異色のホームドラマ『おいハンサム!!』が業界人から絶賛される理由

 ドラマフリークや業界関係者の間で、『おいハンサム!!』(東海テレビ・フジテレビ系)の評判がいい。

 同作は“家族×食×恋”をテーマに据えたハイブリッド型コメディ。ややこしいけど情に厚い頑固オヤジの父・源太郎(吉田鋼太郎)と、男を見る目のない長女・由香(木南晴夏)、次女・里香(佐久間由衣)、三女・美香(武田玲奈)の3姉妹、すべてをサラッと受け止める母・千鶴(MEGUMI)のホームドラマだが、これまで見たことがない不思議な魅力を持つ作品だ。

「ドラマフリークや業界関係者が好む」と言っても、決して小難しい作品ではない。恋や結婚生活、仕事や人生に悩む3姉妹に源太郎の言動が影響を及ぼしていくのだが、たとえば第2話では長女・由香に「一日一緒にいることで、小さな命も精一杯生きていることに気づいて感謝できる」という理由から、「貝を買って食べなさい」とアドバイスするシーンがあった。

 その他にも、「ペットボトルから注いだだけのウーロン茶で金を取る」「焼き鳥を串から抜く」「冷蔵庫のすみっこにある残り7センチのネギ」「別れ話にコーヒーゼリー?」など、日常のネタをベースに物語が展開していくため、視聴者が置き去りにされることはない。ジワジワくる共感と笑い。さらに、わずかな教訓でドラマフリークや業界関係者を引きつけているのだろう。

5作もの原作漫画をリミックス

『おいハンサム!!』は、フジテレビ系列の東海テレビが日本映画放送と初めて共同製作する作品で、原作は伊藤理佐の漫画。

 驚くべきことに、「食」と「恋」を描いた『おいピータン!!』『おいおいピータン!!』をベースに、愛すべきオヤジの生態を描く『渡る世間はオヤジばかり』、悩める30代独身女性を描く『チューネン娘。』、とあるOLの七転八倒の日常を描く『あさって朝子さん』を織り交ぜているという。実に5作からおもしろさをリミックスした、深夜ドラマとは思えない贅沢なドラマだ。

 その仕掛け人は山口雅俊。フジテレビ時代に、『ギフト』『きらきらひかる』『カバチタレ!』『ランチの女王』『不機嫌なジーン』など、退社後は映画『カイジ』シリーズ、『闇金ウシジマくん』シリーズ(MBS・TBS系)、『新しい王様』(TBS系)、『ハケンの品格』(日本テレビ系)などを手がけた業界きってのヒットメーカーだ。

 作品ジャンルも、ハートフル、社会派、ファンタジー、ラブストーリーと多岐に渡る上に、企画、脚本、演出、プロデュースと、あらゆる関わり方ができるスーパークリエイター。そんな山口が「伊藤理佐の漫画映像化を熱望していた」というだけあって、当作ではプロデュース、脚本、演出のすべてにかかわっている。

 その技術とバイタリティが注がれているのだから、『おいハンサム!!』がおもしろくならないはずがない。たとえば、1シーンのカット割りは細かく刻まれ、1つ1つのアングルや演技に工夫が凝らされ、見れば見るほど時間をかけ、こだわっている様子が伝わってくる。

カメラワーク1つで笑わせる演出

 1月29日放送の第4話でも、脚本・演出の技が冴え渡っていた。

 脚本では、たまたま昔の恋人の近況を知った源太郎が酔って想い出の歌『五番街のマリーへ』を口ずさんだところを妻・千鶴に聞かれてしまい、これが娘たちの物語とリンクしていく。

 長女・由香は年下イケメンの青山(奥野壮)から告白された後、元彼から久々に電話がかかってきて心が揺れる。次女・里香は夫・大輔(桐山漣)の浮気相手が昔の恋人だったことを知ってしまう。さらに妻・千鶴もテレビの料理番組を通して、恋人だった料理研究家から思いを告げられるというオチをつけた。

 一方、演出ではカメラワーク1つで笑わせるなど、さまざまな手法が見られた。源太郎が酔って歌いながら去った玄関を、あえて1秒長く映して余韻で笑いを誘う。料理のアップを見せた後、そのまま手元から口元に運ぶところを撮り、さらに引いて豪快に食べるシーンを見せる。

 心の声を通常の音声だけでなく、字幕、腹話術、あえて相手に聞こえる形で表現。浮気夫が落としたレシートを映して、別れ話をしながら2人でコーヒーゼリーを食べたことを知る。

 さらに食を大切にした作品だけに、おいしそうに撮って見せる技術も素晴らしい。第4話でも大森利夫(浜野謙太)がわざと不細工な表情で食べるシーンがあったが、それがなぜだかおいしそうに見えてしまうから不思議だ。

 隣席に居合わせた次女・里香が心の声で、「唐揚げ、ライス、ライス、唐揚げ、ライス、唐揚げ、唐揚げ、ライス、ライス、ビール……楽しそうでさ、チキンライス弁当」と実況中継した後に、お腹が鳴るシーンがあったが、同じ気持ちになった視聴者は多かったのではないか。

フジテレビへの凱旋はあるか

 作品全体を通して、他作とは一線を画す自由でトリッキーな雰囲気が漂っているのだが、年齢層不問で楽しめるのは、昭和と令和のムードをミックスさせたような古き良き時代の懐かしさと、現在進行形の新しさを感じさせるからか。

 事実、オープニングの和田アキ子『YONA YONA DANCE』は令和3年、エンディングのユーリズミックス『There Must Be An Angel』は昭和60年の曲であり、作品の世界観を表している。

 それでいて、「食の好みは人それぞれ」を入口に、恋愛も、仕事も、生き方も、一人ひとりを尊重しているところも支持を受けている理由の1つだろう。吉田鋼太郎木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈、MEGUMIの5人家族に、浜野謙太、野波麻帆、桐山漣ら周辺人物もハマり役ぞろいで、演じている本人たちも楽しそうに見える。

 その立役者の山口が手がける『おいハンサム!!』は、フジテレビのドラマ関係者も注目しているという。今回は東海テレビと日本映画放送の共同製作だが、山口がフジテレビ系列のドラマを手がけるのは実に17年ぶり。今後、フジテレビの作品に関わることはあるのか。『おいハンサム!!』のクオリティが高いほど、局内外から期待の声が聞こえてくるだろう。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。