今年も残りわずかとなったクリスマスイブの12月24日、とんでもないNetflix映画『ドント・ルック・アップ』の配信がスタートし、早くも絶賛が集まっている。
監督・脚本は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2016年)、『バイス』(19年)などのヒット作を手掛けてきたアダム・マッケイ。キャストには主演のレオナルド・ディカプリオとジェニファー・ローレンスをはじめ、メリル・ストリープ、ロブ・モーガン、ケイト・ブランシェット、ジョナ・ヒル、ティモシー・シャラメ、アリアナ・グランデ、マーク・ライランスなど、これでもかというほど豪華な俳優たちが顔を揃え、ディカプリオ自身が「こんな作品は観たことがない」と評価しているだけに、前評判が高まっていた。
※注意:以下、ネタバレあり
米ミシガン州立大学の天文学の教授であるミンディ(レオナルド・ディカプリオ)と大学院生のケイト(ジェニファー・ローレンス)は、ある日、約半年後に確実に地球に衝突すると予測される巨大な彗星を発見。惑星防衛調整局のオグルソープ博士(ロブ・モーガン)の協力を得てオルレアン大統領(メリル・ストリープ)らホワイトハウス高官に面会し、地球滅亡の危機が迫っていることを力説するも、まったく信じてもらえない。
そこでミンディ教授とケイトは人気テレビ番組に出演して危機を訴えるが、キャスターからは終始、茶化され、ついに感情を爆発させカメラに向かって「みんな死んじゃうのよ!」と叫んだケイトは、インターネット上で変人扱いされ嘲笑の的にされる。
だが、中間選挙を目前に控えるなかで自身のスキャンダルで苦境に陥ったオルレアン大統領は、この危機を国民に強調して対策を主導する姿をアピールすることで支持率のアップを図ることに。再び大統領に呼び出されたミンディ教授とケイトは全面協力し、NASAがスペースシャトルを宇宙に打ち上げて核兵器で彗星を破壊する計画が実行に移され、成功目前に迫るのだが、自らの経済的利益に目がくらんだ巨大IT企業・バッシュのCEO(マーク・ライランス)とオルレアン大統領の画策により、計画は中止となる。そしてバッシュCEOが考案した計画が失敗に終わり、ついに地球は滅亡するというストーリーだ。
「今年の最重要映画」
本作を見た人々からは、早くもTwitter上では以下のように高い評価が溢れている。
<流し観するつもりが、開始10分で「これはヤバい」と確信。気合い入れ直して観たけれど実際 傑作だった>(原文ママ、以下同)
<情緒ぶっ壊れた>
<参った。完敗。打ちのめされた。この笑えない終末世界の騒動、顛末に。まさか今年の終わりにこんな爆弾投下されると思わないでしょ。「そんなバカな」と連発して乾いた笑いを繰り出しつつも、今の状況とやけにシンクロしたりして寒気が走り。今年の最重要映画でしょう>
<ディザスター映画なのに描かれるのは「混乱」や「絶望」ではなく、「思考停止」。笑いながらゾッとする>
<年末に年間ベスト級が来ちゃいました。最初から最後までずっと面白い!>
<ある意味最もリアルな終末映画かもしれない。人々は団結しないで分断され、国も協力し合わない>
<パニック映画が現実と無関係な時代は終わった』 これは皆が観るべき映画>
<笑えない状況に逆に笑うしかなくなるブラック・コメディ。豪華キャストを使って政治のバカさ加減をエンタメとして昇華させるマッケイ監督の真骨頂だ>
<人類滅亡の危機を描いたパニック映画だが、人々はパニックにならず、現実逃避をして消費社会とSNSに埋没する。安全バイアスで人々がパニックを起こさずに地球滅亡を待つとは何と斬新な、しかしよく考えたら現実的な>
巧妙に幾重にも張り巡らされたプロットが同時進行
本作を見た映画業界関係者はいう。
「地球に衝突しようとする巨大彗星を核兵器で撃墜しようと試みるというプロットは、まさに『アルマゲドン』(1998年)や『ディープ・インパクト』と同じ。『ドント・ルック・アップ』も最初見ているうちは、最後はミンディ教授の主張が人々に受け入れられ、大統領らと協力して地球を救うというストーリーかなと思ったが、あれよあれよという間に核兵器による撃墜作戦が実行に至り、ここまでで体感的には20~30分ほど。“残りの2時間近くは、どういう展開になるのか?”と心配になったほどで、そこから再びストーリーが始まる。
第2の作戦の準備と遂行という軸に加え、ミンディ教授と人気女性キャスターの不倫や、人々から“ヤバい人”扱いされた挙句に国から国家機密漏洩の罪に問われ人生から転落するケイトの物語、彗星衝突を信じるか信じないかで分断されるアメリカ国民と、それを選挙に政治利用する政治的ストーリー、地球滅亡という危機に直面しながらも経済が重視され科学が無視される現実、危機から目を背け“ヘラヘラし続ける”メディアと人々の愚かさ、そして危機が目前に迫りやっと事態を認識するも暴徒化する群衆など、巧妙に幾重にも張り巡らされたプロットが同時進行し、まるで一気に何本もの映画を見た気持ちにさせられる。
これだけの豪華キャストが揃うと、全体的な出来が“大味”になってしまいがちだが、まったくそんなことはなく、個人的には今年公開の映画のなかでベスト1といってよい」
トランプ政権への痛切な皮肉
また、別の映画業界関係者はいう。
「科学軽視の姿勢、国民の分断を煽る手法、ポピュリズム主義、傍若無人な物言いなど、オルレアン大統領のモデルは明らかにアメリカのトランプ前大統領。そのオルレアン大統領役を反トランプの姿勢を明確にしていたメリル・ストリープが演じているというのもシビれるが、彼女はこれでもかというほど愚かな大統領を演じきっており、トランプ政権への痛切な皮肉にもなっている。
科学的根拠に基づき地球滅亡の可能性を真剣に訴えるミンディ教授とケイトが最初、国からも相手にされず、メディアでもネット上でもまったく信用されず“ネタ”扱いされ笑われる。さらに選挙のことしか頭にない政治家と、ビジネス的な利益しか頭にないカリスマCEOが手を結んだことが禍し、地球を救えた彗星撃墜計画が中止されて、結局、地球は滅亡を迎える。映画を見る側の私たちはミンディ教授たちが正しいことを知っているだけに、政治家やメディア、そして一般市民たちの愚かしさが歯がゆいが、その一方で、現実世界で起こり得る話だというリアリティもあり、だからこそ背筋が寒くなる。“笑いながらも怖い”という奇妙な感情に、見ている私たちは揺れ動かされる。
バッシュCEOと大統領が主導し実施が決まった、彗星表面にたくさんのドローンのような小型爆弾を着陸させ、それを爆破させて小さく分割した塊をすべて海に落下させてレアアースとして活用するという計画を聞いたミンディ教授が、真顔で“科学者による査読はあるのか?”と聞くシーンに、この映画のすべてが凝縮されているように感じた。
見る人によって、パニック映画でもあり、終末映画でもあり、コメディ映画でもあり、ホラー映画でもある本作。だが、ラストでミンディ教授とケイト、オグルソープ博士は、ミンディ教授の自宅で家族たちとワインを飲みながら“最後の晩餐”をすごすなかで地球の滅亡を迎える一方、その2万年後にハイテク宇宙船で人間が生きられる別の惑星に到着したオルレアン大統領やバッシュCEOたちは、未知の動物の群れに襲撃され、大統領はあっさりと命を落とす。地球滅亡の瞬間を描いたシーンはなんとも言葉では言い表せない映像だが、こうした人間ドラマを最後に持ってくるマッケイ監督には、脱帽という言葉しかない」
この年末年始、お薦めの一本といえるだろう。
(文=編集部)