TBS火曜22時台の『火曜ドラマ』は、昨年1月期の『恋はつづくよどこまでも』以降、好調をキープしてきた。とりわけ終盤の強さはすさまじく、右肩上がりで最終話を迎えることが定番化していたが、どうも今春の『着飾る恋には理由があって』は雲行きがあやしい。
主演は昨年の大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)で株を上げた川口春奈(26歳)で、横浜流星(24歳)、丸山隆平(37歳)、高橋文哉(20歳)、向井理(39歳)の20・30代イケメンが強力にサポート。さらに、中村アン(33歳)と夏川結衣(53歳)、乃木坂46の新センター・山下美月(21歳)、癒やし系芸人の飯尾和樹までキャスティングのバランスは今春トップクラスと言っていいだろう。
スタッフも、『リバース』『アンナチュラル』『中学聖日記』『MIU404』らを手がけたチーフ演出・塚原あゆ子×プロデュース・新井順子のコンビで不安なし。脚本の金子ありさもラブストーリーの経験豊富なベテランで、昨年も『恋はつづくよどこまでも』をヒットさせたばかりだ。
どこにも死角がなかったはずのドラマが、それほど盛り上がりを見せることなく終わろうとしているのはなぜなのか。掘り下げていくと当作と川口の不運が見えてくる。
イケメンはいるが共感とキュンがない
『火曜ドラマ』の好調を支えてきたのは、主に「ヒロインへの共感」「“キュン”シーン」「イケメン」という3要素だった。そのことは『恋はつづくよどこまでも』『私の家政夫ナギサさん』『この恋あたためますか』『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』を思い出してもらえればわかるのではないか。
その3要素から、あらためて『着飾る恋には理由があって』を見ると、視聴者の支持を集めているのは「イケメン」だけに留まっている。
川口が演じる真柴くるみは、オシャレな服で着飾り、SNSには多くのフォロワーがいて、仕事も華やかで、表参道のオシャレな家に住んで、周囲にはイケメンだらけで、悩みを聞いてくれる年上の女友達やプロのカウンセラーがいて、かわいいボーダーコリー犬と触れ合えて……。ヒロインに共感しようと思ってもできないほど恵まれすぎているのだ。
この点で等身大の役をもらい、共感を得やすかった上白石萌音、多部未華子、森七菜らとの差は大きく、視聴者が「くるみの恋を応援しよう」という気持ちにさせられていない。
また、毎週“キュン”シーンを盛り込んでいるが、それが視聴者にときめきを与えられていない感がある。
たとえば6月8日放送の第8話でも、「くるみがソファで寝た藤野駿(横浜流星)のほほをつつき、目を覚ました駿がくるみの髪を優しくなでる」「思いを寄せ続けた葉山祥吾(向井理)がくるみの顔をのぞきこんで『すっぴん初めて見た』と言われる」「駿と葉山が『遠慮はしない』『はじめに泣かせたのはどっちですか』と自分を取り合うように口論する」「くるみが葉山と自転車で2人乗りして腰にしがみつく」「仕事に没頭する駿をくるみが励まし、愛情を確認し合うようにハグする」などのシーンがあった。
オシャレでカッコよすぎる映像
しかし、最近の『火曜ドラマ』のようにツイッターが盛り上がることはなく、ほとんどネットニュースにもなっていない。そんな寂しい状態を招いている理由は、「映像がスタイリッシュすぎて、視聴者が自分を投影させづらいから」ではないか。当作の大半が「オシャレ」「カッコイイ」と思わせるシーンやシチュエーションで占められ、「熱心に見て感情移入する」というより、「美しいものを鑑賞して楽しむ」というイメージの作品になっているのだ。
それは“キュン”シーンだけではなく、劇中には、モダンでピカピカな家、都会的なオフィス、優雅なボーダーコリー、センスのいいキッチンカーなど、鑑賞して楽しめる「オシャレ」「カッコイイ」ものが目白押し。
とりわけ駿の料理シーンは、同じ塚原あゆ子がチーフ演出を務めた『グランメゾン東京』を思い出させるほど美しい。実際、第8話で登場したメニューは、「サーモンのプディング」「タコのガリシア風」「ガスパッチョ 初鰹、水茄子、ブラータチーズ」「グレープフルーツスープとヨーグルトのソルベ」「夏鱈、ホワイトアスパラ 天火焼き 藁の軽いスモーク」と、まるでレストランのプロモーションビデオを見ているように鮮やかだった。
「作り手が技術に酔ってしまったのではないか」と疑いたくなるほど、オシャレでカッコよすぎて、ラブストーリーに重要な感情移入がしづらくなってしまったのだ。
「どちらと結ばれても幸せ」は確定か
では残り2話で、視聴者の共感を集め、“キュン”シーンでときめかせることはできるのか。
くるみ、駿、葉山の三角関係がどんな決着になったところで、それほどの熱狂は生まれないだろう。2人は天才シェフとやり手ビジネスパーソンである上に、最高峰のイケメンで人柄もいいのだから、どちらと結ばれても幸せに決まっているからだ。事実、これまでネット上のコメントでは、駿と葉山の人気がほぼ同等レベルだった。
むしろ、これまでのスタイリッシュ路線を極めて、クライマックスではこれまで見たことがないくらいの「オシャレ」「カッコイイ」シーンを見せるほうが大きな反響を得られるのではないか。塚原監督と新井プロデューサーのコンビならそれを実現するだけの力があるだけに、最後にアッと驚かせてくれるかもしれない。
そしてTBSは、主演ながらイケメン中心のコンセプトで目立ちにくく、損な役回りになっている川口に、主演らしい見せ場を用意するべきだろう。第8話のラストシーンは、「駿と葉山が全力疾走で愛するくるみのもとに向かう」という恵まれすぎたものだったが、残り2話では試練を与えて奮闘する姿を見せたいところ。そんな姿を見せて、くるみの恋と仕事を応援したくなるムードが生まれたら、最終話のクライマックスは盛り上がるはずだ。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)
●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。