暴力、パワハラ案件で7月末から調教停止中だった木村哲也調教師の正式な処分が18日、JRAから発表された。日本中央競馬会競馬施行規程第147条第20号に該当するとして、令和3年7月29日から令和3年10月31日まで調教を停止するというものだった。
この処分に対し、現場の記者からは“意外”という声も出たようだ。
「正直に言うと少し短いのかなと感じました。過去に似たような事例がないとはいえ、半年という線が1番濃いという雰囲気でしたから……。
ここでも新聞記者の予想がいかに当たらないかが分かりましたよ(笑)。当の本人はコロナ禍ですし、毎日どこに行くでもなく家で反省の日々を過ごしているようです」(競馬記者)
JRAからは馬主や厩舎スタッフへの連絡禁止、牧場回り、挨拶などは固く禁止されているため、関係者との接触を遮断しているらしい。
これとは別件で調教停止中だったのが大竹正博調教師。謹慎の期間中は全く関与せず、趣味に没頭していたとも聞いた。噂では農業をやっていたのではなんて話も出ている。
そのため、大竹厩舎の番頭である岩藤調教助手が、馬主や牧場への報告や出走登録など全てを1人でこなしていたという。その大変さは想像を絶する程で、調教師と調教助手の仕事を兼務していて昼寝の時間すらなかったと噂されるほどの激務だったとのこと。
「今週から大竹師が復帰するので、今はホッとしていると思いますよ。彼は以前から調教師試験を受けているようですし、今回の件でJRAからの評価もかなり上がったのでは?既に厩舎を回していたという実務経験を積んだ訳ですから、数年後には岩藤厩舎が誕生しているかもしれませんね」(同)
一方、競馬ファンが気になるのは、処分を受けた調教師の懐事情である。一時的とはいえ、他厩舎に管理馬が転厩するわけだから、自身が謹慎中に “元管理馬” が賞金を稼ぐわけである。その行方はどうなっているのか興味も湧くが、ほぼノーダメージらしい。
実は、この件についてJRAから特別な扱いが施されているというのだ。
「対象期間中、引き受ける調教師にはJRAから別の通帳が渡されるんです。自厩舎の馬と引き受けた馬、それぞれが稼いだお金は、別々に振り込まれます。引き受けた調教師の収入になると思うファンもいるようですが、そうではなく停止期間が過ぎた後に通帳を本人に渡すそうです。
もしかしたら感謝料などは別で渡すかもしれませんが、それは個人間の判断であって実際のところ、そういった取り決めはないです。ですから、引き受けた側は面倒な事ばかりで得はありません」(同)
実際、引き受けた側の調教師への指示は勿論、どのレースに使うのかも口を出したり出来ない。とはいえ、公には自分の管理馬となっているのため、「知らないとか、俺のところの馬ではない」と言う訳にはいかない。
「現場ではそういった事情も忖度して取材するのですが、中には『凄く強かったですね、先週の新馬!あの馬はG1級でしょ。ちなみに次はどのレースを予定しているのですか?』とステルナティーアについて本気で聞いてきた記者もいたそうです。
同馬は、木村厩舎の2歳の看板候補でステルヴィオの妹。大抵の記者は分かっていると思いますが、例え木村調教師だとしてもノーザンの管轄であり、次走に関しても使い分けなどもあって明言する事は無理でしょう」(別の記者)
質問された岩戸孝樹調教師も戸惑ったようだが、こういった事例は珍しい訳ではなく、手塚貴久調教師も勝つ度に周りから『おめでとうございます。あ、でも臨時でしたっけ?などと祝福を受けたり、馬主などからはメールなどで『最近はよく勝っていますね。調子がいいみたいだからウチの馬もお願いします』なんてこともあったそう。
一時的な代打とはいえ、対象期間が終了すると、自厩舎の管理馬ではなくなるのだから、紛らわしいというか、分かりづらいことでもある。
引き受けた側の調教師としては、これといった旨味もないため、とんだとばっちりかもしれない。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。