フジテレビ系の月曜夜10時から放送されている『アバランチ』は、謎のアウトロー集団・アバランチの活躍を描いたピカレスク・アクションドラマだ。
アバランチの所属メンバーは元公安の羽生誠一(綾野剛)、元内調の山守美智代(木村佳乃)、元警視庁爆弾処理班の打本鉄治(田中要次)、元自衛隊・特殊工作部隊「コヨーテ」のレンジャー・明石リナ(高橋メアリージュン)、元捜査一課の警察官・西城英輔(福士蒼汰)、そして謎のハッカー・牧原大志(千葉雄大)、の6人。
アバランチは大物政治家とその関係者の汚職をネット動画で暴露し世間から注目を集めていくのだが、彼らの真の目的は内閣官房副長官の大山健吾(渡部篤郎)を裁くことだった。
本作はカンテレ(関西テレビ)制作のドラマ。これまでカンテレのドラマはフジテレビの火曜夜9時枠で放送され、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』や『大豆田とわ子と三人の元夫』といった作家性の強い個性的なドラマを多数輩出してきた。
今回から月曜夜10時枠に移動となったが、カンテレドラマらしさは健在で、この『アバランチ』も攻めた映像とストーリーに仕上がっている。
チーフ監督として作品を束ねるのは、映画『新聞記者』の監督として高く評価された藤井道人。東京新聞所属の記者・望月衣塑子の著書『新聞記者』(角川新書)を原案とする本作は、とある女性記者が内閣情報調査室の若手エリート官僚と共に、内閣府の官僚の自殺事件を調べるうちに政府の闇を知ることになるという社会派サスペンス映画だった。
森友学園への国有地売却と加計学園の獣医学部新設にまつわるスキャンダルをベースにつくられた物語が政権批判だと公開時に賛否を呼んだ『新聞記者』は、第43回日本アカデミー賞の最優秀作品賞を筆頭に、各映画賞を総ナメ。今後はネットフリックスで藤井監督がドラマ化することも決定している。
『アバランチ』と『新聞記者』の共通点
今回の『アバランチ』は、藤井監督が手がけていることもあってか『新聞記者』と共通する要素が多い。
まず一番の魅力が、テレビドラマでは破格と言える力の入った映像。綾野剛や高橋メアリージュンが見せるアクションの殺陣も決まっており、民放のプライムタイムのドラマでこんな硬派な映像が観られるのかと、毎週驚かされている。
もともと、カンテレのドラマは外部の映画監督や映像作家を積極的に起用しており、画面のルックが他の民放ドラマとは大きく違うのが魅力だった。
今回の『アバランチ』も藤井監督のこだわりが随所に見られ、説明を廃した重苦しい映像がダークな世界観とマッチしている。しかし、映像の隅々まで集中して視ることが要請されるため、ついていけない視聴者を振り落とす敷居の高さにもなっている。
このあたりは悩ましいところで、映画のような映像が達成できているからこそ「テレビドラマにふさわしい映像なのか?」という疑問も抱いてしまう。おそらく本作は放送終了後に配信等でまとめて観たときの方が、理解しやすいだろう。その意味で良くも悪くも映画的な作品だと言える。
対して脚本は、各キャラクターの描写が説明不足で設定を活かしきれていないと感じた。
『アバランチ』の魅力は、法で裁けない悪を違法な手段で罰するアウトロー集団の活躍だ。彼らは権力者のスキャンダルを暴くことで社会的地位を失墜させるのだが、これは過去の差別発言や不道徳な行為をSNS等で晒すことで、セレブや芸能人の地位を失墜させる“キャンセルカルチャー”と同じ行為だと言える。
だからこそ、アバランチが大衆のヒーローになっていく過程には妙な説得力がある。しかし、ターゲットとなる存在が悪徳政治家とその一派ばかりなので、どうしても物語の幅が狭く感じてしまう。また、それぞれのエピソードにアバランチのメンバーの過去がからんでいるという展開が続くのも単調に感じる。
このあたりは1クールという短さゆえに生まれた弱点だろう。1話完結に徹し、もっと悪役のバリエーションを増やした方が、ドラマとしては広がりを持ったのではないかと思う。
物語は折り返し点に入り、羽生たちがアバランチを結成した目的が明らかとなった。そして、第6話冒頭ではアバランチにテロ容疑がかけられ、羽生が全国特別指名手配になるという急展開を迎えた。
おそらく本当に描きたいのは、これからの話なのだろうが、展開が早急すぎて節々の描写が極端になっているように見える。『新聞記者』も政治批判に走るあまり最後は極端な陰謀論になってしまったのが残念だったが、『アバランチ』も同じ轍を踏まないか心配だ。
ネット動画を用いた悪人討伐というアイデア自体は素晴らしいのだから、結論を急がずに、アバランチが悪党の罪をネットで晒すというキャンセルカルチャーのエンタメ化に徹した方が良かったのではないかと思う。
難しい題材ゆえに、どうにも不満も多くなってしまうが、それでも本作が意欲作であることは確かだ。きな臭い時代だからこそ、国家権力を私物化する者たちへの批判をエンタメとして描くドラマは今後必要である。だからこそ『アバランチ』には成功してほしい。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)