先週1日、西谷凜騎手が新潟1Rで騎乗馬ビートザオッズの斤量51kgに体重を調整することができず、脱水症を発症したため乗り替わりとなった。この騎手変更の制裁として、15、16日の開催2日間の騎乗停止処分が科された。
今年3月にデビューしたばかりのルーキーとなる西谷凜騎手。新人の体重制限といえば、176cmと一般的にも長身にあたる松本大輝騎手が心配されているが、そんな“超大型新人”を差し置いての“減量失敗1号”に、一部関係者などの間では「5月病」などと揶揄する声もあるようだ。
ただ、栗東のトラックマンの話によると「父親も背が高く170cm以上あって、本人も3kg減で騎乗する間は減量に苦労するだろうと思われていた矢先だった」と話している通り、西谷凜騎手も166.5cmとジョッキーの中では大柄な部類に入る。
実際、本件の前にも減量が上手くいかずに制裁金1万円の処分を受けていた西谷凜騎手。師匠の谷潔調教師からも「父親も大きいから体重管理は注意するように、無理し過ぎて体調を崩したりしないように気をつけなさい」と注意があったようだが、今回はまさにそんな悪い予感が的中した結果となったようだ。
「先週のスイートピーSをタガノパッションで勝って、オークスの切符を手にした3年目の岩田望来騎手もデビュー当初は体重調整に失敗し、体調不良として何度も急遽の乗り替わりがありました。
彼ら新人騎手の多くは18、9歳ですから、まだまだ成長期。2年目の泉谷楓真騎手は見た目でわかるほどデビュー当初よりも身長が伸びていますし、5年目の坂井瑠星騎手も年々大きくなっている印象があります。
身体が成長して身長が伸びれば当然、その分体重には気を付けなければなりませんし『減量特典はありがたいけど、体重調整には気を付けないと』という若手騎手も最近では珍しくなくなってきています。
こういった体重調整のトラブルは101勝以上して減量特典がなくなるまでの若手騎手を中心に、今後も増えていくと思いますね」(栗東トラックマン)
まだ実績のない新人や若手騎手は、1鞍でも多く乗って経験を積みたい立場。当然ながら騎乗依頼を簡単に断ることはできず、例え体重的に厳しい斤量であっても実績のない騎手を指名してくれた馬主や陣営の気持ちを思えば、なおさら断ることなどできないという。
ただ逆に言えばそういった風潮が、今回のようなトラブルを引き起こしている側面もあるようだ。
「もし減量を理由に騎乗依頼を断ろうものなら『新人のくせに減量も出来ないなんて情けない』『依頼を断るなんて生意気だ』と受け取る関係者もいますから。競馬村は狭いところですし、そういった悪い噂はあっという間に広がったりするもの。最近は大きな子も増えましたし、減量特典が諸刃の剣のようになっている騎手もいます」(同)
そんな中、関係者や識者の間で年々声が大きくなっているのが、斤量基準の見直しだ。
実際に文科省の学校保健統計によると、令和元年における17歳男性の平均身長は170.6cmだが、1948年にはちょうど10cm低い160.6cmだったそうだ。ちなみにBMI(ボディマス指数)が示す適正体重では170.6cmが64.03kg、160.6cmが56.74kgと約7kg以上の差がある。
その一方で、例えば先週行われた天皇賞・春(G1)における牡馬の斤量は58kgであり、これは73年前にあたる1948年と変わっていない。これだけを見ても、JRAが時代の流れに即していないのではと思ってしまう。
「日本人が大きくなったのは食生活の欧米化が進んだからと言われていますが、例えばフランスのダービーは日本ダービーよりも1kg重い斤量で行われていますし、凱旋門賞の古馬の牡馬は天皇賞・春よりも1.5kg重い59.5kg。イギリスの夏競馬の祭典・キングジョージ6世&QESに至っては60.3kgで施行されています。
今や日本人の食生活や身長が世界基準になりつつある以上『斤量も世界と足並みを揃えていいのでは』という声は確実にありますね。特に、ハンデ戦の軽ハンデや、若手騎手の減量特典など、斤量の最低ラインの引き上げは急務だと思います」(競馬記者)
実際に日本競馬に参戦する外国人騎手の多くは、無理な減量はパフォーマンスの低下を招くとして「54kg以下は乗らない」「56kg以上しか乗らない」というジョッキーも珍しくないという。
現行のルールを守れなかった今回の西谷凜騎手を庇うつもりはないが、若手騎手を守る、そして騎手を目指す少年少女の可能性を広げるという意味でも、時代に即した斤量の見直しはあっていいはずだ。
(文=大村克之)
<著者プロフィール>
稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。