ラジオドラマ『お父さんはお人好し』で、12人の子どもを持つ母親役を務めることになった竹井千代(杉咲花)。5月3日(月)~7日(金)放送のNHK連続テレビ小説『おちょやん』では、ラジオドラマ内でも現実でも本当の母親になれるよう努め、着実に女優の道を歩み始めた。
栗子が死去、千代と春子は本当の親子に
『お父さんはお人好し』の第1話は、藤森家の次男・清二の結婚式当日に花嫁が消えてしまうというドタバタ話。全員の息もピッタリ合って物語が進む中、千代は効果音のドラの音を怖がる子役の介抱をしていて出番に遅れてしまい、台本を2ページ丸々飛ばしてしまう。
出演者や制作スタッフに緊張が走るが、夫役の花車当郎(塚地武雅)のアドリブのおかげで、無事に放送された。その後も好評を得て、半年が過ぎる頃には、千代はすっかり肝っ玉お母ちゃんが板につき、みんなのチヨ子お母ちゃんとして、一躍人気女優となった。
一方、千代と離婚した天海一平(成田凌)は相変わらず台本が書けないでいた。そんな中、鶴亀株式会社の熊田(西川忠志)に新えびす座の三周年公演で新作を下ろすように言われ、稽古場に松島寛治(前田旺志郎)を呼び出した。
一平は、自分はもう限界だと打ち明け、代わりに次の台本を書いてほしいと頼む。すると、寛治は怒りをこらえきれず、つらそうな一平を見て座員たちも苦しんでいる、今の状況から逃げずに自分が抱えていることを脚本にしろ、と叫んだ。そして、それでもダメだったときは引導を渡すと告げた。
―――
ある日、『お父さんはお人好し』の1時間の特別番組が決まった。その打ち合わせで、五女・静子役の祥子(藤川心優)が「今度は自分が活躍する回にしてほしい」と訴え、会議室に不穏な空気が流れる中、脚本家の長澤誠(生瀬勝久)が盲腸で入院するという報告が飛び込んできた。
お見舞いに行った千代は長澤の体を心配するが、長澤は特別番組を無事に放送することだけを考えていた。戦争で傷ついた人を慰めて、もう一度前を向いて歩き出してほしいという気持ちを込めて脚本を書いていることを知り、千代は全力で芝居することを誓った。
―――
その日、京都の自宅へ戻ると家の前に祥子の姿があった。厳格な家庭に育った祥子は、学校の成績が下がり始め、両親から芝居を辞めろと言われたため、千代に助けを求めに来たのだった。祥子は一晩泊まることになり、千代はなかなか寝付けない祥子に、ちゃんと両親と向き合って自分の思いを伝えるように慰めた。
次の台本の読み合わせの日、祥子は両親と話し合い、『お父さんはお人好し』が終わるまでは役者を続けることを約束したと報告した。
―――
長澤の調子は芳しくなく、なかなか台本が完成しない中、特別番組の放送当日を迎えた。
家を出る前に、上田栗子(宮澤エマ)は再び千代に花籠を渡した。そして、水野春子(毎田暖乃)は間違いなく血のつながった姪であり、これからも守っていってほしいと頼んだ。すると、千代は「血がつながっていようといまいと関係ない。春子は大事な家族やから、一生守る。栗子さんもそうや」と伝えた。
完成した特別番組は、戦争未亡人となった次女の乙子に縁談が舞い込んでくるという話。乙子は再婚を決心するが、戦死したと思っていた旦那の為雄が帰国したことで縁談を断り、藤森家は新たなスタートを切ることになった。
心温まるストーリーに、聞いていた岡福や鶴亀新喜劇のメンバー全員が泣き笑い、一平は脚本を書くために再び筆を手にした。
―――
特別番組がNHKの聴取率で1位を獲得してからしばらくして、栗子がこの世を去った。
千代は春子を養子に迎えて、ちゃんとした親子になりたいと伝えた。春子が「死んだお母ちゃんとお父ちゃんのことを好きなままでええ?」と聞くと、千代は二つ返事で快諾し、2人は本当の親子になった。
『桂春団治』に出演した浪花千栄子の思い
先週、幼少期から積み重なってきた苦労や不幸が、最後の最後で大きな幸せとなって返ってきた。スカッとするような千代の快進撃に、SNSでは喜びの声がたくさんつぶやかれた。今週は、いつしか千代にとって禁断の場所となってしまった道頓堀へ戻る。そして、トラウマを乗り越えて鶴亀新喜劇の舞台に立つという話だ。
史実では、千代のモデルとなった浪花千栄子は、一平のモデルである2代目渋谷天外が書いた映画『桂春団治』に出演している。千栄子は花菱アチャコとの共演をきっかけに映画女優となり、替えの効かない唯一無二の役者として、次から次に映画出演の依頼が舞い込んだ。その中のひとつに『世にも面白い男の一生 桂春団治』があったのだ。千栄子は私情を挟まずに、これを引き受けた。
これだけを聞くと、不倫の末に離婚した夫への恨みはすでになくなっていたように思われるだろうが、そうではない。千栄子と夫婦だったときの2代目渋谷天外は金遣いが荒く、20年間ずっと借家住まいだったが、再婚した途端に家を購入した。これが気に食わなかった千栄子は必死に貯金をして嵐山に土地を買い、家を建てた。そして、「竹生(ちくぶ)」という旅館を開き、養女にした姪(弟の娘)と共に経営。近隣には、茶屋なども開いていたという。
一国一城の主となった千栄子は、その後も意欲的に映画やドラマに出続け、オロナイン軟膏(大塚製薬)のCMで日本中の誰もが知る存在となった。そして、昭和48年に消化管出血により66歳で死去。その後、勲四等瑞宝章を受章した。
『おちょやん』がどんな終演を迎えるのか、しっかりと見届けよう。
(文=安倍川モチ子/フリーライター)