「コアターゲット」「コア視聴率」……。それまで聞き慣れなかった名称が一気に広まったのは、今年6月、ダウンタウン・松本人志がツイッターで言及したことがきっかけだった。
同月12日に放送された『キングオブコントの会』(TBS系)の世帯視聴率を報じるネットニュースに対し、2日後の14日にツイッターで「ネットニュースっていつまで“世帯”視聴率を記事にするんやろう?その指標あんま関係ないねんけど。。。」と異論を唱えたのだ。
その約5時間後、松本は「補足」として、再び「コア視聴率が良かったんです。コア視聴率はスポンサー的にも局的にも世帯視聴率より今や重要な指標なんです。そのコア視聴率が3時間横並びでトップやったんです」と投稿した。
『キングオブコントの会』は世帯視聴率でいえば6.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だったが、個人視聴率は4.1%だった。
“コア偏重”で時代劇は永久追放?
ただ一口に“コア視聴率”といっても、その層の範囲や呼称は各局によって違う。フジテレビは男女13~49歳を「キー特性」と呼んでいるし、TBSは男女4~49歳を「新ファミリーコア」と定義し、視聴者の若返りを図っている。30年以上続いていた『噂の!東京マガジン』を4月からBS-TBSに移行させたのは、その象徴的な事件だろう。
また、男女13~59歳を「ファミリー層」と呼んで重点ターゲットにしているテレビ朝日も、46年続いた『パネルクイズ アタック25』を9月末で終わらせている。
この概念をいち早く取り入れ、主流にしたのは日本テレビだが、同局では男女13~49歳を「コアターゲット」と呼んでおり、その偏重は強まっている。たとえば、2022年に30周年を迎える旅番組『ぶらり途中下車の旅』。
以前まで同番組のリポーターとして出演していたのは、なぎら健壱(69歳)、太川陽介(62歳)、さらに金子昇(47歳)といった男性の旅人が多かった。また、女性の旅人としては、もっぱら元フジテレビアナウンサーの小島奈津子が出ていたが、今年8月14日には峯岸みなみ、10月30日には神田沙也加、11月13日には高橋ユウと、若い女性の登場回が多くなっており、視聴者の入れ替えを図っているように見える。
「すでにそれぞれシリーズは終了していますが、『水戸黄門』(TBS系)や『暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)といった、ゴールデンの定番だった時代劇も今や風前の灯火。各局がこぞって生放送でオンエアしている長時間にわたる大型音楽番組でも、演歌歌手の出演はごくわずかです。厚生労働省の施設等機関である国立社会保障・人口問題研究所の推計では、3年後の2024年には初めて50歳以上の人口が5割を超えるというスーパー高齢社会の到来が予測されていますが、その巨大マーケットを地上波はみすみす捨てていることになります」(テレビ局関係者)
意外にコア視聴率も高い『笑点』
そんな変化を余儀なくされるテレビ業界にあって、ほぼ無風状態と言っても過言ではないのが『笑点』(日本テレビ系)だ。1966年5月15日にスタートし、今年で55周年を迎えた、日曜夕方の大長寿番組だ。日常にも溶け込んでいる「座布団1枚!」というフレーズはこの番組が発祥で、もちろん「大喜利」の元祖的番組でもある。
今や、いかに早く本編に入り、視聴者を食いつかせるかに知恵と工夫を凝らすテレビ業界にあって、オープニングのテーマ曲が長々とかかり、着物を着た出演者が順々に登場し、座布団に正座し、うやうやしくあいさつをするというフォーマットは、この番組を置いて他にはない。ユーチューブで育っている若者の視聴率を心配してしまうが、それは杞憂だという。
「たとえば11月7日放送の視聴率は世帯13.3%で、個人7.6%。そしてコアは3.4%と、予想以上の数字を残しているのです。しかも、このコア視聴率は続く『真相報道 バンキシャ!』の3.8%と遜色ない(世帯13.1%、個人7.8%)。他の週も3~4%は確実に獲得しています。他局では『アタック25』や『東京マガジン』などの長寿番組が撤退する中で、これは稀有な例と言えます。
ちなみに10月24日は世帯13.1%、個人8.5%。M3(50歳以上男性)層が13.7%と圧倒的なパイを占めるものの、M1(20~34歳男性)は3.1%、M2(35~49歳)も4.7%と、壊滅的な数字ではない。さらにF1(20~34歳女性)は2.6%ですが、F2(35~49歳女性)は5.7%と高視聴率なのです。なお、F3(50歳以上女性)は 13.0%となっています。ちなみに、コア層をがっちりつかんでいる『スクール革命!』の同月24日も、F2=6.1%でした(世帯6.7%、個人3.8%)」(同)
時代に取り残されながら100年続く番組に?
『笑点』は5代目司会者として活躍した桂歌丸が2016年に勇退し、6代目に春風亭昇太が就任した。それに伴い、林家三平が10年ぶりの新メンバーとして加わったが、それ以外の面々は不変だ。それなのに、いったいなぜここまで幅広い層に受け入れられているのだろうか?
「まずは、幼少期に祖父や祖母と一緒に見ていたという、連綿とした歴史が強い。成長していくにつれて番組から離れていくが、ある年齢になると、その良さにもう一度気づくという、遺伝子レベルで刷り込まれているプログラムと言えます。さらに、幼い子どもにもわかりやすい。色分けされた着物を着て、キャラが際立った噺家たちが珍妙な回答をし、座布団をあげたり取られたり……。
そして、昭和、平成、令和と時代が変わっても、ほとんど何の手も加えてこなかった番組が、かえって新鮮に映るのでしょう。無形文化財的なレア感というか、その特異性が逆に人を惹きつけるわけです。歌丸の勇退後、史上最年少司会として昇太が抜擢された理由は、番組が100年続くことを目論んだからとも言われていますが、それもまったくの絵空事とは言えないかもしれません。時代に取り残されたレトロ感は、時を経るにつれて、ますます輝きを増していくはずです」(同)
もちろん、今に至るにはさまざまな試練や試行錯誤があったという。古参のファンには知られた話だが、初代司会の立川談志がブラックな答えを歓迎することに反発した当時のメンバーが全員降板したり、当初は座布団に座ったままのオープニングだったものの、事前に打ち合わせした感が強く動きがないということで、4代目司会の五代目・三遊亭円楽のときから音楽に乗って登場するようになった、など。また、時事ネタや流行語をお題に取り入れるなど、常に新鮮に映るための工夫もしてきたことだろう。
いずれにしても、コアターゲットを追い求める日テレの“最後の良心”とも言える『笑点』は、次の50年も見据えている。
(文=編集部)