初回から6.6%、4.9%、5.3%、4.8%……毎週ネットメディアで報じられる『ナンバMG5』(フジテレビ系)の世帯視聴率は大惨敗。しかし、決して「失敗」とは言い切れないものがある。
タイムシフト(録画)で世帯視聴率と同等レベルの数値を稼いでいるほか、この作品に求められているのは、フジテレビが重視するキー特性(13~49歳)の個人視聴率。さらに、ネット配信再生数、映画化などのライツビジネスを期待されている作品であり、世帯視聴率だけで成否を決めつけるメディアが時代錯誤な記事を書いているだけだ。
それ以上に、SNS、関連ニュースのコメント欄、レビューサイトなどの評判がめっぽういい。「今期イチ」に挙げる熱狂的な視聴者も多く、控え目に言ってもトップ3に入るほど熱のこもったコメントがネット上にあふれている。
では、どこが評価されているのか。そして、同じヤンキーコメディとして比較されがちな『今日から俺は!!』(日本テレビ系)とはどんな違いがあるのか。
見るほどに美しい本広監督の映像
まず初回放送を見て驚かされたのが、制作サイドの熱とこだわり。とりわけ『踊る大捜査線』シリーズ、『SP 警視庁警備部警護課第四係』(ともにフジテレビ系)などを手がけた本広克行監督がチーフ演出を務める映像は、他のドラマと一線を画すほどの熱とこだわりが見られる。
小刻みなカット割り、計算し尽くしたカメラワーク、躍動感あるアクション、屋内外の選ばれたロケーション、キャッチーな衣装・美術・ヘアメイク、ライティングのコントラスト、音楽の緩急など、考えうるすべてにわたって妥協なき制作姿勢が見られる。
ながら見ではなく、できれば大画面で。1度ではなく2度、3度、繰り返し見れば見るほど、映像の美しさや迫力を感じられるだろう。つまり、『今日から俺は!!』と比べたとき、これら映像のクオリティで上回っているのだ。
もう1つ、熱とこだわりを感じ、『今日から俺は!!』を凌駕しているのが、キャスティング。
ヤンキー一家の難破ファミリーに、間宮祥太朗、宇梶剛士、鈴木紗理奈、満島真之介、原菜乃華。主人公・難破剛の盟友ヤンキー役に神尾楓珠と森本慎太郎、キュートなトラブルメーカーのヒロインに森川葵。コメディ担当の美術部部長とクラスメイトに加藤諒と富田望生。
さらに、愛犬・松を演じる柴犬の豆三郎と声優の津田健次郎。ゲストにも、ヤンキー女性役にファーストサマーウイカ、ヒロインの母ににしおかすみこなどが起用されている。
いずれも「ピッタリ」と笑ってしまうほどのハマリ役である上に、しかもその多くはカッコイイ、カワイイだけではない演技巧者。キャストの多くが高校1年生で実年齢との差は大きいが、まったくそれを感じさせてない巧さを感じさせる。
『今日から俺は!!』は福田雄一監督ならではのギャグを全面に散りばめた世界観で年齢ギャップを超越していたが、『ナンバMG5』は監督の映像美と俳優の演技で正面突破しているのだ。
相関図の全員が愛すべきいいヤツ
そんな俳優たちが演じる登場人物のキャラクターも、視聴者を引きつけているポイントの1つ。
素直な思いと家族の期待の間で揺れ、二重生活に悩む難破剛(間宮祥太朗)。クールな一匹狼だが、実は情に厚く友人思いの伍代直樹(神尾楓珠)。ゴリラのような風貌ながら、硬派で心優しい大丸大助(森本慎太郎)。
いずれも純粋かつ素直な愛すべきキャラクターであり、さらに3人は圧倒的な強さを見せるだけでなく、敵の悪事でボコボコにやられるシーンも多いだけに、つい肩入れしたくなってしまう。
たとえば5月11日に放送された第4話でも、剛は中学時代の同級生・関口正宏(岩男海史)に当時の感謝を伝え、イジメに遭っていた彼を救うシーンがあった。また、大丸も自分の間違いを素直に認めて伍代に謝り、剛に土下座。それ以降は2人と友人となり、剛の二重生活を後押しし、正々堂々と恋のライバル宣言をしている。
ヤンキー一家の難破ファミリーも義理人情に厚く家族思いであり、東ミチル(加藤諒)も後輩を気にかける優しい美術部部長。ホームページなどの「相関図」に書かれている全員が「愛すべきいいヤツ」であり、週替わりで登場する悪役ヤンキーたちとわかりやすく色分けされている。
物語全体に目を向けると、落差を生かした脚本が実に巧みだ。たとえば、「ほのぼのとした美術部のシーンから、格闘シーンに一変」「笑いを誘う難破ファミリーの団らんシーンから、不穏な悪役たちの暗躍シーンに一変」などの落差がストーリーのベースになっている。
第4話でも、「剛が真剣に二重生活をカミングアウトするシーンから、大丸が『ドッキリ大成功』の札を持って乱入するシーンに一変」「剛が関口に中学時代の感謝を語るシーンから、関口が高校の同級生から壮絶なイジメに遭うシーンに一変」などの落差で視聴者の感情を揺さぶっていた。
この点も、劇中のほとんどがコメディで占められ、佐藤二朗やムロツヨシのアドリブパートでも落差を作っていた『今日から俺は!!』とは制作スタンスが大きく異なる。ほぼコメディ一色の同作に比べると『ナンバMG5』のほうが落差は大きく、それを「エンタメ度が高い」と言い換えてもいいだろう。
低視聴率でも続編が既定路線の理由
18日放送の第5話は、伍代の通う市松高校のアタマ・陣内一久(柳俊太郎)が「剛のツレ」と嘘をついて難破家に潜り込むところからスタート。ここまでで最強の敵だけに、どんな戦いが始まるのか期待してよさそうだ。
ちなみに原作漫画の『ナンバMG5』は18巻、続編の『ナンバデッドエンド』は15巻にわたる作品であり、その長さからドラマのシリーズ化や映画化が可能。さらに、キャラクターの立った難破ファミリー1人ひとりのスピンオフを手がけたら、ファンたちを多いに喜ばせられるだろう。
要は人気次第であり、「稼げそうなら次を作ろう」ということになる。冒頭に挙げたように世帯視聴率こそ低いが、このまま熱い支持さえ集め続けられれば、映画や動画配信サービスなどでの収益化は実現できるはずだ。
始まってみたら、武器あり、不意打ちあり、リンチありのバイオレンスなシーンは想像以上の激しさがあった。しかし、「クライマックスのバトルが終わった後、最後に必ず柴犬の松が登場して視聴者を癒す」などのバランスのよさを見る限り、最後まで脚本・演出のクオリティが落ちることは考えづらい。
最後に1つ指摘しておきたいのは、これだけのクオリティと熱い支持を集める作品であるにもかかわらず、「知らないから見ていない」「見ていないからよさがわからない」という人が多いのは、フジテレビのPRに問題があるということ。今春からの新枠とはいえ、今からでも全力でPRをして後追い視聴を促し、シリーズ化できなければ、現場で奮闘するキャストとスタッフがあまりに不憫だ。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)
●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。