東京オリンピックとぶつかることもあってか、夏クールの民放ドラマは驚くほど不作だ。
宮藤官九郎、森下佳子、坂元裕二といった人気脚本家の最新作は冬クールと春クールに出尽くしてしまい、NHKも連続テレビ小説の『おかえりモネ』以外は元気がない。ある程度予想はしていたが、ドラマ周りは寂しい状況だ。
だが、こういう時期こそ意外なダークホースが現れるものである。そんな期待を持って見守っているのが、日本テレビ系で水曜夜10時から放送されている『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』だ。
週刊漫画雑誌「モーニング」(講談社)で連載されている秦三子の漫画『ハコヅメ~交番女子の逆襲』(同)を原作とする本作は、交番(通称・ハコヅメ)勤務の新人警察官・川合麻依(永野芽郁)と、問題を起こして刑事課から異動してきた警察官・藤聖子(戸田恵梨香)が主役のコメディドラマ。
警察官になった川合は、真面目に仕事をしているだけで忌み嫌われる職業に嫌気が差し、早くも辞めたいと思っていた。しかし、元刑事の藤と出会ったことで、少しずつ成長していく。
脚本を担当するのは根本ノンジ。最近では『監察医 朝顔』(フジテレビ系)のヒットが記憶に新しいが、幅広いジャンルを手がける多作の脚本家で、今クールは『ハコヅメ』の他にも『サ道2021』(テレビ東京系)に参加している。
物語は、川合の視点で交番勤務の仕事を丁寧に追っていく。一癖も二癖もある市民や体育会系の男刑事たちに川合が翻弄される様子は、ドラマというよりはシチュエーションコントが連なっているような印象だ。
これは、基本的に1話完結の原作漫画の複数のエピソードを並び替えて、ひとつの物語としてまとめているからだろう。1話、2話終了後に漫画『ハコヅメ』の公式ツイッターでは、各話の原作となったエピソードを漫画アプリ「コミックDAYS」で1週間限定の無料公開を行っているのだが、見比べると、ドラマ版が別々のエピソードをつなげてうまくひとつの話にまとめていることがよくわかる。
そのため、交番のような限定された空間で短いやりとりをする場面が続くのだが、こういう場面は役者同士の楽しい掛け合いを見せるにはもってこいである。
交番所長の伊賀崎秀一を演じるムロツヨシは、名バイプレイヤーぶりをいかんなく発揮。藤を演じる戸田恵梨香は、落ち着いた雰囲気のある大人の女性を好演している。何より、2人と対峙しても見劣りしない永野芽郁のコメディエンヌとしてのうまさが印象に残る。
連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK)で主演を務め、10~40代までを演じきった永野は、すでにベテランの風格が漂っているが、まだ21歳の若手。考え方こそ未熟だが優しい川合を好演している。
また、女子校出身で新選組に憧れて刑事になった牧高美和を演じる西野七瀬は華奢な佇まいを見せており、川合、藤、牧高の女子会シーンは一服の清涼剤となっている。
『ハコヅメ』が描く“警察官の仕事”
警察官と一般市民の関係を見せることにドラマは焦点を当てており、事件を題材にした刑事ドラマではなく、警察官の日常を丁寧に追いかけるドラマだというのが、ここまでの印象だ。全体的にユルいトーンだったため、バラエティ番組を見るような気持ちで気軽に眺めていたのだが、次第にテーマが見えてきた。
ひとつは、川合の成長を見守る大人たちのあり方だ。失敗するたびに落ち込む川合を、大人たちが優しく受け止める。特に藤が川合と接するときの距離感は絶妙で、むやみに叱ったりはしないが、かといって甘やかすわけでもない。鋭い観察眼で状況を分析するクールさと、クレームを浴びせられたら警察にあるまじき暴言をこっそり言うというバランス感覚が見事で、「こんな大人でありたいなぁ」と思わされる。
同時に本作は、避けては通れない「警察官の仕事」とも真摯に向き合っている。第2話の後半、コミカルなムードと打って変わり、シリアスで重苦しい展開となる。
同棲する恋人が連続窃盗犯だった女性の家を調べるために、川合と藤は刑事たちのガサ入れに同行する。しかし、藤がタンスを開けて女性の下着を一枚一枚広げる様子を見た川合は、「無理です」「できません」と仕事を拒否してしまう。
謝る川合に対し、「別に謝ることないさ。それが普通だから」「他人の家にズカズカ入って手当たり次第、調べるなんて、普通ならできない」「川合の反応が正常」「慣れちゃった私たちの方がおかしいよ」と言って、藤は川合を仕事から外すが、悩んだ末に川合は仕事に参加。部屋にひとり残される女性に悲しい思いをさせたくないから「犯罪に関するものは一つだって置いて帰りたくないんです」と言って、最後まで丁寧に家宅捜索に取り組む。
この2話の後半で、『ハコヅメ』の印象は大きく変わったように感じる。
市民の安全を守る警察官は、プライベートを暴く仕事でもあるため、恨まれることが多い。そんなつらい場面にぶつかった川合が、何を考え、受け止めるのか? そこを描ききることができれば、本作は新しい刑事ドラマとなるのではないかと思う。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)