太平洋戦争開戦のきっかけとなった1941年(昭和16年)の日本軍によるハワイ真珠湾攻撃から80年目を迎えた12月8日、ハワイ・オアフ島では犠牲者追悼式典が行われたが、その2日前の同月6日に放送された報道番組『news zero』(日本テレビ系)は「真珠湾攻撃から80年…103歳元搭乗員語る」という特集を放送。キャスターの嵐・櫻井翔が真珠湾攻撃に参加した元搭乗員の吉岡政光さんへインタビューを行ったのだが、そのなかでの櫻井の「アメリカ兵を殺してしまったという感覚は?」という質問が議論を呼んでいる。
目的を知らされないまま空母で日本を出航してハワイに向かい、途中の海上で真珠湾奇襲攻撃の計画を知らされたという吉岡さん。そのときの心境について櫻井に聞かれ、
「これは大戦争で“お前たちは死んでくれ”ということだなと。要は決心しなくちゃならない。23歳の若造が死ぬということを決心するということは、大変なことですよ」
と当時を振り返った。続けて、攻撃機からアメリカ軍に向けて魚雷を投下した際の気持ちについて聞かれると、
「魚雷を落としたからには、自分のは当たってもらいたいですよね。だから、そればっかり一生懸命やって眺めて。魚雷が当たったということで、非常に安心しましたけど」
と語った。そして櫻井は「戦時中というのはもちろんですけど、アメリカ兵を殺してしまったという感覚は?」と質問。吉岡さんは一瞬、言葉に詰まるような様子を見せながらも、少し間をおいて、次のように語った。
「私は“航空母艦と戦艦を沈めてこい”という命令を受けているんですね。“人を殺してこい”ってことは、聞いていないです。したがって命令通りの仕事をしたんだ。もちろん人が乗っていることはよくわかっています。しかし、その環境というと私も同じ条件です。ですけども、それとは切り離すと、戦争はしちゃいけないということを一番身をもって知っているのは、私たちだと思っています」
最後に吉岡さんは櫻井から「真珠湾から80年たつ今、若い世代に伝えたいことはありますか?」と聞かれると、
「戦争というのは一番、人が死ぬんですよね。戦争だけはやめたほうがいいということは、私たちが一番よく知っているんです。だから私の話を聞いてもらってね、少しでも人が人を殺しちゃいけないということを頭の芯から覚えるように、助けになれればいいなと思っている」
と語った。
「そういう事聞かないならインタビュー自体無意味」
「戦争の話をしますと、顔を知った人が浮かんでくるんです」という理由で、これまで真珠湾攻撃での体験を語ってこなかったという吉岡さんの貴重な証言を引き出した櫻井だが、「アメリカ兵を殺してしまったという感覚は?」という質問に対しては、ネット上では放送直後から次のように批判的な意見や、逆に理解を示す声があがっている。
<事象の表面だけを捉えて自己満足する質問。少なくとも「国のため」に命をかけた人への敬意は感じない>(原文ママ、以下同)
<国の為に自分の人生すべてを捧げるような時代に産まれて戦争に向かった人に、僕はこのセリフは言えない>
<敵兵を殺すことが国のためになると言われていた当時の日本兵に、現代の感覚で失礼極まる質問>
<それまで戦争体験を語る事が無かった、その意味を理解してたら、とてもそんな質問は出来ん>
<仮にこの質問を要望した人が居たとしても、何の疑問も持たず言うのは流石に考え無しの行動と思われても仕方ない>
<その前の質問から「魚雷で相手戦艦を沈める任務を受けて、その向こうにいた米兵の事を考えられたか」の意>
<多分戦争未経験の人間が兵士に対して一番聞きたい事だろ そういう事聞かないならインタビュー自体無意味>
<「現代の感覚で聞く」至極当然の事だと思うよ>
<この質問に問題があると騒ぐのは、戦争が殺し合いだと言う現実から目を背けてるからだよ>
<命令とは言え人を殺したこととどう向き合ってるんやってことやろ>
<別に問題ないでしょ。逆に忖度して質問するべきではない>
キャスターとして聞くべき質問だった?
「局内でも特に問題にはなっていない」と言う日本テレビ関係者は、次のようにみている。
「報道番組の戦争特集という枠のなかで、戦争の悲惨さを訴えるために決心して出演いただいた元搭乗員の方に聞く質問としては、あってしかるべき質問では。この質問を受けたときの、この方の表情や言葉から、戦争を知らない世代の視聴者が感じ取ったものはあると思う。
もちろん質問項目については櫻井とスタッフの間ですり合わせはしているが、本番ではインタビューの流れからどういう質問をするのかというのは、櫻井次第。櫻井は『zero』以外でも五輪関連や選挙特番などでキャスターを務めることが多いが、アイドルとはいえ自分でもかなり入念に事前の下調べをして挑むタイプ。外国人とのインタビューのために本格的に英会話の勉強もしている。今回の質問も、少なくても“タレントゆえの勉強不足”から出た質問ではなく、櫻井なりにすべき質問だと考えたのだろう」
また、全国紙記者はいう。
「嵐の活動休止発表の会見で『無責任じゃないかっていう指摘もある』と質問した記者が批判を浴びた際、櫻井は直後の『zero』で“あの質問は必要な質問だった”という意味合いのことを言っていたと思うが、今回の質問も櫻井なりに“キャスターとして聞くべき質問”という判断だったのでは。
実際に櫻井の質問を受け、元搭乗員の方は『命令通りの仕事をした』『その環境というと私も同じ条件です』と語り、一民間人が国の命令で人の命を奪わなければならない境遇に置かれるという戦争の悲惨さを視聴者に伝える結果となっていたし、その後のご本人の『戦争はしちゃいけない』という反戦の言葉につながっていた。その意味でも、櫻井の質問は“必要な質問”だったと思う。少なくても、インタビューを見れば、その文字面どおりに単に“人を殺す気持ちはどういうものか?”という意味合いで聞いているわけではないことは明らかだろう」
(文=編集部)