全国的に梅雨が明け、いよいよ本格的な夏が到来した。
夏といえば夏休み。「あの頃はよかったなあ……」と、遠い目で学生時代の夏休みを思い返す競馬ファンもいるかもしれない。
そんな学生時代を振り返ると、夏休み前に1学期最後の締めとして手渡されたのが“通信簿”だ。楽しい夏休み前に、過酷な現実を知らされた筆者には、嫌な思い出しかない。
まさにこの時期に手渡される“通信簿”だが、そこで今回は、3月にデビューした8人の新人騎手たちの“通信簿”を記してみた。
デビュー以来の騎乗ぶりから「心・技・体」にクローズアップ。精神面、技術面、そして体力面の観点から“通信簿”のように5段階で評価。また、学校での生活態度も記されていた“通信簿”に倣って、ひと言コメントも添えている。
なお、この評価はあくまでも筆者の独断と偏見で評したもの。競馬ファンのなかでも騎手批評については賛否両論、いろいろな意見があるだろう。その辺りはご了承願いたい。
永野猛蔵騎手(美浦・伊藤圭三厩舎所属)
精神面:4
競馬ファンにすっかり定着した感もある「タケゾー」騎手。競馬関係者の血縁はおらず、自らの強い意志でJRA騎手になった過程を知ると、相当なメンタルの持ち主と推測できる。
技術面:5
新人騎手はその減量特典を活かした逃げ・先行騎乗が多いなか、永野騎手は16勝のうち4勝も、最終4角で7番手以下からのマクリ勝ちを決めている。技術的にも「追える」騎手だ。
体力面:4
ダート戦で定評ある永野騎手。ダートで「追える」騎手である以上、ルールの範囲内でムチを連打する“腕力”の強さが求められる。フィジカル面でもさらなるパワーアップに期待。
横山琉人騎手(美浦・相沢郁厩舎所属)
精神面:4
現在118鞍に騎乗して、1番人気に騎乗したケースはわずか3回。そのうち2勝している点は、人気のプレッシャーに潰されないタフなメンタルの持ち主と評価したい。
技術面:3
「もともと障害騎手になりたかった」と公言している横山琉騎手。まだまだ騎乗数が少なく、技術は未知数も、平地と障害の“二刀流”ジョッキーに変貌する可能性はある。
体力面:3
障害騎手を目指すなら、まずは平地競走で体力・技術を磨く必要があるだろう。障害飛越を華麗にこなすには、それ相応の身体のバランスが重要となる。ケガに強い身体づくりも必要だ。
小沢大仁騎手(栗東・松永昌博厩舎所属)
精神面:5
初騎乗初勝利のほか、3月28日には鈴鹿S(3勝クラス)を制して特別戦新人勝利一番乗り。同期のなかで常にトップを走っている印象が強い小沢騎手。先駆者として走り続けるメンタルは、高評価に値する。
技術面:5
ここまで記録した15勝は、トップの永野騎手とわずか1勝差。技術面では同期で一、二を争う存在だ。最終4角で7番手以下からの勝利が3回と、ダートでの差し騎乗が光る。
体力面:4
永野騎手同様、ダートで「追える」技術を伸ばすならフィジカル面の成長は必要不可欠。永野騎手や、角田大和騎手らとの新人最多勝を懸けた“ライバル物語”にも注目したい。
角田大和騎手(栗東・角田晃一厩舎所属)
精神面:5
現在までの騎乗数267鞍は同期最多。その血縁関係も手伝って、毎週たくさんの騎乗馬を得ている角田騎手。なにかと“しがらみ”の多い競馬界で奮闘するルーキーには、強靭なメンタルが見え隠れする。
技術面:3
永野、小沢の両騎手に次ぐ11勝を記録しているものの、2着・3着の多さは気になる点。1番人気に12回騎乗して2勝は、やや寂しい数字だ。「勝ち切る」騎乗技術の習得に期待。
体力面:5
同期最多の騎乗数を誇る角田騎手。調教などを含めると、それだけ乗る体力も必要だろう。日々の体調管理も含めて、将来は幸英明騎手のような“鉄人”になれるか。
松本大輝騎手(栗東・森秀行厩舎所属)
精神面:4
デビュー当時のインタビューでは「同期のなかで一番上手くゲートを出せる自信がある」と豪語。「勝ったほうが目立てる」というコメントも、強心臓の証明か。
技術面:3
最大の魅力とウリは、日本人離れした手足の長さ。日本人には真似できない「大きく馬を動かす」ダイナミックな騎乗技術の習得なるか、貴重な存在なだけに注目したい。
体力面:5
フィジカル面では、同期のなかで“抜きん出た”モノを持っていることは間違いない。JRA史上最長176センチの長身も、じつは178センチまで伸びたという情報もある。
西谷凛騎手(栗東・谷潔厩舎所属)
精神面:3
4月25日に同期最後の初勝利を挙げるも、翌週は体重調整に失敗。騎乗予定をキャンセルする事態となった。その制裁として、5月には騎乗停止の憂き目にあったように、体重管理の失敗は騎手にとってタブー行為。まずは騎手としての心構えや、メンタル面の改善に期待したい。
技術面:2
騎乗数の少なさから、その実力は計れずじまい。師匠である谷潔調教師いわく「身体を作り直す」ため、騎乗停止後は6月まで騎乗を見合わせた経緯もある。なにはともあれ、騎乗数の確保を目指してほしい。
体力面:2
ここまでの騎乗数は、同期ワーストの71鞍。体重を減らすために汗をかき過ぎて“脱水症状”を起こしたと考えられるように、技術面と同じく、体力面も未知数だ。祖父と父に次ぐ、親子3代のJRA騎手である西谷凛騎手には、騎手一家の遺伝子を引き継ぐ“血統面”にも期待したい。
永島まなみ騎手(栗東・高橋康之厩舎所属)
精神面:4
藤田菜七子騎手以来、5年ぶりに誕生した女性ジョッキーのひとり。注目を浴びたデビュー直後は、何かと古川奈穂騎手と比べられることも多かったはず。古川奈騎手の休業後もひとり懸命に奮闘している点は、最大級の評価をしたい。
技術面:3
4勝のうち2勝は逃げ切り勝ち。彼女の武器は、減量特典を活かした、逃げ・先行の騎乗スタイルだ。女性騎手のメリットを活かした積極的な騎乗技術を磨けば、まだまだ勝ち星は増えそう。
体力面:4
ここまでの乗鞍は、2人の男性騎手を超える158鞍。北海道滞在とはいえ、酷暑の夏競馬のタフな環境を乗り切ることができるか。まずはこの夏を“完走”してほしい。
古川奈穂騎手(栗東・矢作芳人厩舎所属)
精神面:5
デビュー直後から活躍をみせ、一躍“時の人”になった古川奈騎手。しかし現在はご存知のとおり、左肩の治療などで戦線離脱中だ。
原因の左肩には、どうやら“脱臼グセ”があったという。当時を振り返ると、レース中に肩の関節が外れて、走行中に関節を嵌め直したようにみえる騎乗シーンを見かけた。精神面でいえば、男性騎手顔負けのガッツは評価したい。
技術面:3
デビュー後に達成した4週連続勝利は、いくら有力馬に騎乗したとはいえ、なかなかできないこと。技術面でもポテンシャルを秘めているだけに、さらなる成長を期待。
体力面:2
騎手にとって「脱臼グセ」は致命傷。リハビリ中はケガに負けない体作りを目標に、ひとまわりパワーアップしてターフに戻ってきてほしい。
リハビリ中の古川奈穂騎手を含めて、過酷な暑さが続く夏競馬で「心・技・体」の研鑽に励む新人ジョッキー8人衆。ここまでを振り返ると、総じてハイレベルな結果と印象を残している。数年後には“黄金世代”と呼ばれているかもしれない逸材揃いだ。
夏競馬を終えて、それぞれがどんな成長を遂げて秋競馬に戻ってくるのだろうか。新人8人の行方を、引き続き見守っていきたい。(文=鈴木TKO)
<著者プロフィール>
野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界に殴り込み。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか追求する。