『となりのチカラ』苦戦の理由と違和感の正体…松本潤の高齢層向け番宣も空振り?

となりのチカラ』(テレビ朝日系)が浮上するきっかけを見出せないまま、3月に突入した。

 テレビ朝日の「木曜ドラマ」(木曜21時~)は、TBSの「日曜劇場」(日曜21時~)と並んで、最もリアルタイム視聴する3層(50歳以上)の割合が高いドラマ枠であり、2017年春以降で世帯視聴率が2桁未満だったのは、東出昌大の不倫スキャンダルに見舞われた『ケイジとケンジ』だけ。ところが、『となりのチカラ』はここまでの5話平均9.6%に留まり、直近の第5話が8.2%と最低値を更新してしまった。

 世帯視聴率だけならいいのだが、ネット上の声も主演・松本潤のファンによるポジティブなものを除けば、酷評が多くを占めている。「北京オリンピックで放送中断した」という不運こそあったが、そもそも1月の段階から話題の数そのものが少なかった感は否めない。

 ここまで一度も盛り上がらない理由は何なのか。序盤から、その兆しは至るところに表れていた。

視聴者の脳裏に浮かぶ違和感の正体

 同作のコンセプトは、「新時代の《中腰ヒーロー》が誕生! テレ朝ドラマ初主演の松本が演じる 思いやりと人間愛に溢れた ちょっぴり《中途半端な男》が、孤独に生きる現代人の心を救う…!? 社会派ホームコメディ!!」。

「木曜ドラマ」のメイン視聴者層である「50代以上を軸に視聴率を手堅く稼ぐ」という意味では何ら問題がないように見える。また、ここまでフィーチャーされた各話のテーマも、DVとネグレクト、ヤングケアラー、占いや霊感商法など、50代以上にとって身近なものばかりであり、セレクトに間違いはなさそうだ。

 ただ、ドラマを見ていくと、しばしば「何これ?」、あるいは「あざとい」という違和感を抱いてしまう。

 まず主人公の中越チカラ(松本潤)だが、「極端なおせっかいで隣人に声をかけまくる」という設定はいいとしても、他人の部屋をのぞくシーンや部屋に上がり込むシーンの多さに、「不審者」「気持ち悪い」などの声があがっていた。

 次の違和感は、初回から多用されている手旗信号。「虐待を受けている小学3年生・木次好美(古川凛)が手旗信号でSOSを送る」という脚本は、リアリティも笑いも得られていない。

 しかし、それ以上に「気になる」という声が多かったのは、ネコによるナレーション。主人公より声が大きく、感情の込もった声は、どちらかというと「ネコというより、田中哲司の朗読劇」という印象すらあり、ここまでの評判は芳しくない。

 各話のセリフに目を向けても、制作サイドの作為的なものが目立ち、視聴者の首をひねらせている。たとえば2月24日に放送された第4話のクライマックスでは、5歳の園児が初対面の祖母に抱きついて「ばあば、会いたかったです。世界で一番会いたかったです」と語りかけるシーンがあった。その瞬間、「5歳の園児が初対面の老女にこの言葉を言うか……」というツッコミがあがっていたが、無理もないだろう。

 また、主人公・チカラの口グセである「どっかでお会いしたことありませんでしたっけ?」という決めゼリフと、それを各話のクライマックスで思い出すお約束も、「あざとい」と言われるゆえんではないか。

放送直前に自画自賛のPR記事を配信

 これらは主に脚本とチーフ演出を手がける遊川和彦によるもの。遊川は主に日本テレビで『女王の教室』『家政婦のミタ』『〇〇妻』など強烈な設定の物語を書いてきたが、近年ではテレビ朝日で『はじめまして、愛しています。』『ハケン占い師アタル』など純度が高めの作品も手がけていた。

 今作も、そのライン上にある作品なのだが、より遊川の美意識のようなものが前面に出ている。なかでも、最もわかりやすいのは、毎週のエンディング。『上を向いて歩こう』は、上原ひろみによるピアノ演奏でボーカルがなく、しかも毎話アレンジを変えているという。また、背景に次回予告の映像を流しているのだが、カラーではなくフィルターをかけて1色にしているところにも、独自の美意識が漏れ出ている。

 放送開始前、遊川は「格好いい俳優が格好いい役をやることに猛烈な拒否反応があるへそ曲がりの僕」「(松本潤に)今まで見たことのない情けない男をやらせたい」などとコメントしていた。松嶋菜々子に厄介な老女を演じさせている点も含め、これらも遊川らしい美意識と言えるかもしれない。

 ただそれにしても、遊川自身も、他のスタッフも、「『木曜ドラマ』でこれほど数字が獲れないとは……」と感じているのではないか。近年の遊川は、かつて得意にし、賛否両論を巻き起こしてきた“劇薬”のような展開を封印している。自身の美意識を盛り込んだような当作で、劇薬を投入する可能性は少ないかもしれないが、それに変わる何らかの話題作りが必要だろう。

 だからなのか、第5話放送当日の3月3日、テレビ朝日は自身のサイト「テレ朝POST」に、「『となりのチカラ』第5話、シリーズ最大の感動回!松本潤も思わずもらい泣き」という自画自賛の記事を配信していた。

 1週前の第4話前に放送された番宣番組でも、「ドラマ最大の謎が明らかに……」と自信たっぷりのタイトルを設定。その他、サブタイトルに「新世代ヒーロー誕生」「奇跡を起こす!」、YouTube動画に「隣人の平和を世界規模で願う男」「この家族、最強。」などのフレーズを使うなど、自信たっぷりに言い切る形を続けている。そんな強気の姿勢が「社会派」「ホームコメディ」であるにもかかわらず、鼻につくような印象を与えているのかもしれない。

高齢者向け番宣も、嵐リレーも不発

 毎週のクライマックスでチカラは、悩みを抱える住人に対して、まるで人格が入れ替わったかのように、大きな声で熱弁している。その姿はチカラというより、松本潤そのもののようなのだが、言われた住人たちは改心して一件落着していく。

 ただ、チカラは毎週よさげなことを言っているのにもかかわらず、主人公としての魅力が視聴者に伝わらないのが苦しいところだ。これは「なぜチカラはこんなにおせっかいな人になったのか」という肝心なところを視聴者に見せていないため、感情移入しづらいのではないか。この点は最終話間際まで持ち越さず、次回すぐにでも見せた方がいいだろう。

 ともあれ、次回10日放送の見どころを1つ紹介しておきたい。第6話の目玉は、ズバリ子役・古川凛の演技。父親の木次学(小澤征悦)からネグレクトされる小学生3年生・好美の新展開を描くという。古川凛と言えば、放送中の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK)“安子編”のクライマックスで、「I hate you」という衝撃的なセリフを放ったことが記憶に新しい。2作連続のハードな役を演じていることだけでも、ポテンシャルの高さがわかるのではないか。

 最後に話を制作サイドに戻すと、テレビ朝日としては、ドラマをリアルタイムで見るため視聴率アップにつながりやすい高齢層をつかむべく、松本潤と『報道ステーション』の大越健介、『徹子の部屋』の黒柳徹子との対談を設定。なりふり構わぬ番宣策を講じてきたが、ここまでは空振りに終わっている。

 また、木曜夜は、相葉雅紀の『VS魂』(フジテレビ系)、松本潤の『となりのチカラ』、櫻井翔の『櫻井・有吉THE夜会』(TBS系)とつなぐ“リレー”が実現しているが、グループのファンを集めるには至らず、いずれも苦戦中。マジメな彼ららしく懸命に自分の役割を果たそうとしている姿を見る限り、制作サイドの責任は重いのではないか。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。