界のセクハラ問題など、社会を動かすような大きな影響力を持つスクープ記事を現在も数多く出している。総合的に見れば週刊誌の影響力はガーシーchを大きく上回っているのが現実なのである。
後追い報道が出ない背景
ガーシーchの影響力が下がる大きな分岐点となったのが、4月21日発売の「女性セブン」(小学館)記事だった。セブンは『芸能界暴露男 ペテンの履歴書 真剣佑から6000万円借り逃げBTS被害者が告発』などとガーシー氏の暴露の裏側に燻る疑惑を報じたのだ。
「もともとBTS詐欺疑惑については知られていましたが、ガーシーが真剣佑に6000万円の借金があることが発覚したのは衝撃的だった。真剣佑に対する執拗な暴露は私怨が目的ではないかと見られるようになったのです。違法ギャンブルで3億円の借金があることも明らかになり、コンプラ的にもヤバイ人物という見方が広がった。その暴露内容の信ぴょう性も含めてメディア関係者から『?』を持たれるようになったのです」(スポーツ紙記者)
女性セブン報道を機に、各メディアはガーシー氏という人物についてBTS詐欺疑惑などで警察の捜査を受ける可能性もあるコンプラ的に不安な人物という見方に傾いている。さらに海外で逃亡生活を続けているガーシー氏の暴露の真の目的が見えにくく、その発言内容もどこまで真実なのかは「現段階ではわからない」という評価になっているのである。
さらにガーシーchの大きな弱点といえるのが、彼が報道のプロではないという部分だ。
「事実として報道する際には『裏取り』と『相手の言い分を聞く』という2つのプロセスが最低限必要とされます。ガーシーの暴露のほとんどは、言いっぱなしで複数証拠がない。特に問題なのは、タレントサイドの言い分をまったく聞いていないという点です。タレントサイドに当てないので、他のメディアは真実の度合いをはかりにくい。いくつか裏取りに動いたメディアがあったものの、話している内容の裏を取り切れなかったというケースがあったと聞きます。そもそも本人が日本にいないのでこちらで後追い取材しようにも後追いしにくいというのもある(笑)。報道基準に照らし合わせると、ガーシーの暴露は玉石混淆であるというのは今やメディアの常識になっています」(週刊誌デスク)
ガーシー氏の暴露は、メディアであれば普通に行っている“事実確認”のプロセスを踏んでいない。例えば暴露証言をもとに記事を書く場合、証言の内容について日時やアリバイを確認することはもちろんのこと、更に複数証言を取ることや裏付け材料を集める。暴露LINEのスクショであればLINEをやり取りした相手にも当て取材を行い、トークの内容についても裏付け取材を行う。報道する為には、こうした何段階もの取材プロセスが必要となるのだ。
その取材プロセスが確認できないため事実認定ができないという部分が、週刊誌やテレビ、新聞がその暴露についてほとんど後追い報道が出来ない大きな理由となっている。
金銭目的の暴露は最も警戒すべき
ガーシー氏は“金のため”にYouTubeをやっていることを公言していることも、もう一つのマイナス要因となっている。なぜかというと、報道という観点から見ると金銭目的の暴露は最も警戒しなければいけない情報というのが週刊誌の「定説」だからだ。
例えば筆者がかつて所属していたメディアでは、情報提供に対して原則的に謝礼は払わないという慣例(取材経費他は別)があった。その理由は、情報提供者が金銭欲しさに嘘の情報まで言い出す可能性があるからだ。実際に情報提供者から金銭を要求された記事が、その後、誤報であることが発覚したというケースも過去には存在する。そういう意味でも、ガーシー氏が金銭目的をYouTubeで公言していることは、報道という観点から見て大きなマイナスポイントとなるのだ。
つまりガーシーchの後追い報道が出にくいのは、ガーシー本人がさまざまなトラブルを抱え警察当局の捜査対象になっている可能性もあるという「人間としての信用性」に対する不安と、「金目的の暴露の真偽が検証しにくい」という2つのポイントが大きなマイナスとなっているからなのである。
その端的な例が、先日ガーシーchで配信された綾野剛についての暴露動画であろう。ガーシーchとしては珍しい、元アイドルである松岡知穂(元NMB)をドバイまで呼び証言させるという力の入ったものだった。複数証言を提示したという意味では「裏取り」に近いことが行われたともいえる。再生数も200万を超えるなどネット上では一定の反響を呼んだ。しかし、大手メディアでの後追い報道は皆無だった。
「内容に興味はあるものの、元アイドルの証言に曖昧な部分がいくつもあるところに不安を感じます。そもそも彼女のドバイ行きの費用は自腹なのか? それとも他者の負担なのか? 何を目的として彼女が口を開いたのかもわからないし、8年前の話をなぜいま暴露するのか、ガーシーchともどもその背景が見えにくく、得体が知れないというのが正直なところです。
綾野剛の主演ドラマのスポンサーなどは暴露の推移を注視はしていると言われてますが、主要メディアが記事にしなければスルーする可能性が高い」(週刊誌記者)
真実相当性を確認しにくいという弱点
ガーシー氏は動画のなかで、事あるごとにタレントの謝罪や反省を求めるような発言を繰り返している。真剣佑の映画を公開させない、とまで口にしたこともあった。彼の目的の一つは、週刊誌のスクープ記事によってタレントが謝罪会見を開いて頭を下げたり、芸能活動休止に追い込まれてしまうというイメージに近いことを狙って暴露を続けている節もうかがえる。
週刊誌の報道が大きなインパクトを持つのは、先に述べたように証言、証拠を集めるために張り込みを行い、取材を重ねるなどの手間暇をかけた「裏取り」取材をしており、タレントサイドにも疑惑を当て「言い分」を聞く努力を行うからだ。ガーシー氏のような当事者による証言の場合でも、重要部分についてファクトチェック、ダブルチェックによる裏取りを必ず行う。誰かが言っているから真実というレベルで週刊誌記事が出ることはまずない。
取材を尽くし報道基準を満たしたところで初めて記事となる。こうしたプロセスを行っていることを理解している新聞、テレビなどのメディアは、週刊誌スクープが出ると真実相当性が高いと判断し、後追い報道を打つのである。週刊誌報道によって芸能人が記者会見を開かざるをえなくなるのは、週刊誌、新聞、テレビなどによる後追い報道がいつまでも続くのを防ぐためにケジメを付けるという理由が大きい。
一方でガーシーchは、前述したように言い放しの暴露が多く、他メディアが真実相当性を確認しにくいという弱点を抱えている。ゆえにメディアは静観を続けるしかないのだ。後追い報道がないのは、芸能界に忖度をするというより、裏付けが取れないという部分のほうが大きいのである。他メディアが動かないことがわかると、タレントサイドは暴露に対してスルーを続けるという対応を続けることができる。ガーシーchが本人の望むようなインパクト(謝罪会見を開くなど)を与えることができないのは、既存メディアを上手く巻き込むことができないからだといえる。
結論を述べると、ガーシーchの暴露には真実が含まれている可能性もあるだろうが、彼の「周辺の人間関係」や「暴露の真意」についてメディアなどの第三者のチェックを受けない限り、テレビ、新聞はもちろんのこと、週刊誌等の報道基準には達しにくいものとなっている。実際、某投資系のYouTubeでは仮想通貨絡みの怪しいドバイ人脈についての暴露をガーシー自身が受けいる。BTS詐欺疑惑と併せて、メディア関係者からは引き続きコプラリスクの高い人物と見られている。
現時点では、ガーシーchの暴露は週刊誌報道とは別物であり、YouTube上の“エンターテイメント”として楽しむべき類のもの、と考えたほうが良さそうだ。
(文=月島三郎/週刊誌記者)