数分走って250万円獲得!? 衝撃の錬金術に競馬界も唖然……無念の回避も宝塚記念(G1)ヨシオの挑戦が示したもの

 宝塚記念の出走を目指していたヨシオ(牡8歳、栗東・森秀行厩舎)の回避が決定した。疲労が取れなかったのが理由のようだが、出走を後押しするファンや、グランプリにふさわしくないとするファンと賛否両論あっただけに、今もネット上では様々な声が飛び交っている。

「経済動物の競走馬である以上、賞金を獲得できるチャンスがあれば出走するべき」という意見に対し、「グランプリのG1レースにふさわしい実績がないのだから辞退すべき」と出走に批判的な意見。どちらも一理ある。最終的に宝塚記念は回避となったが、ヨシオのこれまでのチャレンジは、競馬の在り方や競走馬を所有し続けることに関して、大きなテーマを投げかけたと言えるだろう。

 そもそもヨシオのG1レースへの挑戦は今に始まったことではない。昨年のジャパンCに出走し最下位に敗退。そして一週間後のチャンピオンズCにも連闘で出走し、こちらも最下位に大敗している。いずれのレースもヨシオにとって適条件ではなく、ジャパンCは勝ち馬から6.2秒差、チャンピオンズCも3.5秒差と、実際の内容からも実力差は圧倒的であった。

 オープンクラスではダート1200mでしか勝利実績のないヨシオが、芝2400mのジャパンCや、ダート1800mのチャンピオンズCに出走することに異議を唱えるファンも多かった。だがヨシオがこの2レースで獲得した賞金は、最下位であってもジャパンCで250万4000円、そしてチャンピオンズCでも194万4000円だったのである。

 ヨシオが前走出走した栗東S(オープン特別・ダート1400m・10着・出走奨励金+特別出走手当)の合計は89万5000円だった。もし宝塚記念に出走して最下位だった場合、ヨシオが手にする賞金は250万4000円なのである。つまり同じように2桁着順に大敗していても、宝塚記念ならオープン特別の3倍近い賞金を獲得できるのだ。ちなみに仮にオープン特別に出走して同額程度の賞金を手にするには、6着以上の成績が必要となる。

 JRAの預託料(馬主が厩舎に払う管理費)は、1頭あたり月額70万円ほどと言われている。つまりレースに走ろうが走るまいが、厩舎に馬を置いておくだけで毎月70万円を厩舎に支払わなければならない。これは年間840万円という金額であり、サラリーマンの平均年収を優に超える費用が1頭ごとにかかるのだ。一部の潤沢な資金を持つ馬主でなければ、決して安いとは言えないだろう。

 そしてヨシオのように、最初のオーナーである仲山誉志夫氏が亡くなり、今のオーナーに引き継がれたというケースもある。

 現オーナーである岩見裕輔氏は馬主歴3年でもともと1頭しか所有しておらず、いきなり月70万円の負担は小さくないはず。昨年のジャパンC及びチャンピオンズCの2週連続G1挑戦は、管理する森調教師のアイデアだと思われるが、馬主の負担を軽減するという意味では大きな意味があった。実際にこの2レースで獲得した約450万円(馬主の取り分は80%の360万円)は、ヨシオの預託料の約5か月分に該当するからだ。

 今までの考え方であれば、除外を覚悟でダートの1200m戦に登録し、除外されれば次のレースを探すというのが一般的で、次のレースが1か月後やもっと先になるケースも珍しくなかった。

 しかし、それでは馬主は何の収入もなく70万円の預託料を払わなければならず、金銭的な負担が大きい。実際にダートの1200mのオープン特別は激戦区で、3月21日の千葉S(OP)はフルゲート16頭に対し26頭の登録、、4月18日の京葉S(OP)はフルゲート16頭に対し31頭の登録があり、多くの馬が思うように出走できないのである。

 そして何とか出走にこぎつけたとしても、オープン特別なら11着以下であれば賞金は43万5000円(馬主の取り分は約35万円)ほどであり、70万円の預託料を賄うには厳しいのが現実だ。

 しかし宝塚記念のようなG1レースは、11着以下であっても200万円の特別出走奨励金、そして50万4000円の特別出走手当がもらえる。出走するだけで数か月分の預託料を稼げるのだ。

 それに宝塚記念はファン投票のグランプリレース。その中でヨシオはギベオンやマカヒキ、ダノンキングリー、インディチャンプなど並みいる強豪を差し置いて31位の票を集めた。実際に宝塚記念に出走するカデナの2倍以上、シロニイの3倍以上の票を集めており、宝塚記念出走馬の中に入っても8番目の票を集めているのだから、もし出走していたとしても批判されるものではないはずだ。

 オープンクラスに上がって成績が頭打ちの場合でも、レースの選択によってその競走馬の費用を稼ぐことができる意味は大きい。これは競走馬としては現役を続行するチャンスに繋がり、場合によっては引退後にその馬を世話するための費用にもなるからだ。

 そういった意味でもヨシオのG1挑戦は、経済的観点で考えれば非常に大きな意味があった。ルール上の盲点といえるものだが、同馬の負担やファンの感情を抜きにすれば評価されるべきものであり、他の馬主にとって驚きの錬金術とも言えるだろう。

 昨年のジャパンCからチャンピオンズCにおけるヨシオの挑戦は、競馬界では異端児ともいえるものであった。

 しかしヨシオの挑戦を考察することで、競走馬が経済動物であり、その維持管理には多額の費用が必要ということも改めて考えさせてくれた。ヨシオが引退後にどんな生活を送るのか、それはファンには分からない。今言えることは、残り少ない現役生活を全うし、引退後も健やかに余生を過ごしてほしいということ。そしてそのための手段としてG1レースに挑戦するのであれば、それはそれで応援するのみである。(文=仙谷コウタ)

<著者プロフィール>
初競馬は父親に連れていかれた大井競馬。学生時代から東京競馬場に通い、最初に的中させた重賞はセンゴクシルバーが勝ったダイヤモンドS(G3)。卒業後は出版社のアルバイトを経て競馬雑誌の編集、編集長も歴任。その後テレビやラジオの競馬番組制作にも携わり、多くの人脈を構築する。今はフリーで活動する傍ら、雑誌時代の分析力と人脈を活かし独自の視点でレースの分析を行っている。座右の銘は「万馬券以外は元返し」。